前衛がセンターサービスラインをまたぐように立ち、ラケットを構えてグッと深く腰を落とす。
サーバーもセンターマーク近くに立つので、二人のポジションは縦に直線状に並ぶ。
それは、アルファベットの「i」の字の形状にちなみ、“アイ・フォーメーション”と呼ばれる陣形。
ウィンブルドンの女子ダブルスを戦う柴原瑛菜とアジア・マホメッド組は、この攻撃的陣形を頻繁に用いて、1、2回戦ともにストレート勝ちで駒を進めている。
ストレートへのリターンを読み切ったかのように、アイ・フォーメーションからボレーを決める柴原=2回戦から
アイ・フォーメーションの特性は、ネットの中央に立つ前衛が、どちらに動くか相手に読ませない点にある。あるいは、相手のリターンをストレートに打たせ、後衛の得意な形に持ち込む狙いで使うこともあるだろう。
いずれにしても根底にあるのは、自分たちから仕掛ける攻撃的姿勢。そして、流動的な動きの中で互いをカバーする、連携とコミュニケーション力だ。
今の柴原はこれらいずれにもおいて、絶対的な自信を持つ。
契機となったのは、先月の全仏オープン混合ダブルス優勝だ。特に手ごたえを得たのが、「サーブとネットプレー」だという。
ボレーの返球をスマッシュで決める柴原。高いボールも苦にしないのが持ち味だ=2回戦から
さらにコミュニケーション力は、人懐っこい性格にも根差した柴原の武器。今年3月から組み始めたモハメッドとは、「最初からコミュニケーションは良くて、いっぱい話しながら試合ができている」という。加えるなら、「サーブとストロークが良い」というパートナーへの信頼が、柴原の前衛での大胆なプレーを可能にしているだろう。
芝のコートのダブルスでは、攻撃が鍵になる。
「やっぱり芝は、展開が早い。そのなかで相手を考えさせ、迷わせることが狙い」
アイ・フォーメーション多用の意図を、柴原はそう説明した。
昨年は、青山修子と組んでベスト4まで勝ち上がった思い出のウィンブルドン。
今年はパートナーの変更とともに、チームとしての戦術、そして自らのプレーの幅も広げ、そのさらに先を目指す。
【柴原瑛菜(しばはら・えな)】
1998年2月12日、米国カリフォルニア州生まれ。USオープンJr.ダブルスで優勝し、名門UCLAでも単複で活躍した。2019年に国籍を米国から日本に変更。今年の全仏オープン混合ダブルスで頂点に立った。
【アジア・モハメッド】
1991年4月4日、米国カリフォルニア州生まれ。長身を利したサーブとストロークが武器。父親は大学バスケの元スター選手、弟はNBAプレー経験もあるというアスリート一家の出自。
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