「今は50代をエンジョイしている感じです」と語るのは、女優の南果歩(58)。
近年とくに活躍の場を広げており、’22年は「人は何度でも再生できることを実証する本」として自身の半生をつづったエッセイ『乙女オバさん』(小学館)を出版。そして、12月には初めて手がけた絵本『一生ぶんの だっこ』(講談社)が発売されたばかりだ。
女優としても躍進しており、自らオーディションを受けて、アメリカのアップル社が制作した米ドラマ『Pachinko パチンコ』への出演を射止め、カナダで行われた撮影に挑戦。日々、新しいことに挑める理由を尋ねると、「一人になったから」なのだと話す。
’95年に作家でミュージシャンの辻仁成(63)と結婚し、1男をもうけるが、5年後の’00年に離婚。シングルマザーとして奔走するなかで俳優の渡辺謙(63)と出会い、’05年に再婚した。結婚当時は、家族中心の生活だったという。
「そのときは、家族のために何かするということが私にとっての喜びだったので。人生にはいろいろな季節があって、今は自分のために生きる時間なのかなと思います。子育ても終わりましたし、24時間自分のために使える。“20代に戻ったような時間割”を楽しみながら、創作活動に励んでいます」
いきいきと語る一方で、「私の50代は本当にいろいろあったので」と続ける。南が52歳だった’16年に乳がんが発覚、手術後すぐに仕事復帰するも体は悲鳴を上げていたという。そんななか、’17年に渡辺の不倫が報道されるとマスコミに追われるなど生活は一変。心身ともに大きなダメージを受け、重度のうつ病を患った。
「喜怒哀楽もない“無”のような状態で、未来のことなんてまったく想像もできない。奈落の底にいるような感覚でした」
心がどんどん疲弊していくなか、環境や見える景色を変えようと、息子が在学中のアメリカ・サンフランシスコの友人のもとへ。時間をかけることで少しずつ自分を癒していくことができ、「自分らしく生きるために」と、離婚を決意したのだという。
「答えが出てくるまでは、やっぱり苦しいですよね。これからずっと一人なのかな、という将来的な不安もありました。大家族で育ちましたし、一人で食事するのも苦手。パートナーと生きるほうが自然だという思いもあるので、離婚を決意することとは別に、孤独とともに生きるというのも大きな決断でした。『もう失敗したくない』という気持ちが強かったので最後まで悩みましたが、『離婚は失敗ではなく勉強だった』と考えよう。そう思って一歩を踏み出しました」
■子育て、読み聞かせ…すべてが今の自分の栄養に
そして今は“おひとりさま”を謳歌。3度目の結婚については、「『したい』とも『したくない』とも、何も考えていません」と続ける。
離婚という大きな節目の直後、友人たちの集まりをきっかけに、南にとって初めてのバンドを結成。アマチュアのコピーバンドとして、スタジオ練習やライブ披露など大人の本気遊びを楽しんだ。
息子の結婚という、うれしいニュースも。さらに、南と辻の子供である息子は、辻のもう一人の息子である“ハーフブラザー”と親交があり、フランスへ旅行に出かけた際には、息子夫婦とともに南自身もパリにある辻の自宅に招待され、食事をともにしたという。
「息子が『会うんだけど、どうかな?』と言うので。私もフランスにいるのに断るほうが不調法だと思い参加したのですが、息子にハーフブラザーがいて、兄弟のつながりがあることをうれしく感じました」
現在、南は息子夫婦と同居。干渉しすぎないよう、ほどよい距離感を楽しんでいるという。
「私の人生と息子の人生は別ですし、別の時代を生きている感覚ですね。私がサポートできることやアドバイスがあればするけれども、息子が無事に社会に出ていくまでが自分の役割だと思っています。とにかく、元気でいてくれることだけが私の願いですね」
息子がまだ小さかったころに大切にしてきたのが、絵本の読み聞かせをする時間だった。これが、たくさんの絵本に触れる機会ともなり、東日本大震災以降、東北や熊本地震の被災地、病気療養中の子供たちに向けたものなど、読み聞かせがライフワークに。自身初となる絵本の出版へとつながった。
「形式や場所を問わず、もっと自由に読める絵本を持っておきたいという思いがあり、自分で作ろうと思ったのが出版のきっかけです。息子が小学校高学年くらいのときに、『一生ぶんの だっこ』という言葉を思いついて、詩を書いておいたんです。子育ての間に感じた思いが込められています」
もともと表現することが得意で、女優としての幅広い活躍がそれを物語っている。だが、結婚する以前の20代や30代のころとは、考え方が違ってきているという。
「比べることはないですが、一人の時間ができたからといって、“戻った”というのは違うかなと。20代の体力はないですが、戻りたいとも思いません。今の年代だから見えてくるもの、できることがありますし、経験したことや生まれた感情は、すべて自分の栄養になると思っています」
■「逃げることは恥ずかしいことじゃない」
“奈落の底”から、自己表現を楽しむ人生へーー。大きな転換を果たした彼女の言葉から、“自由と自立”へのヒントが見えてきた。
重度のうつ病と診断され、アメリカへ渡ったことを南自身は「逃げる」と表現したが、決してネガティブな意味ではない。
「自分ではどうしようもない場所から離れて、居場所を変えることで見える景色や入ってくるものが変わり、自分を整えることにつながります。つらいことがあるのは大人だけじゃないですよね。いじめに遭っているならクラスやグループ、学校からも逃げる。まったく恥ずかしいことじゃありません。ここにいたらダメになると思ったら、自分を失う前に逃げることも選択肢の一つです」
大きな出来事だけでなく、つらいことや日々の生活に埋もれてしまった自分を見つけていくことも、精神的な自立への一歩となる。
「『どっちでもいい』『あなたの好きなほうで』というのが当たり前になっているとしたら、『私はこう思う』『私はこうしたい』と、自分の意見をひとつずつ増やしていくことで、自分の輪郭がはっきりしてくると思います。そして、生まれてきた自分の意見を発言していく。自分を取り戻すことが、自立につながるんじゃないかと思います」
以前、テレビ番組に出演していた際に、離婚後、相手に対して「怒りはない」と語っていたことがあった。それについて本人に尋ねると、ネガティブな感情を抱え込まないよう、自分の感情とうまく付き合っていると教えてくれた。
「たとえば『あの人のせいで』『あの人がこんなことしたから』とか、人に対する負の感情を持つことが私にとっては不健康なことなんです。だからいつも、感情をゼロ地点に戻すようにしてきました。好き嫌い含め、どちらかに大きく偏らないニュートラルな状態でいるほうが、私は心地よく過ごせます」
過去に起きたことや、過去の感情にとらわれず、とにかく“今”を楽しみながら生きる。すると、さまざまな発見があるという。
「状況が変わると、新しい視点が生まれ、気づかなかったことが見えてきますよね。どういう道を選んだとしても新しい自分を見つけられます。すると、過去に置いてきたものをふとよみがえらせるようなことがあっても、今は違う自分を生きている。今、『私の人生はもっと面白くなる』と思えています。いろいろな道をたどってきた50代だからなのかもしれません」
これからも“新しい南果歩”の活躍を目にすることだろう。
■“熟年離婚”を考えているあなたへ
解決できることが解決したらお相手と一緒にいたくない、と思うのなら自分の人生を歩むのも選択だと思います。一過性の感情ならばクールダウンしてもいいのかな、とも。ただ、結婚していても、一人になっても、人それぞれにある幸せを見つけるのがいちばんだと思います。
【PROFILE】
みなみ・かほ/’64年1月20日生まれ。兵庫県出身。’84年に映画『伽倻子のために』の一般公募オーディションに合格し、デビュー。12月16日より福島県南相馬市Rain Theatreで行われる谷賢一演出の舞台『家を壊す』に出演。