12月6日、岸田文雄首相(64)が、現在住んでいる東京都・赤坂の衆院議員宿舎から、11日にも首相公邸に引っ越すことが明らかになった。首相が公邸に入居するのは、民主党政権の野田佳彦首相以来、およそ9年ぶりとなる。
「安倍晋三元首相は都内の自宅から、菅義偉前首相は、議員宿舎から首相官邸に通勤していました。野党は長らくこの通勤スタイルを『緊急時に対応できない』と批判し続けてきました」(全国紙政治部デスク)
岸田首相が就任したばかりの10月7日午後、千葉県北西部を震源とする最大震度5強の地震が発生。真夜中の揺れに、首都圏の住民は恐れおののいたが――。
「このとき、首相は発生から11分後に自身のツイッターで政府の速報を引用し、国民に呼びかけました。この直後に官邸に入ったのは、発生から35分後。ただ、菅前首相と比べると『官邸入りが15分遅い』と報じられたりもしました。
菅前首相は官房長官時代から危機管理にあたっていた経験があったからか、緊急時の動きが非常にスピーディーでした。官房長官時代に、走って危機管理室に向かう菅氏を、若い番記者が追いかけてもまったく追いつけなかったという逸話もあるくらいで、首相になってからも健康管理や緊急時対応に気を配っていました。
かたや岸田首相は、衆院選の公示日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射した際、遊説で東京を離れていて、しかも松野博一官房長官も遊説に出かけていたということが『危機管理対応に隙があったのでは』と批判を浴びました。
そうしたこともあったために、岸田首相は公邸への引っ越しを考えていたそうで、“危機管理対応を重視している”という姿勢を改めてアピールする狙いがあるのでしょう」(官邸担当記者)
現在の公邸は2005年に改修を施されている。もともと、1929年に首相官邸として建設された建物だったが、この改修で茶室や和室のダイニングなど外国からの賓客をもてなす部屋が新たに作られ、燃料電池による発電・熱供給システムなどの設備が導入された。
しかし、この公邸には“幽霊が出る”として、永田町でまことしやかに囁かれてきた。
「森喜朗さんが総理だったとき、『寝入りばなに足音がして目が覚めて、寝室のドアを開けたら音が遠ざかっていった』という体験をしたそうです。あと、鳩山由紀夫さんの奥さんの幸さんは、実際に『幽霊を見た』とか……。
“公邸の幽霊”については、ずいぶん昔から話題にこと欠きません。小泉純一郎さんは『幽霊に出会ったことはない、一度会ってみたかったけど』なんて冗談を飛ばしていましたし、入居しなかった安倍さんは、『幽霊が出るから嫌なんです、一緒に住んでくださいよ』と会食相手に話していたそうです。
2013年に、野党が『幽霊が出るとの噂があるが事実か。安倍首相が公邸に引っ越さないのはそのためか』と政府に対して質問主意書を出し、安倍政権は幽霊の噂について、閣議決定をしたうえで『承知していない』と回答しました。その後の記者会見で、官房長官だった菅さんは“幽霊の気配を感じたことはあるか”と問われて、『言われてみればそうかな……』と笑っていました。
かつては『五・一五事件』や『二・二六事件』の現場として、血が流れたこともある古い建物で、銃撃を受けた痕も残っていたほどです。不気味さを感じてしまうのは無理もないのかもしれません」(自民党ベテラン秘書)
だが、そんな“いわくつき”の公邸にわざわざ岸田首相が入居するのには、危機管理上望ましいということのほかにも理由があるというのだ。
■そもそも議員宿舎に入居資格がなかった“疑惑”が
11月29日、岸田内閣閣僚の保有資産が公開された。首相の資産は2億868万円だったが、その内訳を巡って、波紋が広がった。
「岸田首相は、東京都渋谷区、静岡県伊東市、広島市内に土地や建物を合わせて1億7595万円に上る不動産を所有し、定期預金は1千万円と申告しています。妻の裕子さんは、広島県三次市の不動産2273万円と乗用車1台となっています。
一部のメディアから問題視されているのは、渋谷区のマンションの存在です。東京23区内に自宅がある場合、議員宿舎に入居できないと議院運営委員会が定められているためです。規則違反を追及されないように公邸への引っ越しを進めたのではないか、という指摘もあるのです」(与党担当記者)
この渋谷区内のマンションは、首相が外相を務めていた2013年5月にも問題視されていた。岸田首相が保有している物件は、原宿駅からほど近い閑静な住宅地の6階建てマンションの一室。その広さは、約92平方メートルもある。
「2013年5月27日付の『読売新聞』夕刊で、『23区に住居なら都心宿舎ダメ 24議員入居 規制骨抜き』と報じられています。読売の取材に、岸田事務所は『相続した共有不動産で母親が住んでいる。赤坂の議員宿舎には所定の手続きを経て入居している』と回答しています。
議運が定めている『入居基準』には、『都内住居に家族が住んでいて議員本人が住めない』といった理由で、議員宿舎への入居が認められるケースがあります。ただ、議員たちが都心の一等地に、3LDKで月額10万円台という相場よりも低い家賃で住めることは、昔から“好待遇すぎる”と指摘する声は根強いものがあります。
しかも、『日刊ゲンダイ』は11月26日に、岸田首相の母親は昨年5月に亡くなっていて、現在『母親が住んでいる』という理由は通じないと報じています。同紙の取材に岸田事務所は、『入居許可を得て居住しています』と回答しただけでした」(前出・全国紙政治部デスク)
ウェブ上にも、こうした“疑惑”に首を傾げる声が上がっていた。
《都内に億ションをお持ちと、報道されていましたからね。遅かったけど》
《本来なら岸田総理は赤坂議員宿舎には入居資格はなかったはず。野党からの追求を交わす狙いかな》
ある自民党関係者もこう話す。
「一部では“分譲価格は1億円以上”と報じられています。タイミングが悪いことに、いま月額100万円の文書通信交通滞在費についての法改正が議論されている最中です。
総理は公邸に引っ越してしまうとはいえ、“億ション”を所有しながら“特権”を甘受していたという批判は免れません。説明責任を果たさなければ、来年の参院選にも悪影響が出かねません」
新居で引っ越しの荷解きをしながら、岸田首相は旧居について説明を求められるのか――。