(写真提供:宮内庁)
美智子さまは10月20日に、88歳、米寿を迎えられた。その際に発表された文書には、今年4月に約30年ぶりに戻られた赤坂御用地の仙洞御所で、上皇陛下と穏やかに暮らされていることが綴られていた。
「今年は4年ぶりにお誕生日の行事が開かれ、天皇陛下と雅子さま、秋篠宮ご夫妻から祝賀の挨拶を受けられました。仙洞御所での生活は規則正しく、日課として朝夕に御用地内の散策を楽しまれています。また、それぞれ新聞を3紙ずつ読まれ、興味深い記事をお互いに挙げて、感想を述べ合われているそうです」(宮内庁関係者)
今回の文書では、上皇ご夫妻の“朝の音読”という習慣に変化があったことも記されていた。上皇ご夫妻には、東宮御所で暮らされていた約30年前から、多忙なときでも毎朝必ず文章を音読するという習慣があることが知られているがーー。
「これまで、寺田寅彦の『柿の種』や中谷宇吉郎の作品などをお読みになっていたそうです。しかし今回の文書には、上皇さまが学習院初等科で学ばれていた時代の国語の教科書を読まれているということが記載されていたのです」(皇室ジャーナリスト)
2020年のお誕生日に上皇職が公表した文書で、「何度か繰り返されるご質問」「勘違いや戸惑い」といった認知症が疑われる症状が上皇陛下に見られるとして、波紋が広がったことがある。上皇ご夫妻が「小学校国語の教科書」を音読されるようになった背景について、前出の宮内庁関係者はこう話す。
「美智子さまが侍医に相談され、認知機能の低下を緩和、あるいは少しでも回復することにつなげるため、日常生活の中で身近にできることとして取り組まれ始めたのだとうかがっています。
上皇ご夫妻はご在位中に、高齢者医療を専門とする病院や施設などを都内で運営する『浴風会』をたびたび視察されていました。こうした現役時代のご視察で得た経験や知識を、上皇陛下を側で支えられるうえで役立てていらっしゃるのでしょう」
美智子さまが上皇陛下にさまざまな取り組みによって“伴走”されているのは、上皇陛下の母・香淳皇后の晩年のご体調が念頭にあるからだという。
「香淳皇后は60代から認知症の症状が現れ、晩年は昭和天皇がお亡くなりになったことも十分におわかりになられないほどでした。上皇ご夫妻はこの状況などを実際にご覧になっておりました。だからこそご即位後、より体の健康、認知機能のケアをこまやかに意識し、対策を工夫されてきたのだと思います」(前出・皇室ジャーナリスト)
■「ひらがなの多い短文が望ましい」
そして行き着いた結論が「小学校国語の教科書」だった。上皇陛下は学習院初等科6年生のとき、美智子さまは国民学校5年生のときに終戦を迎えられている。お二人が読まれていた教科書は、軍国主義的な要素が強く表れている。
上皇陛下が6年生当時に読まれていた『初等科國語 八』を開くと、シンガポール陥落について言及した章や、日本軍の快進撃をたたえる内容が多数記されている。しかし上皇ご夫妻は、あえてそれらをお読みになられているというーー。
「軍国主義を褒めたたえる内容であっても、避けることはせず、あえてそのままお読みになって、当時の社会情勢などについても語り合われているそうです。
また、上皇ご夫妻はひらがなばかりの低学年の教科書から、漢字が増える6年生のものまで、通してお読みになっているとも聞いております」(前出・宮内庁関係者)
上皇ご夫妻が続けられている音読の習慣について、認知症予防を長年研究し、脳内科医で加藤プラチナクリニック院長の加藤俊徳さんは、こう解説する。
「思い出すという行為は、脳の海馬という部分が関わっていて、ここを使うことで、認知機能の低下を予防することにつながります。小学校の教科書を音読することは、新しい短期記憶だけではなく、昔の長期記憶の両方を循環させることができます。
当時の出来事や感情など、思い出しやすい強い記憶であればあるほど、より脳の活性化が期待できるといえます。記憶を呼び起こす目的であれば、難しい長文よりも、印象深く記憶しているひらがなの多い短文などをじっくり読むほうが、より望ましいでしょう。
そもそも音読は、認知症の方だけではなく、子どもや高齢者にとって脳の認知機能に働きかける作用があるとされています。また、口の周りの筋肉を動かすために嚥下性肺炎などの予防にもつながり、声によって聴覚も刺激されるので、聴覚機能の維持にも役立つ側面もあります」
上皇ご夫妻は、ともに戦中は疎開生活を経験されているが、つらい思い出ばかりではなかったようだ。10月初旬に、美智子さまと電話で話したという古い知人はこう明かす。
「先日お話ししたときは、当時は交流がなかった男子生徒のことまで話題になって、2人で笑いながらお話しさせていただきました。お話しするときは、国民学校時代のことに話が及ぶことが多いです。美智子さまは同級生の氏名をしっかりと覚えていらっしゃって、お話ししていると私もとてもうれしくなってきます」
上皇陛下が生物学研究所にお出かけされるとき以外、常にお側にいらっしゃるという美智子さま。これからも楽しみながら、上皇陛下との“毎朝の音読”を続けていかれるーー。