突然ですが、誰もが遊んだことがあると思われるトランプのゲーム「婆抜き」。同じ数字のペアを作った人はどんどん札を捨てていき、最後までジョーカーを持っていた人が負けという説明不要の遊びですよね。
![](https://scdn.line-apps.com/stf/linenews-issue-947/item-2150562/2e56f8f79f151bb14c9143b9c04bcff58cdda72f.jpeg)
しかし、なんでジョーカーを婆(ババ)と呼ぶのか疑問に思ったことはありませんか?
辞書で引くと・・・
トランプゲームの一。全部の札を配り、順番に隣の人の手札を1枚ずつ抜き、同じ数字が2枚そろえば場に捨てる。最後までジョーカー(婆 (ばば) )を持っていた者が負け
出典:デジタル大辞泉(小学館)
と説明があります。
そもそもジョーカーは何者?
そもそもジョーカーは何者でしょう?
メーカーや時代によってさまざまですが、それは主に「宮廷道化師」を模したものと言われています。要するに貴族相手に様々な出し物をしてパーティーを盛り上げるピエロのような仕事ですね。
そんなジョーカーのカードが創造されたのは意外と歴史が浅く、1872年にアメリカで誕生したとのこと。元々はユーカーというゲームのために作られたカードで、ベストバウワーと呼ばれており、デザインも宮廷道化師ではありませんでした。
それがどのように宮廷道化師になり、またジョーカーという名前になったのかははっきりとはしていません。
「婆抜き」誕生の歴史
では、それまで婆抜きに該当するゲームはどのように行われてきたかというと、クイーンを1枚抜いて51枚のカードを使って行われました。
クイーンが一枚残る様子を婚期を過ぎた女性に例えて、「Old Maid(適齢期を過ぎた独身女性)」という名前で呼ばれていました。まあ、それを直訳すると婆となるわけで、日本では1907年(明治40年)の『世界遊戯法大全』に、「お婆抜き」と訳されて紹介されています。
「クイン抜き」は能く人の知るところであるが、之と同じ事で、「お爺抜き」といふのがある。こちらは四組の王のうち一枚を取りのけて、最後まで王が合わず一枚取り残された人が負け
と紹介されています。
また、同書ではクインでも王でもないカードを一枚抜いておくゲームを「兵士抜き」として紹介しています。ドイツ生まれのこちらのゲームは負けると悲惨で、負けた者は「黒いピーター」といって顔を黒く塗りたくられたそうです。この粗暴さ、なんとなく、軍隊の中で生まれたような感じがしますね。
結局のところ、圧倒的に浸透していたゲーム「婆抜き」の呼称はそのままに、トランプにジョーカーが誕生して普及したことにより、いつしか最後までジョーカーを持っていた者が負けというルールに転化したようです。
婆抜きにしても爺抜きにしてもゲームの根本は同じですが、兵士抜きの方が、最後まで何のカードが足りないかがわからないので、スリルが増しそうです。
それにしても当時女性に向かって婆抜きというのは失礼じゃなかったのかと思いますが、やはりそのように筆者も感じていたのか、本書でも“男の奴等が「お婆抜き」をすれば、女の方々は「お爺抜き」をしてやりなされてはどうです”とお茶目に締めくくっています。
最近はスマホアプリの普及でテーブルゲームを行わなくなってきたかもしれませんが、たまにはコミュニケーションで家族や同僚と楽しむのもいいかもしれません。そのときは、是非ジョーカーを使わずに行ってみてください。
参考文献
- 『世界遊戯大全』(国立国会図書館蔵)
- デジタル大辞泉(小学館)
- トップ画像:月岡芳年画「新形三十六怪撰 老婆鬼腕を持去る図」