KUZUHA MALLもT–SITEもなかった平成2年(1990)。
枚方市駅周辺の再開発で開業するも、時代の波に呑まれ倒産し「もう終わった」と皆が思ったビオルネ。
新たな運営会社による“脱商業施設”が始まって約10年。
ものすごいスピードで『事業の多角化』を進め、見事に逆襲を果たしたビオルネの知られざる裏側に迫る。
第一回
ビオルネヒストリー〜前編〜
第二回
ビオルネヒストリー〜後編〜
第三回
コロナ禍でも140%成長する人気店「KURAWANKA」〜前編〜
第四回
コロナ禍でも140%成長する人気店「KURAWANKA」〜後編〜
第五回
会員数250人超え!関西トップクラスのコワーキングスペース「ビィーゴ」
第六回
なんでドローン!?ビオルネの次なる一手
前回に引き続き、ビオルネを運営管理する枚方パートナーシップス株式会社の代表取締役 岡部宏明氏(以下、敬称略)に話を聞いた。
岡部改革、始動
岡部は平成23年(2011)に、ビオルネの再生を手がけるための新たな運営管理会社を設立。
駅前の好立地という条件を生かすために、どうビオルネを「変化」させるか。
まず取り組んだのが、ドコモショップ、ガスト、ハローワークの誘致だった。
当時、いずれも駅前の利用しやすい場所になく、必要だと考えた。
業界大手や行政施設が入ることで、施設としての信用力を高める狙いもあった。
さらにその3年後には、直営の雑貨店「KURAWANKA」をオープン。
枚方のライフスタイルに合わせ、こだわりのオシャレな雑貨を集めたショップは、施設の魅力を高めてくれると力を入れた。
ちょっとしたギフトが揃っていたり、日々の生活を豊かにしてくれる雑貨が手に入る「KURAWANKA」。
岡部の狙い通り、すぐに枚方の消費者の心を掴んだ。
岡部
「僕がびっくりしたのは、店を気に入ってくれたお客様が、従業員にお土産を持って来てくれるんです。
『休憩中に食べ』ってシュークリーム持ってきてくれる。
これはすごいこと。お客様にとって居心地がいいお店は、もう『私の店』扱いです。
そういうお客様は、きっと外で『あの店いいよね〜』とお話ししてくれてる。特に高齢者の方はね。
そういうのが、他にはない特徴ですね。
やはりこの街はローカルというか、ずっと住んでいる人も多くて、歴史があるので、一度利用して気に入ったら、自分の店のような気持ちになってくれるんですね」
岡部は「枚方ならではの顧客のつかみ方」があると感じたという。
岡部
「小売の一般論で言うと、チェーン店は、オープニングだけで売れるんです。
よく365日分のうち100日分を初日に売ったらそれが成功って言われている。
でもここは、チェーン店でも365分の1か1.5くらいしか売れへん。
その代わり、じっくり上がっていく。
そういった意味では、定着したら非常に強い。地域柄ですね」
かつての同僚を相棒に
再生に向けて岡部が目指した新たな価値。
それは、ショッピングモールではなく、“パブリックモール”への進化だった。
いわば、日常生活を支える場所になることを目標に掲げた。
そして岡部が指摘したもう一つの課題、「施設にかける熱量」。
ものすごい熱量で、スピード感を持って進化を遂げるために強力な相棒が加わることになる。
役員の佐阪航氏(以下、敬称略)だ。
ビブレ時代の元部下で、もう30年近い付き合いだという。
佐阪もやり手だ。
ビブレの母体マイカルが経営破綻した時、佐阪は年商100億円を誇っていた岡山ビブレにいた。
床の8割が空きとなる危機となったが、その後全て埋めた手腕の持ち主だ。
岡部がビオルネの再生に奮闘していた頃、佐阪は吸収されたイオン本社で商品部員として活躍していた。
しかし、サラリーマンとしての限界も感じ始めていた。そんな時に、岡部から誘いを受けたのだった。
佐阪は当時の思いをこう振り返る。
佐阪
「会社にこのままいても何もオモロいことないなって思ってきた頃だった。
いい歳になって、それなりのポジションになってるけど、元々マイカルの人間なんで、イオンではよそ者。
それに、たとえもっと上に上がっていけたとしても面白い仕事ができるという約束はない。
大きな組織なのでね・・・。
なので、岡部さんに『いつになったら辞めんねん?』と聞かれて、『お世話になります』って言いました。
だから、ここでは、やりすぎかなって思う時もあるくらい、やるしかない(笑)」
岡部と佐阪の二人三脚で、「日常生活を支えるパブリックモール」を目指し、急速に多角化を進めていった。
コワーキングスペース、親子広場、ドローンスクールと、手がけた分野は、多岐にわたる。
2021年3月には、ビオルネ5階に企業主導型保育園をオープン。
働き方が多様化している今、親たちがより仕事をしやすい環境を作りたいと、土日の受け入れや、時間帯も要相談でフルサービスを展開している。
もちろん、打つ手全てが成功してきたわけではない。
高齢化に対応した老人ホームの斡旋事業、直営のアウトドアショップ、アパレルのフランチャイズ、飲食店・・・。
いずれも数年で断念した事業だ。
しかし佐阪は、失敗を恐れずに挑戦し続けることが、新たな情報やビジネスチャンスを呼び込むと話す。
佐阪
「失敗はたくさんある。
アウトドアショップはうまくいかなかったけど、まさかコロナでこんなにアウトドアブームが来るとは・・・。
早すぎたんですね(笑)
でも失敗を恐れず、その時出てきた話をほんまにやるから、次々いろんなことが出来るというのはあります。
言ってもやらへんとこにはたぶん情報が来ないけど、ほんまにやるから。
やってやめてやってやめて、『あれあかんかったな』とか言いながらまたやるから、次々いろんな人が『実はこんなんあります』って話を持ってきてくれるんです」
生まれ変わったビオルネ、今後は
「もう終わった」と思われたビオルネ。
外からの見た目はさほど変わらないが、中は驚くほどに変わり、枚方の人たちに愛される場所として日々、進化を続けている。
ビオルネ4階は、新型コロナワクチンの接種会場となっていて、市内最大級の接種数を誇り、地域に貢献している。
2021年8月にオープンした1階の韓国カルチャー店「K-POP TOWN」も品揃えの豊富さで大きな話題となっている。
コロナ禍でもビオルネは、床が空かない状況が続く。
ビオルネの再生を始めて10年。
岡部は、ビオルネは「枚方で一番の老舗」として、この施設を拠点に、施設の外に事業を起こし、枚方全体を盛り上げていきたいという夢を語る。
岡部
「10年経って、新たなビオルネの形ができてきた。
ビオルネは、枚方で一番の老舗なんです。
過去の栄光としての存在感に加えて、40代以上の人に必要なサービスが整うような形にする。
それによって、ナンバーワンのサービスは出来なくても、枚方でオンリーワンのサービスができるんじゃないかなと思っています。
そして、この施設が元気なうちに、施設以外でもできる事業をこの街に一個一個起こしていって、次のステージに向かっていけることが夢ですね」
次回はビオルネの肝とも言える3階の雑貨店「KURAWANKA」の人気の秘訣に迫る。
枚方ビオルネ
■営業時間
地下食品売場:午前9時~午後11時
1~5階:午前10時~午後8時
■住所:大阪府枚方市岡本町7-1
■駐車場:あり
※店舗情報、記事内に掲載している商品、価格等は取材時点のものです。
(制作協力:谷井亜紀)