Netflixの人気ドラマ『ザ・クラウン』シーズン4では、チャールズ皇太子、ダイアナ妃、そしてカミラ・パーカー・ボウルズの熱烈な三角関係が最大のスキャンダルとして描かれているが、英国の歴史ファンから見れば、それはこれまでに繰り返されてきたことの一例にすぎない。
カミラは王室のメンバーと愛人関係になった初めての女性ではなく、彼女の高祖母(ひいひいおばあちゃん)に当たるアリス・ケッペルは、エドワード7世の愛人として有名だった。つまり、チャールズとカミラの高祖父母も愛人関係にあったということ。
そのアリスとはどんな人物だったのか、ここで改めて歴史を辿ってみよう。
アリス・ケッペルはエドワード朝の人気者だった
「フレディ(または浮気性のフレディ)」と呼ばれたアリス・フレデリカ・エドモンストーンは、準男爵でありイギリス海軍提督の父を持つ上流階級の家庭に1868年に生まれた。スコットランドのダントレス城で育ち、23歳でイギリス軍のジョージ・ケッペル中将と結婚。
栗色の髪に白い肌、大きなブルーの瞳、細いウエストに豊満なバストを持ち、美女として名高かったうえ、誰に対しても非常に親切な人物として知られていた。娘のヴァイオレットはアリスについて、「母は明るく、光輝くような女性でした。幸せという名の贈り物を持っているだけでなく、他の人を幸せにするのにも秀でていました。プレゼントでいっぱいのクリスマスツリーのような人物ですね」と語っている。
アリスとジョージはロンドンに移住してトップクラスの社交界に入り、アリスはさらにのし上がるために不倫を開始。金と人脈を生かして社交界のホステスとして成功し、29歳だった1898年、当時56歳だったアルバート・エドワード王子と出会い、彼が英国王エドワード7世として即位してから1910年に亡くなるまでの12年間、愛人として関係を持った。
写真左から:ジョージ、アリス、ヴァイオレット
夫ジョージは、妻と国王の関係を黙認していた
アリスとジョージは、現代の基準からすると型破りな夫婦ではあったが、幸せな結婚生活を送っていた。2人は娘のヴァイオレットとソニア(ソニア・ケッペルはカミラの曽祖母)を一緒に育て、結婚生活は愛と笑いに満ちていたという。
ジョージも何人かの女性と浮気をしており、妻のことを聞かれると「最後に私のところへ戻って来てくれれば、彼女が何をしても構わない」と答えていたという。国王エドワード7世が彼らの自宅に立ち寄るという知らせを聞くたびに、ジョージは静かに家を出て行ったそう。
国王はアリスにゴム会社の株(現代にたとえると約700万ドルの価値)を与え、友人を通じてアリスのための財産を作り、ジョージにはサー・トーマス・リプトン(紅茶で有名な「リプトン」の創始者)のもとで高給の仕事に就かせるなど、愛人関係による恩恵を与えていた。
アレクサンドラ王妃とアリスは、友好な関係を築いていた
「この結婚には3人が関わっていて、少し混み合っていた」と語ったダイアナ妃とは違い、エドワード7世の妻アレクサンドラ・オブ・デンマーク(写真)は、アリスが国王の支えになっていることを知り、国王のかつての愛人だったデイジー・グレンヴィル(ワーウィック伯爵夫人)よりもずっと気に入っていたそう。
アリスは愛人として控えめに振る舞い、国王の常軌を逸した行動を円滑にすることでも知られていた。国王が妻のために動物を模したファベルジェの宝飾品を集めていることを知ったアリスは、それを手伝い、アレクサンドラにぴったりの贈り物を選んだこともあったとか。
王室の方針に大きな影響を与えた
アリスは国王の機嫌を良くするために頼りにされ、信頼できる顧問として自由党とともに多くの行事を主催したことでも知られている。インド総督は「国王が外務省と意見を異にすることが1、2度あり、私は政府の方針を受け入れるために、彼女を通して国王に助言することができました。彼女は国王に非常に忠実であると同時に愛国心を持つ人物でした」と称賛している。
また彼女の兄アーチーは、王室使用人として国王に仕えていたそう。
写真:国王エドワード7世
国王の死後、アリスは宮殿を後にした
アリスはもっと体をいたわるよう助言していたが、国王は体調を崩し、1910年5月6日に崩御。アリスは彼の死の床でヒステリーを起こし、部屋から出される事態となった。
アレクサンドラ王妃は、宮殿にアリスのための住居を作らなかったため、ケッペル一家は数年間旅に出ている。1925年、ジョージ&アリスはイタリア・フィレンツェ近郊にある、ガリレオ・ガリレイがかつて所有していた別荘に定住し、ウィンストン・チャーチル首相をはじめとする英国の著名人を受け入れ続けた。
ロイヤルの愛人たちが宮殿で認められていた最後の時代に生きたアリスは、1936年に国王の孫であるエドワード8世が王位を退位し、離婚歴のあるアメリカ人女性ウォリス・シンプソンと結婚したことに失望していたという。アリスはこの時、「私の時代なら、ずっとうまくやれていたのに」と語ったと伝えられている。
アリス・ケッペルは1947年に亡くなり、56年連れ添った夫のジョージもその2カ月半後に死去した。
写真:2017年、フィレンツェの教会にあるアリスの記念碑を訪ねたカミラ夫人
Photos: Getty Images Translation: Masayo Fukaya