歯を失うだけでなく、口臭の原因や全身の病気のリスクにもなる「歯周病」。60代以降は歯周病が重症化する人も増えてきます。歯周病の原因は、細菌の塊である歯垢(プラーク)と歯石。毎日の丁寧な歯磨きと歯科治療で、歯周病を治しましょう。
歯周病とはどんな病気?症状とは?
歯周病になると歯と歯肉の間にできた溝(歯周ポケット)が深くなります。歯周ポケットが4mm以上ある歯周病の人は、年齢とともに増加し、高齢になると歯を失う人も増えていきます。出典:厚生労働省「歯科疾患実態調査」平成28年
30代以降の日本人の8割以上がかかっているといわれる歯周病。年齢とともに増加し、歯を失う一番の原因になっています。
歯周病は、歯周病菌によって歯肉(歯茎)や歯を支える骨(歯槽骨しそうこつ)が破壊される病気。自覚症状がなく知らない間に徐々に進行するため、歯がグラグラしてきて初めて気付く人も多いそうです。
「なかでも要注意なのが、虫歯もなく、歯には自信があるという人。実は、虫歯と歯周病では原因となる細菌が異なっていて、虫歯の多い人は歯周病にはなりにくく、逆に虫歯の少ない人は歯周病になりやすい傾向があるのです。虫歯がないと歯科医院にもあまり行きませんから、発見も遅れがちです」
歯周病に詳しい若林歯科医院院長の若林健史(わかばやし・けんじ)さんは、こう指摘します。
歯周病は「歯肉炎」と「歯周炎」に分けられます。歯肉炎は、歯肉が赤く腫れて出血する状態。歯周炎は、炎症がもっと進んで、歯と歯肉の間の溝(歯周ポケット)が深くなり、血や膿も出てきます。歯槽骨が溶けて、歯もぐらついてきます。
このような状態を招く元凶が、歯垢(プラーク)や歯石です。
「食べかすに細菌が集まって、トリモチのように歯にペタッとくっついたものが歯垢(プラーク)。そして、この歯垢(プラーク)に唾液中のカルシウムが沈着して、石のように硬くなったものが歯石です。歯石を顕微鏡で見ると、軽石のように多くの穴があり、その穴に細菌が棲みついています。細菌が出す毒素によって、歯周病はさらに進んでいくのです」(若林さん)
歯周病の初期症状・進行の様子
健康な歯は、歯肉が薄いピンク色で、引き締まっている。歯肉に炎症がなく、歯磨きをしても、出血しない。
歯肉炎の状態。歯と歯肉の間に歯垢(プラーク)が蓄積。歯肉に炎症が起こり、赤く腫れる。歯磨きをすると出血する。
歯周炎の状態。歯石が蓄積し、血や膿が出る。歯周ポケットが深くなり、歯を支える骨が溶けて、歯がグラグラする。
歯周病は、糖尿病や心臓病などの全身疾患にも影響する
「ぺリオドンタル・シンドローム(歯周病関連全身疾患)」出典:若林健史
歯周病は、歯周病菌による感染症。軽いうちは菌が歯肉周辺にとどまっていますが、進行すると菌やその毒素が血管内に入り込み、全身を回ることに。この結果、いろいろな病気を悪化させるといいます。若林さんは、これを「ペリオドンタル・シンドローム(歯周病関連全身疾患症候群)」と呼んでいます。
「例えば、糖尿病の人は歯周病になりやすく、また歯周病があると糖尿病が悪化しやすいこともわかっています。他に動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞、肥満、肺炎、骨粗しょう症、認知症なども、歯周病との関係が明らかになっています。これらの病気の予防や改善のためにも、歯周病をしっかり治療しておくことが重要なのです」(若林さん)
虫歯と歯周病の関係は?
歯周病になると、歯肉が徐々に下がり、これまで隠れていた歯の根っこが露出してきます。
「この歯根部は歯表面のエナメル質よりも軟らかく、虫歯になりやすい。甘いものを食べて、歯磨きをせず、そのままにしておくと簡単に虫歯になってしまいます。最近、60代以降の人に増えています」と若林さん。歯の根っこにできる、いわば“大人の虫歯”です。気を付けましょう。
歯周病進行度のセルフチェック・診断
歯肉が赤く腫れる、歯を磨くと出血する、口臭がする、口の中がネバネバする、歯が長くなった……。そんな心当たりはありませんか。これらはすべて歯周病のサイン。
まずはあなたの歯が健康な歯と歯肉なのか、歯周病がどれぐらい進行しているかどうか、当てはまるものをチェックしましょう。
- 歯肉がときどき赤く腫れる
- 歯肉がむずむずしてかゆい
- 歯が浮いた感じがして腫れぼったい
- 冷たいものがしみる
- 歯を磨くと歯肉から出血する
- 下の前歯の裏側に歯石が付いている(ザラザラした感じがする)
- 朝起きたとき口の中がネバネバする
- 歯肉を押すと血や膿が出る
- 口臭を指摘された・自分で臭いと感じる
- 「サ行」の音が発音しにくい
- 歯と歯の間に食べ物がはさまりやすい
- 歯を押すとぐらぐらする★
- 歯肉が下がり、歯が長くなった感じがする★
- 以前とは歯並びが変わったような気がする★
0~2個は健康な歯、歯肉です。3~4個は歯周病の可能性があります。受診をおすすめします。5個以上は、歯周病である可能性が極めて高いです。早めに受診を。さらに★がついている項目すべてが該当する方は、重症の歯周病である可能性が非常に高いので、すぐに治療を始めましょう。
出典:日本歯周病学会、日本臨床歯周病学会『日本人はこうして歯を失っていく』
歯周病の検査とは?
「歯周病の検査をしたことのない方もいると思います。該当する症状があれば、まずは歯科医院を受診することをおすすめします」と若林さん。
歯と歯肉の間にできた溝、歯周ポケットにプロープを挿入して深さを測る。4㎜以上だと歯周病と判断される
検査では、「プローブ」と呼ばれる目盛りの付いた細長い器具で歯周ポケットの深さを測ります。これが3㎜以内であれば正常、4〜5㎜程度なら軽度の歯周病、5〜6㎜ほどあれば中等度、それ以上だと重度と診断されます。このとき、血や膿が出ることもあります。
歯周病の治療方法とは?
では、歯周病と診断されたら、どんな治療をするのでしょうか。「中心となるのは、根本的な原因である歯垢(プラーク)と歯石を取り除く『歯周病基本治療』。歯周病の約8割は、これで治ります」と若林さん。
「歯周病基本治療」は、毎日の正しい歯磨きと歯科医院で行う専門的なケアの2本立て。正しい歯磨きの仕方は次ページで紹介しますが、若林さんはこう助言します。
「出血するからと歯磨きを控える人がいますが、これはダメ。出血しても、しっかりと磨くことが重要です。数か月ほどで歯肉が引き締まり、出血も止まります」
歯周病の治療法:スケーリング
歯科医院で行うのは、「スケーリング」。先の鋭いスケーラーという器具を歯周ポケットに入れて、こびりついた歯垢(プラーク)や歯石を除去します。また、歯根部を滑らかに整える「ルートプレーニング」という処置も。歯垢(プラーク)の付着を防ぎ、歯周ポケットが浅くなる効果が期待できます。
歯周病の治療法:プラップ手術
これらの治療で治らない場合は、麻酔をして歯肉を切り開き、歯周ポケットの奥にある歯石を徹底的に取り除く「フラップ手術」が行われます。ただし、治療後は歯肉が下がって、歯が長くなったように見えることがあります。
歯周病の治療法:歯周組織再生療法
歯の土台となる歯槽骨の破壊が進んでいる場合は、フラップ手術の際に、歯槽骨の再生を促す「歯周組織再生療法」が行われることも。
骨が失われた部分にゲル状のたんぱく質を塗る「エムドゲイン法」と、歯肉と骨の間に人工膜を挿入する「GTR法」などがあります。
- GTR法
人工膜(GTR膜)で壁を作り、歯と失われた歯槽骨の間にスペースを確保し、歯槽骨を再生させる。
- エムドゲイン法
歯肉の増殖は骨の再生を妨げる。そこで薬剤を塗って歯肉の増殖を抑えつつ、骨の再生を促す。
「歯周病の治療は進歩していますが、やはり最も大事なのは悪化予防です。毎日の歯磨きに加え、3〜4か月に1回は歯科でのメンテナンスをおすすめします」(若林さん)
歯周病で歯を失ったらインプラントという選択も
「インプラント」は、顎の骨に人工歯根を埋め込み、その上に人工の歯を取り付ける治療法。失った歯を取り戻す方法として、利用者が増えています。しかし最近、問題になっているのが、「インプラント周囲炎」です。「歯周病と同じように、インプラント周囲に細菌感染が起こり、歯槽骨が破壊されます。これを防ぐためにも、必ず歯周病を完全に治してから、インプラントを入れるようにしてください」(若林さん)
歯周病を防ぐ&治す歯磨き、セルフケアのやり方
歯垢(プラーク)を落とすには、毎日の歯磨きが不可欠。「歯垢(プラーク)は早い人だと1週間くらいで歯石になってしまいます。食べた後は歯磨きを。特に寝る前は丁寧に磨いてください」と若林さん。
丁寧なブラッシングの目安は、1本の歯につき20秒程度。28本の歯が全部残っていれば、合計で約10分かかることになります。お風呂に入りながら、テレビを見ながらの“ながら磨き”でOK。磨き方は以下を参考にしてください。
歯ブラシでの磨き方
1.歯と歯肉の境目に歯ブラシを45度の角度で当て、歯周ポケットに毛先が入ることを意識して磨く
2.軽い力で左右に細かく
3.目安は1か所につき20回
これも大事!
前歯の裏側は、歯ブラシを縦にして磨くのがコツ
歯周病のための歯ブラシ選びのポイント
- ナイロン毛がいい
- 植毛が密なものを (3列が目安)
- 毛の硬さは普通か、軟らかめ
- ヘッドは小さめで
- 柄はストレートのものを
手磨きが難しい人は電動歯ブラシを使いましょう
電動歯ブラシは、効率よく歯垢(プラーク)を落とせる強い味方。「手磨きの約8倍の効果があるといわれています」と若林さん。手磨きで丁寧に磨くのが難しい人は、電動歯ブラシに変えてみては。使い方のコツは、手磨き同様、ブラシを歯と歯肉の境目に当てること、手でブラシを動かさないこと。また、ブラシは上下の表と裏側に30秒ずつ当てるのが目安だといいます。
歯周病を防ぐ&治す歯磨きの仕上げ方
歯磨きに加え、デンタルフロスと歯間ブラシも活用すると、歯垢(プラーク)がよくとれます。歯と歯の隙間が狭い場合はデンタルフロスが、隙間が広くなっている場合は歯間ブラシが適しています。歯の状態に応じて両者を使い分けましょう。1日1回寝る前の習慣として、歯磨き後に行ってください。
「それらが全部終わった後に仕上げとして、殺菌作用のある薬用洗口液で口の中をゆすぐと完璧です」(若林さん)
ここまでケアをすると、翌朝起きたときの口の中のネバネバや口臭が改善しているのを実感できるはずです。
デンタルフロスの動かし方
フロスは両中指に巻き付けて使う。歯肉に少し隠れるまでそっとフロスを入れて動かし、次に歯の側面をこするようにして上下に動かす
歯間ブラシの動かし方
まず表側(頰側)から、歯と歯の間に直角にブラシを入れて前後に動かす。さらに歯の曲面に合わせてブラシの角度を変えながら前後に動かす。裏側(舌側)からも同様に
食事の時間帯に注意!歯周病対策のための生活習慣
「砂糖を多く取ると、歯の表面にネバネバした歯垢(プラーク)が付きやすくなります。また、歯垢(プラーク)に砂糖が取り込まれると、乳酸が発生。この酸が歯を溶かし、虫歯を作ります。歯周病にとっても、虫歯にとっても、砂糖は大敵なのです」と若林さん。
そこで気を付けたいのが、砂糖の取り方。一番よくないのは、甘いお菓子を頻繁につまんだり、飴をなめたりと、ダラダラ食べ続けることだといいます。「おやつなどでまとめて食べて、その後はすぐに歯磨きを。口の中に砂糖がとどまらないようにすることが大事です」(若林さん)。
歯周病に詳しい歯科の“かかりつけ医”を持つ
口の中をしっかり清掃してくれる。丁寧に歯磨き指導をしてくれる。安易に抜歯したりしない――。
歯周病を本気で予防・治療するなら、そんな歯科医を選びたいもの。そこでぜひ参考にしてほしいのが、日本歯周病学会と日本臨床歯周病学会のサイトです。ここでは、学会が認めた歯周病に詳しい歯科医、および歯周病とインプラントに詳しい歯科医を都道府県別に検索できます。歯科にも“かかりつけ医”がいれば安心ですね。
歯周病専門医・認定医を探せるサイト
- 日本歯周病学会 http://www.perio.jp/roster/
- 日本臨床歯周病学会 http://www.jacp.net/general/search/
若林歯科医院院長
若林健史さん
わかばやし・けんじ 1957(昭和32)年生まれ。82年、日本大学松戸歯学部卒業。89年に東京・代官山で開業。2014年、恵比寿に移転。日本大学客員教授、日本歯周病学会理事を務める。歯周病専門医・指導医として、医師向けや一般市民向けの講演も多数。
取材・文=佐田節子 イラストレーション=田上千晶 構成=五十嵐香奈(編集部)、※この記事は、「ハルメク」2019年6月号の記事を再編集しています。