【ドイツ発コラム】フランクフルトと2027年まで5年契約、引退後は指導者転身か
ドイツ1部フランクフルトでプレーする長谷部誠が同クラブとの契約延長を果たした。
1年ではなく、2027年までの5年契約という驚きの長期契約だ。次の1年間をまず選手として、そして現役引退後は指導者としての契約条項となっている模様。だとしてもキャリア終盤にいる選手とこのような長期契約を結ぶという話は珍しい。
日本人初となる欧州トップリーグでの監督誕生の可能性に向けて注目も期待も、これまで以上に高まってきているのではないだろうか。欧州トップリーグで活躍する日本人選手は増えてきている一方で、指導者はなかなかそう簡単にはいかない。
まず現時点で欧州サッカー連盟であるUEFAとアジアサッカー連盟であるAFCとではライセンスにおける互換性で合意に至ってはいない。日本で、あるいはどれだけアジアで結果を残しても、ヨーロッパのトップリーグでチャレンジするチャンスはないのだ。
それならヨーロッパに渡ってライセンスを獲得してから指導するチャンスを掴むことは可能なのだろうか?
これも果てしなく難しい。ドイツを例に挙げると、ブンデスリーガで指揮を執るために必要なプロコーチライセンス(UEFA-S級ライセンス)を所得するのは至難の業なのだ。僕自身、2009年の段階でドイツのA級ライセンスを獲得しているが、その次のステップはいまだにできない。というのも、プロコーチライセンス受講資格として最初に厳しいラインがあるからなのだ。
(1)ブンデスリーガ~3部まででアシスタントコーチ
(2)ブンデスリーガU17、U19チームで監督
(3)女子ブンデスリーガ~2部までで監督
(4)6部リーグ以上のトップチーム監督
(5)地域トレセン代表
上記したポストにA級ライセンス所得後、最低1年間従事していたという証明がなければならないわけだが、当然指導者として上を目指す人はまずみなこのポストを目標に動き出す。どれだけの数がいるかというと、A級とプロコーチライセンス所得者が加入できるプロコーチ連盟(BDFL)の会員が現在約5200人。BDFLは加盟が義務ではないので、実数はもっと多いだろう。それだけの指導者がこの若干数のポストを虎視眈々と狙い合っている。
近い将来、長谷部コーチあるいは長谷部監督を取材する日が来るのかもしれない
この第一関門を潜り抜けた精鋭からさらに選考された25人がプロコーチライセンス講習会に参加できる。それだけではなく、昨年発表された指導者育成システム改革によってさらに難易度が上がったのだ。25人だった参加者は今年16人へ。ドイツサッカー協会の担当者によると12人にまで縮小される予定もあるという。
これに関しては「プロコーチライセンスを所得し、さらにプロクラブのトップチームで監督としてポストをもらえ、そこから成長していけるだけのポテンシャルがある指導者は限られている。これはこれまでの歴史が示している」というのが理由だそうだ。
こうしたS級相当ライセンスの毎年の参加人数に関してはUEFAからの指導もあったことでドイツだけではなく、欧州各国が減少傾向にある。これまで以上にプロで監督をやるための条件を整えることは、どの国でも難しくなってきていると言えるのだ。
逆に言うと、今回の長谷部のようなケースでもない限り、こうした狭き門を突破できる可能性を見出すのは無理なのではないかとさえ思う。それだけに期待が高まるのだ。長谷部なら、ドイツでS級ライセンスを獲得し、プロクラブの指導者としてのキャリアを歩むこともできるのではないかと。
ブンデスリーガの一流指導者が口を揃えて「本物のプロ選手」「誰にとってもお手本」「指導者としてもやっていける」という言葉を残しているから、信じたくなる。そして長谷部が切り開いた道の先に、「日本人指導者という選択肢もありだな」という流れもくるのではないかという夢も見たくなる。
ひょっとしたら近い将来、長谷部コーチ、あるいは監督の試合後談話を目的に取材へ行く日が来るのかもしれない。それはとてもワクワクする話ではないか。
ただ、それは遠くはないかもしれないが、まだまだ先の話。本人の現役への意欲にはいまだ衰えなどないのだから。
フランクフルト最年長出場記録、38歳の長谷部は現在5位 来季2位浮上の可能性も
契約更改当日に自身のインスタグラムを更新した長谷部は、「ちなみに選手として2023年で引退するということは決定事項ではなく、また来年の春ごろにクラブと話し合って決めることになっています」と説明している。
フランクフルトの最年長出場記録を見ると、今年1月に38歳となった長谷部はウリ・シュタイン(39歳5か月17日)、リヒャルト・クレス(38歳360日)、オカ・二コロフ(38歳358日)、ルディ・ボマー(38歳256日)に次ぐ歴代5位。来季後半戦に長谷部が1試合でも出場したら、単独2位に浮上することになる。1位のウリ・シュタインがGKなので、フィールドプレーヤーでは最年長出場記録の達成だ。
そういえば前回契約延長時にこんなことを話していた。
「もう一度CLに出たい。大きな目標ですね」(長谷部)
たぶんまだ諦めていない。走ることを辞めるつもりはまったくない。選手としてのラストコーナーは曲がっているのは間違いないだろうけど、ゴールテープはまだまだ先にあるかもしれない。(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
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