「ふるべゆらゆらとふるべ……」
一人タイムスリップしたかのような和装束の男が、何度も何度もこの言葉を唱えると、両手を合わせた依頼者は突然、床に横倒しになったーー。
男の名前は石田千尋。「現代の陰陽師」と呼ばれ、『奇跡体験!アンビリバボー』(フジテレビ系)をはじめ、『中居正広の金曜日のスマ(現・スマイル)たちへ』『うたばん』(ともにTBS系)といった中居正広のMC番組に何度も出演した。
野村萬斎が主演した映画『陰陽師』(2001年公開)とほぼ同時期にメディアに登場し、「祝詞」を唱える怨霊退治を披露していた石田は、当時の超常現象ブームを牽引していた人物の一人だった。かつての知人はこう話す。
「石田とは一緒に仕事をしていましたが決裂して10年以上、会っていません。今年になって知人から『亡くなったそうだよ』と聞いたんです」
たびたびのテレビ出演に加えて、石田は陰陽道から派生した占いもこなしており、「人生アドバイザー」としても精力的に活動していた。
「当時は非常に羽振りがよく、自宅兼オフィスとして、渋谷に豪邸を購入したんです。でも、そこは買った人が皆、住まいを失う“呪われた家”といわれていまして……」(同前)
不動産登記を確認すると、石田は2008年に1億円以上の価値のある豪邸を購入。しかし、2014年に自治体による差押さえで手放している。
「そのころから、彼に“異変”が見られたそうです。占いの仕事で客と揉めたり、金銭トラブルを抱えたり……。さらにはSNSで外国人差別などのヘイト発言を繰り返すようになっていました」(同前)
石田は自らの名でのアカウントに加えて、「胸形千尋」という名前で3つのツイッターアカウントを開設していた。2013年12月に開設された“初期”の胸形アカウントのプロフィール欄には「トランプ大統領閣下とQと一緒に戦う日本人」とあり、米国を中心に広がる陰謀論「Qアノン」を信奉していることを窺わせる投稿が繰り返されていた。
しかし、最後まで投稿されていた胸形アカウントも、2021年12月29日を境に音沙汰がなくなる。直前には「今日、急に、意識を失い倒れた。」(2021年12月26日投稿)など、体調の悪さを窺わせていた。
北海道に住む石田の叔父は、電話でこう話した。
「千尋が死んだかどうかは知りません。そもそも15年近く、音信不通。親戚とはほとんど縁を切った状態ですよ」
取材を続けるうちに、豪邸を手放した後、石田はA氏という男性のもとに身を寄せていたことがわかった。そこは関東某所の普通の一軒家。
近隣住民に尋ねると「以前は犬の散歩がてら、徒歩20分以上離れた神社にお参りする姿も見たけど、今年になって姿を見ないね」と話す。
石田を“支援”していたA氏を訪ねると、取材に答えた。
ーー石田さんがこちらで昨年、亡くなったと聞きました。
「はい。昨年12月31日にここで亡くなられたんですけど、自分は彼の親族でもなんでもないので……」
ーーご遺族には知らせたのでしょうか?
「警察の方に石田さんの弟さんを見つけていただいて。その後のことはすべて弟さんが片づけていきました」
ーー突然のことでしたか?
「そうですね。僕が見つけたときにはすでに息がない状態でした。なので、警察では『変死』として扱われています。最終的な死因などは、親族でない僕にはわかりません」
A氏はかつて石田の会社で働いており、仕事がなく、住む場所もなくなった石田に部屋を貸したのだという。
ーーツイッターでは体調の悪さを訴えていました。
「それもあって、ここで暮らしていたんです。彼は犬を飼っていたので、犬たちを路頭に迷わせたくないという思いもありました。持病がなんだったのか、なども聞いてないんです。それでも最後のほうはひと目で体調の悪さが伝わったので『病院に行ったほうがいいのでは?』と何度も言ったのですが、通院したがらなくて……。『年が明けたら、病院に連れていきますからね』と言った矢先に亡くなられたんですよ」
遺骨、遺品はすべて石田の弟が持ち帰り、A氏のもとには何も残っていないという。その弟に電話をかけたが「仕事後にもう一度、お電話いただけますか?」と答えて以降、電話に出ることはなかった。
人に取り憑いた悪霊を祓い続けて一世を風靡した陰陽師は、自らを襲う病魔に打ち勝てず、寂しい最期を迎えていたーー。
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