純一 週刊誌になんでもかんでもしゃべったらダメだよ。
壱成 やめよ、その話。
純一 記事のせいで、娘の学校の先生に怒られたんだよ。
壱成 僕には“解離性障害”があって、記憶がないんだよ。
純一 うーん、記憶がないのはわかったけど…マトリとかそういう話は普通の社会ではありえない話なんだよ。
壱成 僕が意識的に話したわけじゃないことは理解していただきたい。申し訳ない。
純一 でも、マトリって言葉はどこから出たの?
壱成 あることないことを週刊誌にチクった人たちがいたんだよ。とにかく僕は「父が心配です」って言っただけ。精神がおかしいなんて話は絶対にしてないから。
純一 まあいいや、元気でやってくれさえすれば。
壱成 園子温監督の件から、いろいろな監督や演出家が叩かれる事態になっていますね。園さんには僕も何度かお世話になっていて、彼のように有能な監督が叩かれて映画を作れなくなってしまうのは残念です。でもあの人、性別は関係なくて、僕も口説かれたくらい(笑)。だから実際はそこまで深刻な話ではなくて、“見え方”が悪かったんだと思う。
純一 もともと、監督と女優の恋愛沙汰っていうのは昔からあったわけだしね。
壱成 いちばん何を守りたいかっていうと、園さんの才能ですね。ある行為が断片的に切り取られたのだとしたら、不運だったと思います。
純一 でも最近の問題を見ると、女性側の目線も考えようよと俺は思うけどね。たとえば、新人さんとか弱い女優さんの立場は気遣う必要がある。「え、こんなことをしないと役をもらえないの?」みたいになっちゃうと、可哀想かな。
壱成 逆に男のほうも不憫で、普通に相手に恋をしてるだけの場合もあるから。園さんの場合は、特にそうだと思う。
純一 なるほどね。今は女性が強くなって訴えられるようになったのはいいこと。ただ、男が被害者の場合もある。俺は若いころ、業界関係者の女性に「私とヤッたら、このCMに出してあげるわよ」って言われたことがある。外国映画も含めて監督や俳優に迫られ、何度も怖い思いをした。そこで思ったのは、「嫌なものは嫌」ってこと。俺はこういうのはやれないと、自分の中に規範ができたんだ。だから、無理やりは絶対できない。
壱成 純粋なファン目線でいえば、園さんの中にモチベーションがなくなり、新しい作品が観られなくなってしまうと残念ですね。結局、ファンがいちばん損しちゃうのかな。
壱成 僕なんて、昔はぶっ飛ばされっ放しでしたよ(笑)。『ひとつ屋根の下』のときなんか、ADに「お前、その芝居なんだ、コラァ!」とか言われるわ、大道具さんにも「そんなとこ、立つな!」とか。パワハラの連続でした。
純一 マジ!?
壱成 マジっすよ、野島組(『ひとつ屋根の下』『未成年』『聖者の行進』の脚本家・野島伸司氏のドラマ班)では(笑)。でも、そのくらいモノ作りに熱かったんですよ。下手なこいつを、ある程度まで引き上げなきゃいけないっていう演出的な必要性もあったろうし。昔もそうでしょ?
純一 撮影所では殴り合いだもん。松田優作さんがね、照明さんに「お前、何やってんだ、テストと違うじゃねえか」って言われて、「なんだ、この野郎」と食ってかかり、取っ組み合いになったのを見た(笑)。
壱成 僕はドMだから、そういう熱さが好きで(笑)。
純一 役者も監督もやる某大物なんて、まず現場で私語がダメだからね。芝居のことを話すのはアリだけど、飲みに行こうとか、昨日ジャイアンツがとか、そういうのは絶対にダメ。もう、現場がシーンとしてたからな。女性にも覚悟を持って接してたね。女優を自分の部屋に呼んで、まず脱がせるんだよ。
壱成 すごいなあ……。
純一 いやいや(笑)。要するに、もう生半可な気持ちでやられたらたまんないと。覚悟ができてないから脱げと。それで裸で正座させて……シュールな絵なんだけどさ(笑)。でも、それくらいの熱量だった。まあ、やりすぎなんだろうけど。ただ、彼の中では一本筋が通っているから、相手も納得してた。撮影現場はスポーツと同じでチームプレーだから、最初はある程度統制が必要で、そのうち自分で考えて動けるようになるんだよ。
壱成 今、役者を育成しようと思って演出をやっていて。やりすぎなくらい動いているものを止めるのは簡単だけど、動かない人から表現を引っ張り出すのって大変なんですよ。だから、まずは体の動かし方から教えるんです。ボディが動けば気持ちも乗ってくるから。指示待ちで受け身になられると、俳優としてよくない。
純一 絶対そう。
壱成 だから、演者がやりやすくしてあげたい。振り付けるのは簡単ですが、それだと相手が成長しないから。自分で演じるのも楽しいけど、今は次世代を作るのが目標だね。
純一 目標か。自分はもう、出るのはいいかな。
壱成 えー、観たいっすよ。
1989年放送の『君の瞳に恋してる!』(フジテレビ系)の一場面。純一はバブル期の“トレンディドラマ”で大活躍
純一 もともと俺は演出をやりたくてアメリカまで行って、この世界に入ったわけだから。これから映画を撮る予定。結果はどう出るか、やってみないとわからない。運は多少あるんでね。じつは1988年9月に、当時の所属事務所のマネージャーになることが決定していたんだ。あんた売れないからやめたほうがいいって社長に言われて。それが、『抱きしめたい!』(フジテレビ系)に出演する予定だった人が突然降板し、俺にその役がまわってきて、ドラマがハネて今がある。
壱成 僕もその映画で使ってもらえるように頑張りますよ。
純一 壱成は天才だよ。それはみんな思ってるし。壱成には、ロバート・デュヴァル(『地獄の黙示録』などに出演した現在91歳の俳優)とか、溝口健二監督の映画にも出た進藤英太郎さん(600本を超える作品に出演した昭和の俳優)みたいになってほしい。進藤さんはいい人の役もやるし、セクハラ豪商みたいな役も天下一品。なんでもできる息の長い役者になってほしいんですよ。
壱成 父はすごく努力家だと思う。たとえば、役作りのために資料を読みこんだり、バックグラウンドを調べたりと、読書家。そういう姿勢は、ホントに尊敬します。
純一 とにかく、壱成には健康で楽しくやってもらえればいい。評価というのは変わるものだし、過去に評価されたことが重荷になる人もいる。ああ俺、落ちぶれちゃったなぁと、苦しみになるというか。でも、俺はそういうマインドではないので、一日一日できることをやるだけ。叩かれて本当にどん底だったのは、「不倫は文化」発言のころだよ。
壱成 なんであんなに叩かれたんですかね。シェークスピアとか、不倫を題材にした作品はたくさんあるのに。
純一 あのときも文学のことを言ったんだけど、そこは記事にならないんだもん。俺がとくに言いたかったのは、オペラの登場人物なんて、まともなやつは一人もいないということ(笑)。ほぼみんな変態やバカ野郎で、だからおもしろいんじゃない、と。それを否定したら、ほぼすべての音楽や文学が成り立たなくなる。とはいえ、今の風潮には逆らえないから、残された時間を大切にして、映画を撮るためにも有効に使っていくよ。
壱成 僕は後進を育てながら、自分の演技にも磨きをかけていきます!
石田純一
1954年生まれ 『抱きしめたい!』(フジテレビ系)などのバブル期の“トレンディドラマ”に数多く出演し、一世を風靡。1996年にモデル・長谷川理恵との不倫が報じられた際の「不倫は文化」発言で非難を浴びる。2009年に東尾理子と結婚
いしだ壱成
1974年生まれ 純一と最初の妻・星川まりさんとの息子。脚本家の野島伸司氏が手がけた1990年代のドラマ『ひとつ屋根の下』『未成年』『聖者の行進』などに出演し人気を博す。2021年12月、3度めの離婚を発表
撮影協力・バーンキラオ パラダイス