トランプ大統領の任期が、1月20日で終了する。任期終了後に弾劾裁判がおこなわれる予定だが、それと並んで大きな注目を集めているのが、膨大な数の未払い訴訟である。
トランプ氏が主張していた「不正選挙」をめぐる裁判は、元ニューヨーク市長である顧問弁護士ジュリアーニ氏が中心になっておこなわれた。だが、トランプ氏はジュリアーニ氏への報酬支払いを中止し、連絡も取り継がないようスタッフに命じたという。
1月14日には、側近のジェイソン・ミラー氏が、ツイッターアカウントを閉じられた大統領の言葉を自身のアカウントからツイート。そこには、「ジュリアーニは愛国者で素晴らしい男だ。我々はアメリカの市長が好きなんだ」とあったが、報酬はどうしても支払いたくないらしい。
当のジュリアーニ氏はいまも不正選挙にまつわる主張を続けており、大統領の弾劾裁判でも自身の事務所が弁護するつもりでいたと報じられている。
報酬がどこまで済んでいるのかはわからないが、ジュリアーニ氏の報酬は1日2万ドル(約208万円)とされる。いくら著名な弁護士とはいえ、未払いは大損害だろう。
トランプ氏には、以前から「未払い」の噂がついて回る。トランプ氏の関連会社は、少なくとも1980年代から多くの金銭問題を引き起こしており、巻き込まれている訴訟数は3500件以上だとされている。
たとえば、トランプ氏の別荘があるフロリダ州のリゾート施設「マー・ア・ラゴ」では、皿洗いの従業員が超過労働ぶんが支払われていないと訴え、3年分、80万円弱の料金が払われた。
フロリダのゴルフ場「トランプ・ナショナル・ドラル・マイアミ」では、ペンキ業者への未払いで裁判となり、業者は2年以上たってようやく報酬を得ている。
トランプ氏の不動産会社と20年以上付き合いのあるニューヨークの不動産ブローカーは、7700万円ほどの取次料が未払いだとし、最終的に契約より低い料金で合意した。
トランプ氏はかつてインタビューで、「仕事が満足いく出来でなかったり、時間がかかりすぎたり、終わらなかったら、報酬から差し引く。絶対に」と答えている。納得いかない仕事には支払いを制限するのが、常套手段なのだ。
未払いで泣いているのは業者や労働者だけではない。アメリカでは選挙キャンペーンで各地を遊説するが、その際の警備費などは、後日、自治体から請求書が送られる。
テキサス州のエルパソ市は、2020年2月の遊説にかかった5000万円以上の経費を回収するため、弁護団を雇ったところだ。ニューメキシコ州のアルバカーキ市は2000万円以上、バーモント州のバーリントン市は88万円ほどが未回収である。
ただし、警備費に関しては双方の事前契約がない限り、必ずしも払わなくていいそうで、歴代大統領のなかには支払った人とそうでない人たちがいるそうだ。
未払い問題で有名なのは、ニュージャージー州アトランティックシティでのカジノ建設費用だ。アトランティックシティは、ラスベガスに次ぐ第2のカジノ都市として大勢の観光客で賑わっていた。
トランプ氏は1980年代から「トランプ・プラザ」「トランプ・キャッスル」「トランプ・タージマハル」と大規模なカジノを次々とオープンしたが、米国東部でカジノが合法化されたことで、客の数が激減、トランプ氏の事業は破綻した。
トランプ・プラザで、受付用デスクやキャビネットの設置に関わった業者は、40万ドルで仕事を請け負ったが、請求書を提出後、他の業者と一緒に呼ばれ、「仕事の質が悪いから払えない」と言われた。
しかし、同時に「ほかのプロジェクトで働かないか」との誘いもあったそうだ。相談した弁護士からは、取り返せる額より裁判費用の方が高くつくだろうと言われ、訴訟は断念。3代続いた事業は破産となった。
3つ目のカジノ「タージマハル」の建設に関しては、253の下請け業者で合計72億円ほどが未払いとなっている。支払い交渉に際して、業者の請求額1ドルに対し30セントでどうかと、トランプ氏側から打診があったという。 業者の多くは低収入の職人で、多くがその額で了承せざるを得なかった。破綻した業者も数多い。
そのアトランティックシティで、壁がはがれ廃墟となったトランプ・プラザを2月に爆破することが決定した。しかも、爆破スイッチを押す権利を現在、市がオークションにかけている。1月19日まで入札が続くが、14日現在で1万7500ドル(約180万円)の値がついている。落札予想額は50万ドルともいわれ、市長は100万ドルを超えてほしいとコメントしている。
トランプ氏の横暴なビジネスで大量の解雇者が出たアトランティックシティでは、爆破ボタンを押したい者が数多くいることだろう。ちなみに、オークションの売り上げは、市のチャリティに寄付されるそうだ。(取材・文/白戸京子)
外部リンク