私の職業は女性向け風俗の40代セラピスト、源氏名は柾木と言います。
私の表の顔は、いわゆる普通の会社員です。とあることがきっかけでこの仕事をするようになり、昼間は会社の営業の仕事をし、夜は歌舞伎町をはじめとするラブホ街が仕事場になります。
この仕事を始めて6年が経ちます。自分で女性向け風俗店を立ち上げ、2人のセラピスト(20代・50代)を抱えていた時もあります。お客さんが私に払うお金は、3時間で3万円(着替え等の時間を入れると正味4時間)。その他、ラブホテル代が6000円前後かかります。地方へ出張サービスに行く場合は別途交通費が発生します。
私とお客さんとの接点は性だけです。性だけの繋がりなので、女性たちは私に様々な本音を話してくれます。
「彼とのセックス、本当は気持ちよくないのだけど、感じている演技をしているんです」
「痛いのを我慢しています」
「もう、パートナーに私の性を満たしてもらうことは諦めました」
「一度でいいので、本気で感じてみたいんです」
私がこの仕事をするようになり、痛感していることがあります。それは、性的に満たされていない女性があまりにも多いということです。これほどまでに多いのに、多くの男性たちは気がついていないのです。そのことが男女の性に、大きなすれ違いを生んでいます。
女性向け風俗を利用する女性の年齢層は18歳から70代まで様々です。私のお客さんの中で最も多い年齢層は40代です。独身の方の利用はもちろん、子供が小学校4年生以上で子育てが一段落した方も多いためです。
反対に、子育て真っ最中の30代の既婚者の利用は少ない傾向にあります。利用者の年齢層は各店舗のカラーやセラピストによっても異なり、20代が多い店舗もあれば、40〜50代が多い店舗もあります。
40代セラピストである私のお客さんの年齢層の比率を挙げてみますと、40代4割、50代3割、30代2割、20代1割、60代〜が稀となります。今でこそ50代女性の利用が多いですが、この仕事を始めた2015年頃、50代は皆無でした。
40代はとても多いのになぜ50代の利用者がいないのか不思議でした。ある時、その理由が判明します。初めて50代の女性から依頼をいただいた際の、申し込みメールにヒントがありました。
「柾木様、初めてご連絡をいたします。いつもブログを興味深く拝見しています。この度、申し込みをしたいと思っております。私、53歳なのですが、本当に申し込んでいいのでしょうか?」との内容でした。
当サロンのホームページには、受付年齢20歳以上と表記してあります。にもかかわらず、なぜこのような質問をいただくのか疑問でした。申し込みをされた由美子さんにそのことを質問してみたところ、図らずも女性向け風俗の闇に触れることとなりました。
由美子さんはそれまで、2つの店舗に申し込みの連絡をしていました。彼女が最初に選んだ店舗はホームページに申し込みのフォームがあり、そこから連絡する形式でした。彼女は、申し込みフォームの記入事項である「年齢」を入力して申し込みをしました。勇気を出して申し込みを済ませた彼女は、お店からの返信をドキドキしながら待っていたそうです。
しかし、いつまで経ってもお店から音沙汰がありませんでした。送信ができていないと思った彼女は、そのお店に問い合わせのメールをしたそうです。すると、その問い合わせメールにすら返事がありませんでした。「もしかして、私が50代だから?」と思いホームページを見返しましたが、どこにも申し込みの年齢制限は記載されていません。
結局、そのお店を諦めた由美子さん。今度は受付年齢20〜50代としっかり書いてある店舗を選び、再度申し込みをしました。すると今度はすぐに返信が来ました。ホッとした由美子さんがそのメールに目をやると、このような文章が書かれていたそうです。
「50代の方は、施術の効果が出にくいのでお勧めしていません」
2つのお店から冷たくあしらわれてしまい、落胆した彼女。「ホームページに50代OKと書いてあっても、実際には受け付けてくれない世界なんだ、50代はもう女ではないんだ」と寂しい気持ちでいっぱいになっていたそうです。
もう風俗を利用するのは止めようと思った時に、偶然私のホームページを見つけます。毎日更新されるブログの言葉から人となりを3カ月じっくり観察して、「この人なら断らない」と思ったそうです。そして、今回の「私、53歳なのですが、本当に申し込んでいいのでしょうか?」というメールを送ってもらうに至りました。
現在はどの店舗のホームページを見ても、18歳以上や20歳以上という表記しかありません。しかし、2016年頃までは、ホームページに受付年齢20代〜30代と年齢制限を表記している店舗をよく見かけました。
当時、この年齢制限の存在が、利用者である女性の間で物議を醸していました。年齢制限をしているお店は、「若い女性の身体を触りたいだけなのでは? とも思えるので、敬遠してしまう」というのが多くの女性の意見でした。
するとその後、年齢制限をしていた店舗も、次第に18歳以上や20〜50代・60代などの表記に変わっていきました。恐らく、それまでのような店舗にはお客さんが入らず、ホームページの年齢制限を変えたのだと思います。しかし、由美子さんの話から、ホームページ上の年齢制限を変えても実態は変わっていないことが分かります。
また、他の50代のお客さんが寂しそうに語っていました。
「セラピストが乗り気でないのが伝わってきて、施術中申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった」と。さらに、そんな自分が情けなくて、涙が出てきたともらしていました。
個人で営業している1人セラピストのお店の中でも、非常に良心的なところもある一方、1人セラピストが自己満足のためにやりたいようにやっているお店もあります。そのようなお店は、大抵1年以内に廃業しています。
現状、女性向け風俗はSNSを使って容易にお店が作れてしまいます。本来、風俗営業をするためには、法律の定めにしたがって風俗営業の届け出をする必要があります。しかし、無届けで趣味的に営業している、1人セラピストの店舗も多く存在しています。女性が安心できる風俗店にたどりつくのは、やはりなかなか難しいのです。
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以上、柾木寛氏の新刊『「女性向け風俗」の現場 彼女たちは何を求めているのか?』(光文社新書)をもとに再構成しました。女性向け風俗の現役セラピストが綴る、これまで社会から決して聞こえてこなかった叫びとは?
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