5月24日、銅鑼湾の「SOGO」前からおこなわれたデモ
《天滅中共(天が中国共産党を滅ぼしますように)》
5月24日、香港島のショッピング街・銅鑼湾でおこなわれたデモ。参加した数千人の市民が掲げるビラには、こんな文字が躍っていた。
デモを取材した香港在住のジャーナリスト・角脇久志氏が解説する。
「2019年10月、デモ参加者のマスクや覆面を禁止する『覆面禁止法』を香港政府が施行したころから、中国共産党が、あからさまにデモに介入する事案が増えました。それに合わせて、香港のいたるところで目にするようになったのが、この標語です」
中国の全国人民代表大会(国会に相当)で5月28日、香港版「国家安全法」が成立した。これは、
(1)香港における国家への反逆・分裂煽動
(2)中国共産党政権の転覆
(3)外国勢力による内政干渉
(4)テロ行為と活動等の禁止
が明記され、罰則が設けられるというもの。この方針は “一国二制度” のもと、高度な自治と言論の自由を保ってきた香港が、中国に組み込まれることを意味する。
この国家安全法制の導入が、いかに異例の禁じ手だったか。
「これまでは『香港基本法』(憲法に相当)で、国家への反逆行為を禁じる23条を法律として具体化することの是非が議論されていた。
ところが、2019年の大規模な反中デモに業を煮やした習近平指導部が、香港基本法を拡大解釈し、香港政府の頭越しに、国家安全法制の強制導入を図ったわけです。衝撃は大きい」(香港大手紙論説委員)
つまり、国家安全法制が香港に導入されれば、中央政府による「直接統治」が可能となり、香港の自治が脅かされることとなるわけだ。強権発動に中国が踏み切った背景を、ニュース系週刊誌の元編集長、レックス・ウォン氏が語る。
「2019年6月から激しくなった逃亡犯条例改正に反対するデモに加え、同年11月の区議会選挙で、民主派が452議席中388議席を獲得。親中派は大敗を喫した。
中国政府は驚き、香港は “反共産党の一大拠点” になってしまったと判断した。そのため、香港を管轄する出先機関である、香港マカオ事務弁公室と中央連絡弁公室に、習氏側近の大物を据え、直接管理を目論んでいるんです」
このような動きを、香港市民も静観していたわけではない。この方針が明らかになると、コロナ禍のなかでも、5月から各地で抗議デモが勃発。武装した警察官と衝突し、連日数百人が逮捕されている。日本在住の香港の活動家がこう明かす。
「香港警察は、市民への暴力を躊躇しなくなった。数人で集まっているだけで、背後から警告なしに警棒で殴りつけてくる。ただの暴力行為だ」
2014年の雨傘革命から始まった、香港の熱い政治の季節は、弾圧によって終わるのか。
「今回の国家安全法導入で、来年にも、国際金融中心都市としての役割は消失する可能性がある。
香港は2017年より中国が推し進める香港・マカオ・広東省を統合し、発展させる『グレーターベイエリア構想』に組み込まれ、深セン市のように、中国南部の一都市として併合されるだろう」(ウォン氏)
6月4日には、天安門事件の追悼集会がある。激しいデモが予想されるが、中国は強硬姿勢を崩さない。一国二制度は、すでに危機に瀕している。
(週刊FLASH 2020年6月16日号)
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