自身の銀行口座から450万ドル(約6億8000万円)が、違法ブックメーカー(賭博業者)に送金された問題で、3月26日(日本時間)に初めて会見したドジャース・大谷翔平。違法賭博の疑いで解雇された元通訳の水原一平氏が、口座から金を盗んだとして、大谷は自らの関与を完全否定した。
水原氏は3月19日、米スポーツ専門局「ESPN」の取材に対し、大谷と一緒に複数回にわたって送金したと答えたが、翌日に「嘘をついた」と発言を撤回。大谷も会見で「(水原氏に)嘘をつかれていた」と述べた。水原氏のギャンブル依存症については、20日の開幕戦後に初めて知ったという。
「(疑惑の調査中で)気持ちを切り替えるのは難しい」と語った大谷は、27日まで13打席ノーヒット。2023年、WBC決勝の最終回で登板し胴上げ投手となり、MLBで自身初の本塁打王と2度めのMVPを獲得した強心臓の持ち主だが、今回の騒動のメンタルへの影響が懸念される。
今後、問題はどう展開するのか。大谷の古巣・エンゼルスと現所属のドジャースが本拠を置くカリフォルニア州弁護士として、米司法省の調査に対応した経験を持つ吉田大氏が解説する。
「日本の宝である大谷選手は現在、刑事訴訟と民事訴訟が複数の相手と交差する、複雑な状況にあります。
MLBは規則違反の疑いで正式に調査を開始しており、大谷選手は野球を続けるために、これに対処していく必要があります。
MLBは、所属するチームおよび選手のすべてに、雇用契約において規則順守を求めています。その規則のなかで、今回、問題になっているのは、不正行為に対する罰則を定めた第21条です。ドジャースは大谷選手の直接の雇用主であるとともに、MLBの一員でもあるため、MLBの調査に協力し、その結果を待っていると考えられます。
その第21条D項において、ギャンブルに関する罰則規定が設けられています。概略を述べると、選手や通訳を含む職員が野球賭博をおこなった場合は1年間の出場停止処分、自分が出場する試合に対して野球賭博をおこなった場合は永久的な出場停止処分をするという、とても厳しい内容です。また、選手および職員が、違法賭博業をした場合、MLBコミッショナーは状況を総合的に考えて、罰則を科すとしています。
先日の会見で大谷選手は、野球賭博や違法賭博への関与を明確に否定したことにより、多くのファンは安堵しました。おそらく弁護士が作成したであろうコメントは、第21条D項違反を公の場で否定することを強く意識したものと考えられます。まさに、完全潔白への道筋を開くコメントでした。
大谷選手の発言がMLBの調査で証明されれば、MLBからの処罰はなく、直接の雇用主であるドジャースもこれに応じて、いままでどおりの雇用を継続すると予想されます。
また、米国連邦政府・内国歳入庁(IRS)や米国連邦政府・司法省(DOJ)が、刑事事件で捜査をしていると報じられています。現時点でIRSの捜査対象は、違法賭博を開催したとされるマシュー・ボーヤー氏と、水原氏とされています。大谷選手が、主張どおり送金を認知していなかったのであれば、大谷選手は犯罪被害者であり、容疑者として捜査されることはないと思います」
では、最悪のシナリオはどのようなことが考えられるのか。
「いちばん怖いのは、元通訳、元同僚、そしてかつては友人であった水原氏が、大谷選手は違法賭博にかかわっていないという発言を翻し、なんらかの形で大谷選手の関与を匂わすことです。
水原氏の弁護士は、水原氏を守るために最大限の力を尽くします。悪魔にすら弁護士をつける社会のほうが、弁護士がいない社会よりいい――法治国家とはそういうことです。いま、すべてを失った水原氏に対して、弁護士は自分の利益を最優先するように説得しているかもしれません。水原氏の証言次第で、大谷選手が共犯者だという疑惑が生まれる可能性があり、水原氏は事件の行方について大きなカギを握っています。
ひとつ強調したいのは『推定無罪』という言葉です。現時点では、関係者はあくまでも容疑者の段階であり、刑罰はおろか、MLB処罰すら決まっていません。関係者には、家族やお子さんがいらっしゃるかもしれません。このような状況だからこそ、品位を保ち、中立的に冷静にものごとを判断しましょう」
世界最高のアスリートに、いつもの笑顔が戻ってほしい。
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