2月17日、東京都は、明治神宮外苑の再開発計画の施工を認可した。これを受け、三井不動産などの事業者は、3月下旬に着工すると発表。まずは神宮第2球場の解体から始め、全体の完成は2036年を見込んでいる。
計画では、神宮球場と秩父宮ラグビー場を解体し、ラグビー場跡地に、ホテルなどを併設した野球場を建設。ラグビー場は北に移動させ、中央に広場を作る。地区のシンボルであるイチョウ並木は残し、新たに植樹する一方、既存の樹木743本を伐採することになる。
小池百合子都知事は、17日の定例会見で「認可は、法令にのっとって適切におこなった」としたうえで、「事業者には先人たちの思いを引き継いでいただき、100年先の未来につなげる街づくりに真摯(しんし)に取り組んでいただきたいと申し上げた」と述べた。
樹木の伐採を前提とした計画には、多くの反対意見が出ているが、都が進める計画は、神宮外苑だけではない――。
東京・江戸川区の都立葛西臨海公園。敷地内にある葛西臨海水族園の建て替えにともない、ここでも約1400本の樹木が伐採される可能性が高くなっている。公表された建て替え後のイメージ図では、施設屋上や周辺にびっしりと太陽光パネルが敷き詰められている。
建築エコノミストの森山高至氏が、問題点を指摘する。
「葛西臨海水族園は、建築家の谷口吉生さんが設計した世界的名建築で、マグロが回遊する巨大水槽とか、建物をうまく隠す作りとか、水族館として画期的なものです。淡水生物館は、敷地の周囲に小川を流して、自然林があるという構成になっています。
公表された建て替え計画では、この淡水生物館と自然林の部分を壊して、太陽光パネルを敷き詰めるイメージとなっており、まさしく文化遺産の破壊です。
水族園の建て替えについては、3年ほど前、建築学会、建築家協会、建築士会と日本の建築業界が総出で止め、『世界的に評価されている建物だから、老朽化対策をしながら維持・管理していきましょう』と一度、決定したんです。
それで、水族園の建物は残ると安心していましたが、東京都はやらないけれど、民間業者に建設を任せるPFI方式でやると。非常にずるい手で建て替えるわけで、道義的な問題もあるんです。
また、あそこはもともと海だった場所を昭和の時代から埋め立て、荒地に植林して、東京都の港湾局と地元の江戸川区、地元の漁師さんが一体となって自然を維持しようと頑張ってきた。
水鳥の生息地として重要な湿地と生態系を守る目的で制定された『ラムサール条約』を体現するような場所なんです。保全するのが基本なのに、それを商業開発しようとしている。これは、ラムサール条約の理念に反するという問題もあります」
「日本建築家協会」は、2月7日、建て替え計画に関して《配置計画が明確でなく、30年かけて育ててきた樹木の保存に関する不安がある》と疑問を呈したうえ、《配置計画と移植等を含めた樹木保存の考えを早期に示していただきたい》とする要望書を提出。さらに1400本の樹木を保護する代替案も提出した。
だが、2月10日、都議会環境・建設委員会では「樹木への影響を極力減らす」とされたものの、計画に変化はなし。陳情は門前払いされた形だ。このままでは、水族園は壊され、2028年に新装される。
「公共工事であれば、オープンなのでみんな意見を言えるのですが、東京都は、民間に丸投げするから秘密でいい、というブラックな方式を率先して取っている状況です。
小池知事は『民間に任せたら、壊すと言っている。私は関与していない』という感じですが、そんなわけないだろう、とみんな怒っているわけです。道義的にも、簡単に壊して済む話ではない。東京都全体の問題として考えるべきものだと思います」(森山氏)
森山氏によれば、1400本の樹木伐採後、新施設の屋上からは機械置場と太陽光パネルしか見えず、海辺の公園内でありながら、海を見ることもできなくなるという。小池知事は「環境政策こそ成長戦略」と主張しているが、これが「環境政策」と言えるのだろうか。
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