慶應義塾大学の文系学部では最高峰といわれる、法学部政治学科への進学をはたした女優の芦田愛菜。晴れて大学生となって、中高の間はセーブしていた芸能活動も一気に解除。4月17日には、日本テレビの2023年度の『24時間テレビ 愛は地球を救う46』で、チャリティーパーソナリティーを務めるとの発表もあった。
卒業した慶應義塾女子高校(慶女)は、必ずしも芸能活動を禁じているわけではなかった。ただ、進級の考査が厳しく、勉学への真摯な姿勢を求める学校であるため、芦田は学業を第一に選択したのだろう。
自由な校風でもつとに知られるのに、実態はなかなかつかみづらいとされる慶女。神秘のベールに包まれた印象は、取材などをほとんど受けないことで知られる、東京の女子御三家(桜蔭・女子学院・雙葉)以上に強いかもしれない。全国にいくつもある雙葉の系列は、必ずしもメディアに門戸を閉ざしているわけではないし、桜蔭は、媒体によっては学校取材を受けつけ、筆者も授業の様子をメディアで伝えたことがある。通称「JG」と呼ばれる女子学院は、学校長などが取材に応じる例が見受けられる。
芦田はJG合格もはたし、その際は東大を目指すとも噂されたが、より芸能活動に理解がある慶女を選んだという経緯がある。JGは制服がなく、女子進学校の中ではもっともリベラルな校風とされるが、学業優先は絶対で、芸能活動は事実上NGなのだ。日本銀行を経て、現在は外資系コンサルタント企業のアクセンチュアに勤務する、元タレントの宮田麻里乃も、中学2年生のときにJGから成城学園に転入。高校2年生でミス日本に輝き、成城大ではなく早稲田大学政治経済学部に進んでいる。2023年から東京藝術大学に進学した乃木坂46の池田瑛紗も、JG出身だが、グループには高校卒業後の2022年から加入しており、満を持してのスタートなのだろう。
一方の慶女は、「生徒が何をしようがとやかく言わない」とは、多くのOGから聞かれる話だ。筆者は最近、芦田の慶女の大先輩に当たる、女優の菊池麻衣子にも取材したが、芸能活動は「春・夏・冬の長期休みに限って」おこなっていたといい、在学中の出演作は映画2本だけ。本格的デビューは大学進学後だった。
CMを通じて毎日、顔を見ているので、芦田がそこまで仕事を絞っていたとは思えないが、じつは2017年の慶應中等部入学以降、出演したドラマは2018年8月放送の『花へんろ 特別編 春子の人形』、2022年3月放送の『エンディングカット』(いずれもNHK)の単発のみ。映画も2020年10月公開の『星の子』と、2022年6月公開の『メタモルフォーゼの縁側』のみだった。そのほかに5作のアニメ映画、2作のハリウッド映画の吹き替えをこなしたが、いずれも主演級とはいえ、そこまで時間の制約はなかったはずだ。
唯一のテレビのバラエティ番組レギュラーが、2019年10月放送開始の『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)で、現在も放送中。ほかは単発の出演しかない。『24時間テレビ』への出演も2018年と2019年にはあったが、2023年は4年ぶりの登板となる。だから、芦田の慶大進学が決まった際、三田や日吉の慶大キャンパスで学生の声を拾うと、「番組でぜんぜん見ていなかったので、遠い存在に感じられていた」「同じ慶応に入った(鈴木)福君のほうが、ずっとテレビで成長を追えたので親しみがある」といった反応も多かった。
ただでさえ、二階堂ふみや葵わかななど、人気女優の入学が話題となる慶大。中等部から慶女、そして慶大へとエスカレーターで上がった芦田については、学生たちもそこまで注目していない様子だ。だが、慶女ならびに政治学科でも芦田の先輩に当たる女優の新野七瀬は、頼もしい後輩の存在を「素直に嬉しい」と語る。
「私は父の仕事の都合により、大阪で中1まで過ごしたので、高校から慶應に入りました。上白石萌歌ちゃんがグランプリの年(2011年)の『東宝シンデレラ』オーディションでファイナリストに残ったんですが、とくにお仕事につながらなかったので、すぐ高校受験に切り替え、めちゃくちゃ勉強しました(笑)」
お茶の水女子大附属はじめ、受けた高校はすべて合格したが、慶女には受かると思っておらず、迷わず入学を決めたという。毎年6月に、全校あげて臨む慶女の伝統行事「演劇会」にも惹かれていた。
「それまでに劇団四季のミュージカルを観ていたし、身長が足りないからあきらめたけど、宝塚の男役にもあこがれていました。だから、演劇会で男役を務めたら、後輩たちがバレンタインで列を成してチョコレートをくれたんですよ(笑)。OGは現役の公演の観劇が許されるので、愛菜ちゃんの舞台も確認しようとすればできたんですが、あえて避けました。日ごろは表舞台に立っていますから、たぶんそこでは裏方に徹したのかもしれませんね」
新野は演劇会で脚本や演出も手がけ、創作の道にいっそうの希望を持ったという。高校での演劇の経験が芦田に女優として生きる覚悟を促し、学業との両立はさすがに厳しい医学部より、法学部政治学科への進学を選ばせた、と見えなくもない。なお、新野は歴史好きで、米国政治の成り立ちに関心があり、大学は政治学科に進んだ。
「政治学科には多様な科目設定があっていろいろ学べますし、国家公務員になったり有名企業に就職したり、さまざまな道に進む友人とも出会えます。それが愛菜ちゃんの女優としての財産にもなるのではないでしょうか。でも、愛菜ちゃんのあれほどのお芝居の才能、ほれぼれするくらいの聡明さを、やはりエンタメで発揮してほしいなと期待しています。吉永小百合さんや綾瀬はるかさんが取り組んでいるような、戦争に関するレポートなどにも挑戦するかもしれませんが、そうした経験もきっと演技にフィードバックされるんだと思います」
芦田は大学でいかに学び、どんなサークル活動をし、どういう交友関係を結ぶのか。新たな学び舎は、きっとこの天才少女を満足させるに違いない。
取材・文/鈴木隆祐
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