アメリカ大統領選の投票日(11月3日)まで1週間を切り、両陣営による情報戦が熾烈になってきた。最近はテレビや新聞だけでなく、SNSも選挙戦略に重要な位置を占めている。
10月28日には、グーグル、フェイスブック、ツイッターのトップが上院の商業科学運輸委員会にオンラインで召喚された。これは、SNS上の不適切発言を削除できる「通信品位法230条」に関する見解を問うのが目的だ。
この条項があることで、SNS運営会社は投稿内容を制限したり削除したりできる。自身の発言がたびたび制限されているトランプ大統領は、5月にこれを規制する大統領令に署名している。
今回はツイッターやフェイスブックが、バイデン氏の息子に関する疑惑を「根拠がない」として、関連発言を制限していることが問題となり、共和党議員から激しい追及があった。
バイデン氏の息子に関する疑惑とは、修理に出されたまま持ち主が取りに来なかったパソコンの中身を見たところ、バイデン氏の息子の持ち物で、そこからさまざまな疑惑が露見したことを指す。
バイデン氏の息子は、汚職が取り沙汰されているウクライナ企業の役員を務め、巨額の報酬を受け取っていたとされ、当時副大統領だったバイデン氏と役員が面談したという。
また、なぜか中国のSNSでは、バイデン氏の息子が未成年と性交したとされる画像が流出している。
アメリカ大統領選では、10月に候補者の大スキャンダルが流されることが多い。「オクトーバー・サブライズ(10月の驚き)」と呼ばれるもので、トランプ大統領については、安倍首相がトランプ氏の別荘に滞在したときの費用が大幅に水増し請求されていた、などと報道された。
実際のところ、情報があふれすぎており、有権者も何が本当の情報なのか判別できなくなっている。通信品位法230条に関しては、かつてフェイスブックに不満を持ったバイデン氏も無効にすべきと訴えたことがあり、投稿の制限については、今後も議論が続くことだろう。
ツイッター、フェイスブック、レディットといった大手SNSは、ほかにも数多くの投稿を制限している。大規模におこなわれているのが、「Qアノン」と呼ばれるグループの発言だ。「陰謀説」を唱えるトランプサポーターで、最近では先のバイデン氏の息子が薬物依存で死亡したとの情報が流された。
インスタグラムが8月に1万以上のアカウントを削除するなど、大手SNSは大規模な制限を実施しているが、彼らが自由に投稿できる場はまだいくつも残されている。
有名なのが「4chan」という匿名掲示板だ。聞き覚えのある人もいるだろうが、4chanのオーナーはかつて「2ちゃんねる」を開設したひろゆき氏である。
このほか、「8kun(旧8chan)」という掲示板や「Parler」というSNS、Cloudflareという会社が提供するウェブサイトなどに、大量の書き込みが発生している。
10月27日、子供番組『ニコロデオン』主催の「子供が選ぶ大統領」の発表があった。この選挙は子供たちがオンラインで大統領になってほしい人に投票するのだが、4chanには、どうやったら不正投票できるかなど、不適切な書き込みが集まった。
結果は53%対47%でバイデン氏の勝利だったが、ニコロデオンによると13万票が無効になったという。
また訴訟大国のアメリカらしく、選挙に関する訴訟はすでに44州で300件以上起きている。極右の武装集団が多いミシガン州では、投票所への銃器持ち込み禁止が裁判で無効となり、上訴される見込みである。
コロナの影響もあり、今年は事前投票をする人が非常に多い。すでに7500万票が投票されているが、こうした票の開票トラブルも多発すると見込まれ、選挙の行方は簡単には見通せない状況になっている。(取材・文/白戸京子)
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