「今の日本人の生活は1970年代並み…」「アルゼンチン・ペソと同程度」エコノミスト3人が記録的円安を断罪する!
一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏
■日銀は中央銀行の責務を放棄した
「物価が上がる。しかし賃金が上がらない。労働者の生活が非常に厳しくなります。これは20年間続いている。
「私がいちばん恐れているのは医療や介護の分野です。外国のほうが賃金が高いから、外国から介護人材を日本に呼ぶことができなくなる。さらに、日本の人材も外国に出ていってしまうでしょう。今後は、十分な医療や介護を受けられない時代になります」(同前)
「20年間円安政策を続けて、結局日本が弱ってしまった。円安は輸入原価を引き上げるが、企業はその値上がり分を製品価格に転嫁します。しかし賃金は上げない。だから利益が出る。
「日銀が金融緩和政策から脱却して、通貨価値を安定させるしかない。それが中央銀行のもっとも重要な責務です。世界の中央銀行は一生懸命利上げをおこなっているのに、日銀だけがその責任を放棄しているのです」
経済評論家の加谷珪一氏
■日本人の生活は1970年代後半のレベルに落ちた
「かつて日本は輸出主導経済だったから、円安はメリットが大きかったのですが、今は消費主導経済となり、海外からモノを買う国になった。
「円安が進めば、原材料の輸入価格が上がってコスト増になる。コストが上がったぶんを製品価格に転嫁できる競争力のある企業は別として、それができない中小企業は利益が減り、株価も下がります」(同前)
「従業員の賃金を下げるか、下請けなど取引先の価格を値引きさせるか。いずれも従業員の生活水準や取引先の業績を悪化させ、日本経済に負の循環をもたらす。今の日本にとって円安はデメリットばかりで、メリットはほとんどないと思います」(同前)
「日本=豊かな国」の認識を変える必要があるという。
「今の日本人の生活は、1970年代後半ぐらいのレベルに落ちています。当時は1ドル=360円から240円という時代でした。
みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏
■下落率はアルゼンチン・ペソと同程度
「円安のメリットを享受するのは、基本的にグローバルな輸出製造業です。外国に対して安くモノを売れるし、売り上げもかさ上げされる」
「海外への投資の利益も円建てでたくさん入ってくるわけです。一方、円安のデメリットを被るのは、内需依存型の中小企業と、物価上昇の影響が直撃する家計です。
「今回、1ドル=110円台から130円台になるまで3カ月もかかっていません。企業は円高にしても円安にしても、常に為替予約をしてリスクヘッジしていますが、今回のような急激な変動ではヘッジが効かない。
「金利差だけが原因なら、ほかの通貨も円と同じくらい下がっていなければならないわけですが、円だけが突出して弱いのです。2021年初めから足元までの通貨の下落率を見ると、円はアルゼンチン・ペソと同じくらい下落しています。それより下がっているのは、トルコ・リラくらいです」(同前)
「“日本売り”の要素もあると解釈しなければ説明がつきません。日本は貿易赤字が拡大して、回復する目途が立っていない状況。成長率を見ても、先進国の中で、日本だけがコロナ前の水準に戻っていない。そんな日本経済は評価できないと、海外は見ている。つまり『日本は買えない』のです」