60周年を迎えた吉本新喜劇を、新たな時代へと導く4人の座長。キャラクターもキャリアも異なる4人はそれぞれ、お互いをどう見て、どんな素質を感じているのか。
−−ここでは4人にしかわからないお互いの才能、素顔をお聞きしたいと思います。小籔千豊さんの人となりを教えてください。
川畑泰史(以下、川畑)「ホンマに、なんでもできるというか。僕は『こんな物件をこんな感じにしたら?』みたいな発注を受けてやってる職人のような感じなんですけど、小籔くんはイチから新しいもの、みんなが見たことないものを建てるんですよ。
『ピンクのそんな形?』っていう感じの家を平気で作って、しかも住みやすいという」
小籔千豊(以下、小籔)「でも、柱の建て方とかは、川畑さんに教えていただきましたから」
すっちー「僕らは新喜劇の先を、見てるようで見えてない。でも小籔さんは、だいぶ先を見てはる。人間関係も、ベテランにしても若い子にしても、怒るときはあっても、あとのケアも考えてくれてます。
『この子はこういう子やけど、こうなった場合はこうしてあげや』とか。だから、なんか一緒にいるとイヤになるというか(笑)」
−−すごすぎてイヤになる?
すっちー「いろんなことを分析して、広い視野でいろんなものを見てはるから。小籔さんとおったら、もっといろんな発想を持たなアカンなと。だから、本当にイヤになる(笑)。
前の日、一緒に遅くまでリハーサルして、『今日は朝から、こんな遠くに営業行かなアカン』言うて空港でテレビ見てたら、小籔さんが生放送に出てはる。どんだけ早くから働いてんねんて(笑)」
酒井藍(以下、酒井)「小籔兄さんは素人の私に、イチから新喜劇というものを教えてくださって、いまもボケ方とか教えていただいてます。感謝していますし、ホンマにすごい人やなとメチャ思います。
ただけっこう天然なとこがあって、前回のツアーのときに舞台に出てきたら、髪の毛はねてる、シースルーの衣装を裏表逆に着てる、足元見たら靴下にズボンが入ってて、メチャクチャ『ぬけさく』やんと思いました」
−−意外ですね。
酒井「あと、お芝居で洞窟の中のシーンがあったんですけど、前を歩く小籔兄さんが、私の顔の前で「ぷー」としたんです。オナラの臭いがすると思って、頭が真っ白になって。
小籔兄さんもだいぶ恥ずかしかったのか、暗転中に舞台を走り抜けていく、宇都宮まき姉さんをわざわざ止めて『俺、藍ちゃんの顔の前で屁こいてもうた』って。恥ずかしさを、どこにも持っていくとこなかったんでしょうね。そういうかわいいとこあります」
小籔「よう覚えてるなぁ」
−−2019年は吉本新喜劇60周年。みなさんは、どう捉えていらっしゃいますか?
川畑「先人のすごさとか感謝の気持ちもあるんですけど、『100周年のときは生きていたいな』と素直に思てしまったんですよね。新喜劇の舞台には、立ってなくてもいいんですよ。
生きてたら90いくつなんですけど、見てみたいすねぇ。『それだけの長い歴史を踏んできてる吉本新喜劇に、いま、毎週中心でやらしていただいてるのが俺でいいんかな』とか、『こんな台本でいいんかな』とか、よりヒシヒシと感じる毎日です」
すっちー「今後の5年、10年が、ちゃんとなるためには、我々が間違わんようにせなアカンと思います。60年続いてるものを『最近アカンな』とは言われたくないし、『あのへんからアカンようになったね』って言われてもダメですしね。
100周年まで続くためには、いまおかしなことになったらいけないので、あらためて大変な時期やなと感じてます」
酒井「ずっと新喜劇に入りたかったので、『60周年のときにいてられる』というのがすごいうれしいですね。ただ60周年とはいえ、私が座長になってまだ1年ちょっとなので、ほかの座長さんをお手本に、ただただこれからもちゃんとやっていきたいです」
小籔「いい感じの60周年になったのは、先輩たちのおかげ。となると、いい感じの70周年を迎えられるように、ここから僕らががんばらなアカンなという。
70周年は絶対来るとして、そのときは勝手な『コヤトラダムスの大予言』ですけど、僕と川畑さんは、座長じゃなくなってると思うんですよ。藍ちゃんと須知の時代が来ると。そんな道のりのスタートって感じはします。
だから、僕らは須知とか藍ちゃんに、言葉や背中で手本を見せつつ、勉強してもらって……」
−−60周年は70周年に向けてのスタートだと。
小籔「新喜劇ファンの方々への恩返しの気持ちを、さらに強めなアカン1年ではあるんですけど、70周年へのスタートと考えたら、ここからの10年はこの4人で仲良く、いい感じで連携を取りつつ、新喜劇をさらに大きくする原動力になっていければいいなと思います。
そのためにも『60周年のとき、あの4人で良かったな』と思ってもらえるようにしていかないと。すごく大事な1年かなと思いますね。でも、70周年へのスタートって言いすぎると、この本を買った人は「60周年どこ行ったんや?」って思ってしまうかな(笑)」
小籔千豊(こやぶ・かずとよ)
1973年9月11日、大阪府出身。お笑いコンビ「ビリジアン」を解散後、2001年に吉本新喜劇に入団。約4年という異例の早さで座長に就任すると、新喜劇を全国に広めるため東京に進出、現在はピンとしても多数のレギュラー番組に出演する。また、お笑いと音楽を融合させたフェス「コヤブソニック」も主宰。ドラムの腕前も一級品。
川畑泰史(かわばた・やすし)
1967年6月22日、京都府出身。NSC(よしもと芸能学院)9期生から1991年に吉本新喜劇に入団。2006年2月の小籔座長誕生に続き、同年9月に仮座長公演を行い、2007年6月に入団16年目にして正式に座長に昇格した。「顔パンパン」や「カーッ」といったギャグで爆笑を取るかと思えば、職人肌の的確なツッコミで芝居をまわしていく。
すっちー
1972年1月26日、大阪府出身。自動車整備士を経て、お笑いコンビ「ビッキーズ」を結成するも解散。芸名をすっちーと変え、2007年に吉本新喜劇に入団。強烈な大阪のおばちゃんキャラ「すち子」を確立し、吉田裕との「乳首ドリル」などで人気を博す。2014年に座長に就任後は、すち子キャラでテレビやCMにもひっぱりだこ。
酒井 藍(さかい・あい)
1986年9月10日、奈良県出身。奈良県警に勤めていたが、吉本新喜劇に入りたいという夢が捨てきれず、2007年に「金の卵オーディション3個目」を受けて合格したことを機に入団。明るい性格とぬいぐるみのような愛らしいフォルムで人気を獲得し、2017年に新喜劇史上初の女性座長に就任した。最近は「藍五郎」や「藍姐さん」などの新キャラも誕生。
(吉本新喜劇60周年公式スペシャルブック)