12月12日、暗号資産(仮想通貨)の交換所大手・FTXトレーディングの創業者サム・バンクマンフリード容疑者が、バハマで逮捕された。260億ドル(約3兆6000億円)もの資産を築き、それをわずか数日で失った30歳の男は、現状8つの罪で起訴されている。すべての容疑が立件されれば、懲役115年にもなるという――。
2019年に設立されたFTXは、成長に次ぐ成長を続け、世界最大級の規模を誇る暗号資産の交換所となった。だが、11月初頭、財務面の問題が指摘されると、投資家たちが一斉に資金を引き上げ、1週間ほどで経営破綻に追い込まれてしまった。
債権者は100万人以上とされ、推定負債額は100億ドルから500億ドル、日本円で1兆4000億円から7兆円と幅広い数字が入り乱れている。
元参議院議員で、国際政治学者の浜田和幸さんが、こう語る。
「バンクマンフリード氏は、暗号資産の世界で若くして成功した出世頭として、注目を集めていました。マサチューセッツ工科大学で物理と数学を専攻し、両親はスタンフォード大学の教授という家庭で育ちました。
大学卒業後はニューヨークの金融機関で働いていましたが、普通のマネーゲームでは面白くないと、暗号資産の世界に飛び込みました。
彼はメディアを巻き込んだ話題づくりが上手なんです。コロナ禍で生活苦に追い込まれる人が増えると、『人々を救うためにお金を稼ぎたい。困っている人にお金を回して、世界全体をよくしたい』と国際会議の場で語り、世界中のメディアで絶賛されたんです。
バハマに大豪邸を建てたのですが、自宅とオフィスの行き来はトヨタのカローラを自分で運転するなど、メディア受けする姿を巧みに売り込んでいきました。
宣伝も上手で、エンゼルスの大谷翔平選手や女子テニスの大坂なおみ選手など著名人をアンバサダーに据えることで、社会的な信用を勝ち取ったんです。
大谷選手は、ギャラを暗号資産と株で受け取ったと報道されていますが、そのギャラもおそらく消失してしまったのではないでしょうか。大谷選手も大坂選手も、投資家から賠償責任があるとして訴えられており、『泣き面に蜂』状態です」
実は、被害にあったのは両選手だけではない。孫正義氏が率いるソフトバンクグループのファンドも1億ドル(140億円)出資していたのだ。同グループの専務執行役員は会見で「影響は極めて小さい」と語っているが、出資額が戻ってくるかどうかはわからない。
前出・浜田氏が、FTXのずさんな経営についてこう説明する。
「専門家がいたわけではなく、資産管理は相当いいかげんだったようです。元ガールフレンドに任せていた運用会社に、彼が集めたお金をどんどんつぎ込んで、自転車操業みたいな形で回していたと言われます。
バンクマンフリード容疑者は、11月におこなわれたアメリカの中間選挙で、民主党におよそ4000万ドル(56億円)も個人献金したと報道されました。
それだけではなく、対抗馬の共和党にも莫大な選挙資金を投じていたと言われます。これはきちんとした収支報告書に出ていないお金でもあるので、今後、大きな問題につながるかもしれません。
実は、FTXはウクライナ戦争にも関わっていたという話があるんです。もともとアメリカからウクライナへ多額の資金援助があったわけですが、ウクライナのゼレンスキー政権は、この資金をFTXに還流させ、マネー・ロンダリングしていた可能性があるんです。
資金還流の話は噂レベルとしても、ウクライナ政府は、FTXのサポートで『Aid For Ukraine』という暗号資産による寄付サイトを作っていたのは事実です。その寄付金も、今はどうなったのかわかりませんが……」
今回の話は、暗号資産そのものの信用を揺らがす大騒動となっており、世界中の投資家たちが事態の行方を固唾を飲んで見守っている。
「バンクマンフリード容疑者は、8つの罪で起訴されており、少なくとも50〜60年は刑務所に入ることになるでしょう。世の中、楽して億万長者になれる方法なんてないんですよ」(浜田さん)
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