前々から思っていたのだが、“ケンカが強い=かっこいい” という発想自体が、もはや “かっこ悪い” ということを、誰か教えてあげたほうがいいのではないか。
4月25日(木)にスタートした木村拓哉主演『Believe―君にかける橋―』(テレビ朝日系)。
言わずと知れた天下のキムタクの最新作で、かつて主演した『BG~身辺警護人~』シリーズ(テレビ朝日系/2018年、2020年)のスタッフチームが再集結して制作するとのことで、話題を集めている。
■今度のキムタクは橋づくりに情熱を燃やす技術者!
木村のドラマと言えば、ピアニスト、美容師、検事、パイロット、外科医、シェフ、刑事など多種多様で、どんな職業を演じるかにも毎回注目が集まるが、今回は橋づくりに情熱を燃やす技術者。大手ゼネコンの土木設計部長という肩書きを持つエース社員・狩山陸を演じている。
しかし、さっそくの急展開で、第1話では狩山が刑務所暮らしをする姿が描かれた。
狩山が設計した橋の建設中、死傷者を出す崩落事故が起こってしまう。設計ミスが原因ではなかったにもかかわらず、社長(小日向文世)に懇願された狩山は、会社を守るため、真相を隠ぺいして全責任をかぶり、実刑を喰らってしまったのだ。
一方で、夫婦間がギクシャクしていた妻(天海祐希)が刑務所に面会に訪れる。妻は癌を患っており、狩山が出所したころには帰らぬ人になっているだろうと伝えられ、一念発起。狩山は無実を証明するため、担当弁護士(斎藤工)に再審の相談を持ちかける――というのが初回のストーリーだ。
個人的な感想だが、この第1話でグイグイと物語に惹き込まれていく感覚は薄かった。
初回は、狩山がどうして無実なのに収監されたのかという、舞台設定を描くことがメインだったためだろう。第2話以降で無実の罪を晴らすため主人公や協力者が奔走し、その過程で裏切りや驚きの展開があり、スリリングなサスペンス要素と人間ドラマで魅せていくのだろうから、今後のストーリーに期待といったところか。
そういった大筋の物語はさておき、本稿で問題視したいのは、主人公・狩山のキャラクターである。
■近年の主演作はどれもこれも「心もケンカも強い」役
一言で言うと、「もう “カッコいいだけのキムタク” には飽き飽き」ということ。
今回の主人公・狩山は、橋づくりに対して情熱と信念を持っており、前述したように全責任を背負い込んで罪をかぶるような漢気もある。強い心の持ち主だ。
また、下請業者の社長(北大路欣也)との腕相撲勝負にわざと負け、現場の職人たちが気持ちよく働けるような雰囲気づくりをするといった、“人たらし” 的な人間力の高さもある。
さらに極めつけは、心だけでなくケンカも強いところ。刑務所で同じ部屋となっている犯罪者たちにバカにされると怒り、格闘技の技で一瞬にして2人を制圧するのである。
アラフィフのサラリーマンが屈強なガタイのチンピラをあっさり瞬殺する……このシーン、必要か?
ちなみに前述の『BG~身辺警護人~』もボディガード役なので当然強かった。そして、その次の主演作となった『未来への10カウント』(2022年/テレビ朝日系)は元天才ボクサー役だったので強いし、その次の『風間公親-教場0-』(2023年/フジテレビ系)も刑事役で格闘もできた。
つまり今回の『Believe』ふくめ、近年の主演作はどれもこれも、心も強いがケンカも強いというキャラクターなのである。
ドラマの制作陣がどうしても “フィジカル最強” という設定を盛り込みたいのか、それとも木村サイドが要望しているのかわからないが、たいていキムタクの演じる役は強い。
100歩譲ってボディガードやボクサーや刑事が強いのはわかるが、今回はエリートサラリーマンなわけで、その設定が本当に必要なのかどうか。正直いえば、もう飽き飽きだ。
「キムタクをかっこよく見せるために悪漢を成敗するシーンを入れよう」……この発想自体がもはやダサいのだとそろそろ気づいてほしい。
えてして人間の本質を描く名作の主人公は、欲に負けてしまうような自堕落ぶりや、そこから転じて失敗したり追い込まれたりする情けない姿も描かれることが多い。そういうシーンがあると人間臭くて共感できるし、ふいに見せる信念や情熱がギャップで際立って、非常にかっこよく見える。
――『Believe』はまだまだ始まったばかり。今夜放送の第2話以降で、表面的にはダサい言動をしても本質的にかっこよく見えるような、新たなヒーロー像をキムタクに示してもらいたい。
堺屋大地
恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。『日刊SPA!』にて恋愛コラムを連載中。ほかに『現代ビジネス』『文春オンライン』『集英社オンライン』『女子SPA!』などにコラムを寄稿
外部リンク