「食べるシーンがとても多いです! よく食べ、ズバズバしゃべります!」
4月11日にスタートしたフジテレビ系の月9ドラマ『元彼の遺言状』で、主演を務める綾瀬はるか(昭和60年生まれ)は放送前の記者会見でこう明るく話し、会場の笑いを誘った。
「上野樹里(昭和61年生まれ)が松重豊演じる父と2人で婚活をしていくドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』(TBS系)は、彼女がヨガインストラクターを演じることで話題です。
今春に出産予定の石原さとみ(昭和61年生まれ)は、NHKの新番組『あしたが変わるトリセツショー』で初のMCに挑戦しています」(芸能記者)
この春スタートする話題の新番組には、共通点がある。いずれも、昭和60年代生まれの女優が中心に据えられているのだ。昭和は64年1月7日で終わり、翌日から「平成」となったことで、彼女たちは「ギリ昭和生まれ」の女優たちといえる。
NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演している新垣結衣と秋元才加も、ともに昭和63年生まれだ。
ほかにも、昨年話題となったドラマ『ハコヅメ~たたかう!交番女子~』(日本テレビ系)の主演は戸田恵梨香(昭和63年生まれ)、『最愛』(TBS系)の主演は吉高由里子(昭和63年生まれ)、大ヒット映画『コンフィデンスマンJP 英雄編』の主演は長澤まさみ(昭和62年生まれ)……と、「ギリ昭和生まれ」女優のオンパレードだ。
これまで女優として目立った活動のなかった中村アン(昭和62年生まれ)も、TBSの日曜劇場に2作品連続で出演し、大きな話題になった。
彼女たちの世代について「デジタル世代の先っぽと、アナログ世代の尻尾をまたいでいる」と話すのは、コラムニストの桧山珠美氏。
「彼女たちの親世代は、昭和30~40年代生まれが多いんです。ここは、まさに『テレビっ子世代』。テレビが娯楽の王様で、いちばんキラキラしていた時代でした。
『昨日、あのドラマ見た?』と、学校での話題もテレビが中心だった世代に育てられているから、今の若者よりテレビに親しみを持っているんです。
そのため、女優という仕事について “志” を持ちやすいのでしょう。お茶の間という空間でテレビを見た、最後の世代であるとも思います」
■「身の丈に合った」ドラマで育った世代
昭和末期は、「W浅野」「ワンレン・ボディコン」などに代表されるトレンディドラマの最盛期。その後、バブル経済が崩壊し、平成初期にはより現実的なドラマが多く作られるようになった。今もフジテレビのドラマで最高視聴率の記録回を持つ『ひとつ屋根の下』(平成5年)などは、その代表だ。
世代・トレンド評論家の牛窪恵氏は、ギリ昭和生まれ世代が、こうしたリアリティのあるドラマに影響を受けてきたと話す。
「トレンディドラマは、主人公が都会のオシャレなマンションに住み、ブランド服を着こなすような物語が描かれてきましたが、平成に入ると、身の丈に合ったドラマが多くなりました。
形を変えながらも、平成の前半から半ばを通じてこの傾向は続き、『白線流し』や『ロングバケーション』(ともにフジテレビ系)が平成8年、『やまとなでしこ』(フジテレビ系)が平成12年、『Love Story』(TBS系)が平成13年、『電車男』(フジテレビ系)が平成17年の放送となっています」
都会の一人暮らしではなく家族と暮らす主人公、華やかな職業ではなく派遣社員、恋愛も、非日常ではなく周囲で起こりそうな展開……。若者向けドラマは憧れではなく、現実を描くものに変わっていった。こうしたリアリティのあるドラマを見て育った世代だからこそ、自分たちも自然体でいられることが、魅力につながっているという。
また、「アラフォー」に差しかかっても主演を務められる時代になったことも、彼女たちの活躍の大きな要因になっているという。
「それより前の世代の象徴というべき女優は、やっぱり山口百恵さん。彼女は21歳で結婚して、引退していますよね。吉永小百合さんも、結婚はしていますが出産はしていません。
かつては、女優という仕事は結婚したり、子供を産むため休みを取ったりすると、そこで仕事を失う、という可能性が高かったんです。
当時は男性中心で社会が考えられていましたから、恋愛ドラマのヒロインは、10代後半から20代前半までが当たり前。20代後半になると、2時間ドラマなどに活路を求めるしかなくなってくるわけです。
でも、今は年下の男性との恋愛ドラマだってたくさんありますよね。キャリアを求める女性が主人公の、お仕事ドラマもあります。彼女たちは30代になっても、主役を張れる環境が整ってきたんです」(桧山氏)
陰で努力を続ける田中みな実
■マンガ誌のグラビアを飾ったことが影響も
結婚すると人気が落ちる、というのも過去の話。新垣結衣がいい例だと牛窪氏は話す。
「新垣結衣さんと星野源さんが共演した『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)は、長く一緒にいることで情が湧くような、自然体の恋愛が支持されました。それが、お2人が結婚したことで現実になり、さらに新垣さんの好感度はアップしましたよね。
逆に、実業家の前澤友作さんとの交際が報道された剛力彩芽さんは、株を下げた印象もありますが…(笑)」
男性だけでなく、同性のファンが多いことも、「ギリ昭和生まれ」女優の特徴だ。
TBSが発掘オーディションをおこなって話題になった『私が女優になる日』では、多くの「女優の卵」たちが演技バトルを繰り広げたが、彼女たちの多くが「憧れの存在」として名前を挙げたのは、新垣結衣、長澤まさみ、吉高由里子といった面々だった。
「SNSの発達が大きいと思いますが、彼女たちの多くが、飾らない日常をオープンにすることで共感を呼んでいます。たとえば長澤まさみさんは、セレモニーなどで大胆に胸元が開いているようなドレスも着ますが、Tシャツにデニムも着こなします。
少し上の世代の篠原涼子さんや米倉涼子さん、天海祐希さんなどは “男前感” みたいなところを出すところが人気でしたが、今は、自然体で先輩として頼れて、さらに女子力も高い女優さんが人気なんです。
田中みな実さん(昭和61年生まれ)を『あざとい』『計算ずく』というのは簡単ですが、逆にいえば、それだけ陰では努力をしているということ。
多少あざとく見えても、努力してかわいいを実現しているところが評価される時代です。そんな女優さんの魅力を、今の若いコたちは自分の親世代とSNSで共有しています」(牛窪氏)
ちなみに、インスタグラムを駆使して人気だった木下優樹菜(昭和62年生まれ)も、ギリ昭和生まれだ。
「ダウンタウンの松本人志さんが、いろいろな番組やCMで重宝されているのは、いまテレビ番組のキャスティングを担当しているような人たちが、若いときに『この人と仕事したい!』と、松本さんを見てきた世代だから。
女優さんもそうで、彼女たちに憧れてきた世代が今、ドラマの現場に入っています。
『ギリ昭和生まれ』の女優さんは、マンガ誌のグラビアを飾った人も多いんです。『いつかは憧れの綾瀬はるかと仕事するぞ!』と思ってきた人がキャスティングをするから、彼女たちを主役に抜擢する、という側面もあるんです」(桧山氏)
X世代やZ世代など、ひとつの世代をまとめる言葉は多い。昭和生まれの最後となる彼女たちは、さしずめ昭和の「S世代」とでもいうところか。
「日本は超高齢社会。Z世代といわれても、大人たちはついていけないですよね。昨年の『紅白歌合戦』の低視聴率がいい例です。その点、たとえば綾瀬はるかさんは、広島出身ということもあり、毎年、夏に放送される原爆関連の特番に出演しています。あの真摯な姿を見ていると、年配の方には実の孫のように感じる人も多いはず。
ほかにもピアノのイメージが強い松下奈緒さん(昭和60年生まれ)や、割烹着の似合いそうな蒼井優さん(昭和60年生まれ)など、古きよき日本を思い出させてくれる女優さんがこの世代には多いんです。
下だけでなく、上の世代からも支持が高いですから、しばらく彼女たちのポジションは安泰ですよ。『綾瀬はるか』という会社の株があったら、買いたいくらいです(笑)」(桧山氏)
S世代の時代は、まだまだ続きそうだ。