8月半ばの日曜日、めったに行くことのない有明駅で降りた。大塚家具の本社ショールームで開催される「大塚久美子の見学ツアー」というイベントに参加するためだ。
この夏から、大塚社長が新しい試みを始めている。社長自ら、少人数の客を相手に、自社ショールームを案内するという企画だ。予約さえすれば、誰でも無料で参加できる。今回は「ものづくり」がテーマだという。
創業者である父親との対立や業績悪化など、さまざまな報道攻勢にさらされた大塚社長だが、実際はどのような人物なのか。実際に会ってみたくなった記者は、ちょうど部屋の模様替えをしてインテリアに興味が出てきたこともあり、渡りに船と参加を決めた。
集合時間の10分前ぐらいに行くと、窓際のスペースに通された。集まった人たちは15人程度。見た感じ、初老で身なりのいい方々や、30代ぐらいの家族連れ、私を含め20代、30代女性のおひとり様といった面子がそろっていた。
ツアー開始時間になると、「皆さん、こんにちは!」と大塚社長が登場。意外と背が小さく、写真よりも美人。ネイビーのカットソーに、白い七分丈のパンツというラフな装いだ。大塚社長が一通りの挨拶を終えると、一同は歩き出した。
ショールームは3Fと4Fに分かれていて、ブランドやコンセプトごとに家具が展示されている。イメージどおり、素人目にも高級そうで、時に庶民としては腰が引けるほどおしゃれなデザイン家具が並び、もはや博物館だ。
しかし、実際の値段を見ると、1万円台の椅子など、意外と安めの商品もそろっている。ちなみに一番高かったのは、蒔絵が一面に描かれた4000万円のタンスだった。制作には10年以上かかっているのだとか。
家具を眺めているだけでも楽しいが、ツアーの見どころは、社長がちょこちょこ繰り出す小ネタだろう。
スイスの「デセデ」というブランドのカウチソファを指さしながら、「YouTuberのヒカキンさんってご存知です? あの方が今年この商品を購入されて、それを動画で紹介されてるんです。見学に来られたお子さんたちには『ヒカキンのソファだ!』って大人気なんですよ」とまさかの説明。
大塚社長の口から「ヒカキン」という単語が出てくるとは……。ちなみに、後ほどお値段を調べてみたところ、実に約290万円。天下の人気ユーチューバーはさすがである。
他にも、高級車「フェラーリ」の内装を手掛けてきた家具ブランド「ポルトローナ・フラウ」の椅子を紹介するときには、「この椅子は、アーム(腕置きの部分)にバネが入っているんです。理由は、女性を座らせる以外にございません。バブルの時代を感じますね」と苦笑いで語り、参加者の笑いを誘っていた。
そんな社長の小ネタに耳を傾けたり、ソファの座り心地を体験したりしているうちに、あっという間に時間が過ぎた。最初の集合場所に戻り、ゆるやかに解散かと思いきや、社長が「ご質問などありましたら受け付けます」「記念写真を撮られる方どうぞ」などとサービス。
参加者がはけた頃、恐る恐るご挨拶にうかがった。最初はにこやかだった笑顔が、名刺に踊る「週刊FLASH」の文字で少し曇る。とはいえ、「まあ、あなたがうちのイヤな記事を書いたわけじゃないですし……」と、意外と受け入れてもらえた。ツアーのお礼を伝えると、少し本音を語ってくれた。
「大塚家具は、やたらと高い商品ばかり、というイメージを持たれていますが、それは違います。もともといいものを安く提供する際に、どうしてその家具がいいのか丁寧に説明することをずっとやってきたんです。値段にも幅はありますし、きちんとした理由があります。
私の考えでは、あと2割、ファンの方が増えてくださればそれでいいと思っています。そうしたら、赤字になんてならないはずなんですよ。私たちは、地方の職人さんたちの技術を多く買っている。彼らのためにも、絶対に持ちこたえなければならないんです」
その後も大塚社長は、私を含め、ちらほらと残っていたツアー参加者らと雑談し、出口に向かう途中でも家具談義を続けていた。
「今は小さめのお部屋が主流で……」「最近需要があるのはこんな家具で……」と話し続ける社長。最後は社長やスタッフさんに見送られ、ただただ純粋な家具マニアに話を聞いたような満足感を感じながら、ショールームを後にしたのだった。