映画の共演をきっかけに親しくなったふたり。旅を通じて深めた相手への思いについて語る。
映画『アズミ・ハルコは行方不明』(2016年)での共演を通じて親しくなったという蒼井優と高畑充希。いまや日本映画界に欠かせないふたりの俳優は、プライベートで旅を楽しむほど仲良し。一昨年春はサンフランシスコ、昨年初夏はロンドンへと旅した。
Yu Aoi
1985年、福岡県生まれ。ミュージカル『アニー』(99年)でデビュー。2017年、映画『彼女がその名を知らない鳥たち』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞。映画や舞台、テレビで活躍中。
Mitsuki Takahata
1991年、大阪府生まれ。2007年から12年までミュージカル『ピーターパン』でピーターパンを、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」でヒロインを演じた。「過保護のカホコ」など主演多数。
蒼井優(以下蒼井):共通の友人である写真家、高橋ヨーコさんがサンフランシスコから一時帰国した際に、3人でごはんに行ったんです。そこで私とみっちゃん(高畑)の休みが重なることが判明して、それならお互いに行ったことのないサンフランシスコに行ってヨーコさんと遊ぼう! ということになりました。
高畑充希(以下高畑):ヨーコさんに会うことが目的だったから、まったくノープランの旅。現地では毎日、その日に何をするか行き当たりばったりで決めていました。ヨーコさんのお家が素晴らしく居心地がよかったので、そこでダラダラしたりね(笑)。
蒼井:ヨーコさんがサンフランシスコのギャラリーで個展を開催することになっていたので、その準備の様子を見せてもらったり。
高畑:いろいろ連れて行ってもらって、おいしいものをたくさんいただきました。とにかく野菜がおいしかった!
この旅で印象的だった出来事を尋ねると、「優ちゃん(蒼井)に編みものを習ったこと!」と、高畑。
蒼井:そうそう、私が編み棒を持って行っていたので、みっちゃんと手芸屋さんに行って毛糸を買って。置いてある毛糸が日本とは全然違うから、海外の手芸店って楽しいんですよ。毎日朝ごはんを食べながらその日に行く公園を決めて、公園の近くのコーヒーショップでコーヒーとおやつを買って、そのまま公園で編みもの。みっちゃん、日差しに負けじとコートを頭から被って編んでたよね(笑)。
高畑:私は初心者だったので、編みものを一から教わりました。公園にブルーシート敷いて、お喋りしながら編みもの。気がつくと夕方になってる、みたいな。
「旅先でまずやることは手芸屋さん探し」と言う蒼井の影響か、この旅をきっかけに、高畑も旅先で手芸や毛糸を探すようになったとか。
みっちゃんは一緒にいて「楽」な人。気楽な旅が好きな自分の、最高の相棒。
−−蒼井 優
アクティブに動いたロンドン。
1年後、ふたりはロンドンへ向かう。もともと、ミュージカルと古着屋巡りを目的に高畑が予定していたロンドン旅行へ、蒼井が合流。何度も訪れているロンドン、今回の目的は「みっちゃんとだらだらする」だったそう。
高畑:今回もミュージカル以外はノープランだったけれど、バスや電車に乗ってアクティブに動き回りました。優ちゃんにおすすめの洋服屋さんに連れて行ってもらったり、エスニックレストランを開拓したり。以前、ミュージカルでピーターパンを演じたことがあって、ピーターパン発祥の地のケンジントンガーデンズを訪れるのが念願だったんです。優ちゃんに付き合ってもらって、ケンジントンガーデンズを散歩して、イングリッシュブレックファーストのお店でスイーツのセットと紅茶をいただきました。たまにはツーリスティックなことをやったりね(笑)。
蒼井:公園はちょうど花が見頃の時期で綺麗でしたね。このエリアにお気に入りのセレクトショップegg があるので、そこにも立ち寄りました。
ロンドンのハイライトは、やはりミュージカル。2夜連続の『ハリー・ポッター』を観劇する予定でチケットを手配していたが、1夜目の公演が終わったところで、「どうしても『レ・ミゼラブル』が観たい!」と思ったふたりは……。
高畑:その場で2夜目をやめることにして、『レ・ミゼラブル』のチケットを買いました。かなり贅沢な出費になったけれど、『レ・ミゼラブル』が素晴らしかったので、後悔はないです。
蒼井:観劇後においしいごはんを食べて、その帰り道、みっちゃんが『レ・ミゼラブル』の歌を口ずさんでいたんです。それがなんだかとってもうれしくて、印象的でした。
ふたりで出かけたふたつの旅を通じて、それぞれが旅に求めるものや旅のスタイルにも変化があったという。
蒼井:サンフランシスコに行くまでは、旅先では美術館を訪れたり、買い物をしたり、時にはちょっとしたご褒美を自分にプレゼントしたり……何かを得ることを目的に、旅に出ることが多かったように思います。でも、ただただのんびりしておいしいものを食べる旅が、自分はいちばん好きなんだなと気がつきました。
高畑:私自身、そもそも誰かと旅をするという考えがなかったんです。これまでは家族か、もしくはひとり旅がほとんどだったから。でも、女友だちとする旅ってこんなに楽しいんだ! って、優ちゃんとの旅で気付かせてもらった気がします。
蒼井:旅はやっぱり気楽なものがよくて、だから適当さの加減が合う友人と出かける旅が好きなんです。その点、みっちゃんは最高の相棒。たくさんの人がみっちゃんに同じ感情を抱くんじゃないかと思うのですが、みっちゃんは一緒にいて「楽」な人。旅の間、何度もそれを実感しました。
高畑:優ちゃんは俳優として私の大先輩だから、尊敬の気持ちもあって。旅に出る前はどこか気を遣ってしまっている自分がいたのですが、一緒に旅をするようになってからは、俳優である以前に人間としてグッと近づけた気がしました。優ちゃんは私にとって友人であると同時に、人生の先輩で、私を導いてくれる灯台のような人。優ちゃんがうれしいことは私もうれしい、そんな存在です。だから結婚が決まった時はちょっと泣きました(笑)。
大切な友だちだから、会えなくても大丈夫。友だちはいつも心強くて、すごい存在。
−−高畑充希
最高の旅の相棒と、次を夢見て。
ふたつの旅を通して旅の相棒としての相性のよさを実感したふたり。まだまだふたりで出かけたい場所、体験したいことがある。
高畑:もう一度サンフランシスコへ行きたい。あと家具探しにモロッコとか。
蒼井:気候のいいところに出かけて、公園で編みものをしながらだらだら過ごしたいです。あとは、ドイツ。ずっと行きたくて実現していない、ベルリンのシャウビューネ劇場の芝居を観たい。
高畑:いま、自由に出歩くことができない状況になって実感したのは、大切な友だちであればあるほど、会わなくても、会えなくても大丈夫なんだってこと。元気でさえいてくれればそれでいい。いずれ状況が変わったら、目一杯遊べるから。恋愛感情と違って、友情は1年や2年会えないくらいで消えるものでもないから、友だちって心強い存在です。
蒼井:そうそう、安心して会えるその日まで、お家で元気に、陽気に、いつものように笑っていてくれたらいいな。
*「フィガロジャポン」2020年7月号より抜粋
texte : RYOKO KURAISHI