バスケ界のみならず、日本中で波紋を呼んでいる八村兄弟への“差別発言問題”。ベナン人の父と日本人の母の間に生まれたハーフの八村兄弟に対し、SNSを通じて心無いメッセージが送られていたのが明るみに出たのが、5月4日の出来事だった。
東海大学に在学する弟の阿蓮が自身のTwitterで「日本には人種差別が無いと言ってる人がいるけどこうやって人種差別発言をする人がいます。晒してどうにかなる問題では無いと思いますが、皆さんに今一度人種差別の問題について関心を持っていただきたいと思いました」という文章とともに、Instagramのダイレクトメッセージに送られてきた「死ね、間違えて生まれてきたクロンボ。お前もお前の兄もバスケがうまいだけのただのクロンボ」という差別発言の画像を投稿すると、現在ワシントン・ウィザーズで活躍する兄の塁が「こんなの、毎日のようにくるよ」と返信。この2人のやり取りから、日本にも横行する人種差別問題が大きくクローズアップされることとなった。
現在、こういった人種差別をなくそうという運動が世界中で行なわれており、NBAでも多くの選手が声を上げている。そして過去には、NBAの内部でも選手やオーナーによる差別発言により、大きな問題が起きていた。
2014年には、当時ロサンゼルス・クリッパーズのオーナーだったドナルド・スターリングが、黒人差別発言により大バッシングを浴び、職を失っている。事の発端は、彼の恋人がマジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)と一緒に撮った写真をInstagramにアップしたこと。これにスターリングは激怒し「黒人と一緒にいることを公表する必要がどこにある?」「君のくだらないSNSに、黒人と一緒にいる写真を載せる必要はない」「別に(黒人と)寝てもいいし、好きにしていい。だがそれを公にしたり、ましてや私のチームの試合に連れてくるのはやめてくれ」などと言い放った。
しかしこの発言はしっかりと録音されており、メディアを通じて全米中に公開。間接的に当事者となってしまったマジックをはじめ、レブロン・ジェームズ(レイカーズ)やコビー・ブライアント(元レイカーズ)など、多くの選手、関係者がスターリングを非難した。
また、この発言が明るみに出た4月26日(日本時間27日、日付は以下同)はちょうどプレーオフの時期で、クリッパーズもゴールデンステイト・ウォリアーズとの1回戦の真っ最中だった。当時チームに在籍していたクリス・ポール(現フェニックス・サンズ)らは試合をボイコットすることも視野に入れていたそうだが、最終的にはウォームアップジャージーを裏返しに着用してチーム名が見えないようにするなど、抗議の意思を示しながらゲームへ。しかし事件が影響したか、97-118で惨敗を喫している。
スターリングはこの録音を「改ざんされている可能性もある」として発言を否定。しかし事態を重くみたアダム・シルバー・コミッショナーは、スターリングに罰金を科すとともに、リーグからの永久追放処分を下した。
また、同じく2014年には当時アトランタ・ホークスのゼネラルマネージャーだったダニー・フェリーが、ルオル・デンに対し差別発言をしていたという疑惑が持ち上がり問題に。これは同年オフにフリーエージェントとなっていたデンを獲得する際のオーナー会議で、フェリーが「彼はグッドガイだが、完璧ではない。彼にはアフリカ(の血)が混ざっている。悪い意味で言っているわけではないが……表向きは立派な店構えだが、裏で贋作を売るような人間かもしれない」と発言したとされるものだった。
これについてフェリーは「私自身の見解ではなく、スカウトからの報告書を読み上げただけ。ただ、ルオルにはきちんと謝罪するつもりだ」と釈明。実際にその後の調査で、フェリーがこの件に関して送った何万通ものメールや資料を徹底的に洗い出し、さらに20人近くの関係者から証言を集めた結果、この発言はフェリーのものではなく、また本人にも差別的意思が一切ないことが明らかにされた。
ただ、フェリーは休職期間を経たのち、2015年にゼネラルマネージャーを辞任。潔白が証明されたとはいえ、この件が決断に影響したのは間違いないだろう。
また、2017年には選手間(一方は元選手)の間で“アジア人差別”の発言も飛び出した。
当時ブルックリン・ネッツに所属していたジェレミー・リンは、台湾系アメリカ人。髪型をころころ変え、その多くがユニークなスタイルだったリンは、この時はドレッドヘアに挑戦していた。
これに噛みついたのが、ネッツOBのケニョン・マーティンだ。2000年の元ドラ1は、自身のInstagramで「この愚かな行為を許したネッツのチームメイト、そして組織に失望した」「自身のラストネームが“リン”であることを、この男に思い出させなければならないのか?あんなふざけた髪型で、俺がいたチームにいていいわけがない。誰か彼に伝えるべきだ。『オーケー、お前は黒人になりたいんだな』とね。わかるよ、でも(君の)ラストネームは”リン“なんだ」と発言したビデオを投稿。まるでドレッドヘアが黒人文化特有のもので、アジア人がそれを真似してはいけないというような論調を展開した。
当然、この発言には非難が殺到し、マーティンは投稿を削除。さらに後日、メディアを通じて「あれはジョークのつもりで、俺も笑いながらそういう気持ちで話していたんだ。ただ、それが行き過ぎてしまった。俺は人種を理由に他人を見下すような奴を軽蔑しているし、彼を差別する意思もない。怒らせるつもりではなかったことを理解してほしい。彼の幸せを願っているんだ」と弁明、そして誤解を解くためにリンの電話番号を聞き出そうとしていると語った。
これに対し、リンは非常に大人な対応を見せた。マーティンが漢字のタトゥーを入れていることを引き合いに出し「問題ないよ。あなたが僕の髪型を気に入る必要はないし、自分の意思を自由に持つ権利がある。正直、これについてあなたがシェアしてくれたことに礼を言いたいくらいだ。僕がドレッドヘアにしていて、あなたは中国語のタトゥーを入れている。これは互いをリスペクトする証だと思うから、感謝しているよ。マイノリティとしてお互いの文化を尊重すればするほど、社会に好影響を与えられると思う」とコメントした。
そして「これまでネッツに貢献してくれてありがとう。僕はあなたのポスターを貼った部屋で育ったんだ」と、マーティンに最大限のリスペクトを示している。
リンとしても、ドレッドヘアにするのは勇気が必要だったのだろう。この問題が起きる前、リンは『Players' Tribune』に対し、文化的な違いから世間に受け入れてもらえるかをチームメイトやスタッフに何度も相談した上で、この髪型に踏み切ったことを明かしていた。マーティンはこの事実を知らなかったようで、もし知っていたのなら、先の発言はなかったのかもしれない。
依然として横行する人種差別問題。今回の八村兄弟の告白を機に、日本でも、そして世界でも、一刻も早く差別をなくしてほしいところだ。
構成●ダンクシュート編集部
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