2010年代に終わりを告げ、これからNBAは新たなディケイド(10年)に突入する。その前に、73年の長い歴史を誇るリーグの歩みを、今一度時代ごとに振り返っておくべきではないだろうか。
2010年の“ヒート・ビッグ3”結成に端を発し、NBAはパワーハウス全盛に突入。データ分析の発達により3ポイントの有用性が広く浸透し、ビッグマンがアウトサイドシュートを放つなどポジションレスとなったことで、選手の総オールラウンダー化が進んだ時代でもあった。
■スター選手が優勝のために手を組むパワーハウス全盛の時代に
2010年代のNBAは、ビジネス面に関してかつてないほどの繁栄を謳歌した。
12年に『フォーブス』誌が選んだ“世界で最も資産価値のあるスポーツチームトップ50”に、NBAからランクインしたのは2球団。それが7年後の19年度版では、その数が一気に9つまで増加した。
リーグの総収入額に応じて決まるサラリーキャップは、08-09シーズンの5868万ドルから、17-18シーズンにはその約1.7倍となる9909万ドルまで上昇。キャップの額が増大すれば選手の取り分が増えるのも必然で、08-09シーズンの最高年俸がケビン・ガーネット(元ミネソタ・ティンバーウルブズほか)の2475万ドルだったのに対し、18-19シーズンに彼以上の年俸を得ているプレーヤーは、ステフィン・カリー(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)の3745万ドルを最多として25人もいる。現在のNBAに当時のガーネットクラスの実力者がそんなにいるとは信じ難く、それだけサラリーのインフレーションが起こっていると言えよう。
もう少し年俸の話を続けると、最高年俸選手はガーネット以降を見ると、10~16年はコビー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)、17年はレブロン・ジェームズ(レイカーズ)で18年からカリー。この10年間で最高のプレーヤーだったレブロンが、一番の高給を貰っていたシーズンが1年だけなのは意外かもしれない。
しかし、この事実は10年代のNBAで流行した“スーパーチーム”の形成と大いに関係がある。キャブズではなかなか優勝まで辿り着けないことに業を煮やしたレブロンは、10-11シーズン、マイアミ・ヒートで友人のドゥエイン・ウェイド、クリス・ボッシュとともに、最高級のスター3人が集結したスーパーチームを結成。その際、3人とも最高限度額を1500万ドルも下回る金額で契約していたのである。
サラリーキャップの目的は、高額年俸のスターが特定の球団に集中してしまうことで戦力バランスが偏るのを防ぐことにあるが、肝心の選手たちが市場価格を下回ってもいいと考えるなら、スーパーチームの形成は防ぎようがない。16年のオフにも、ケビン・デュラントがオクラホマシティ・サンダーに残留するよりも安い金額でウォリアーズに加入。ヒートはレブロン時代に4年間で2回、ウォリアーズもデュラント加入後に3シーズンで2度NBAの頂点に立った。
こうした“わかりやすく強そうな”チームが毎年優勝していたら興ざめだったが、11年はダラス・マーベリックス、14年はサンアントニオ・スパーズがヒートを下し、19年にはトロント・ラプターズがウォリアーズを破ってリーグ制覇。ウォリアーズの場合は主力選手のケガが重なったという事情もあったけれども、それもスター偏重のチーム作りの危うさを示していた。17年に締結された労使協定でスーパーMAX契約が導入され、トップクラスの選手の年俸がさらに高騰したことにより、さすがに何人もスターを集めるのは編成上好都合でなくなり、今後は戦力の均質化が進みそうに思える。
均質化と言えば、10年代はポジションが流動化して明白な差がなくなっていった時代でもあった。もともとバスケットボールは、野球のように守るべきエリアがあるわけではなく、各ポジションは身長と選手個々の特性によって決まっているだけ。典型的なポジションの範疇に収まらない選手も昔からいたとはいえ、近年は「パスよりも自らが得点しまくるポイントガード(PG)」や「3ポイントラインの外まで出てシュートを打つセンター」が珍しくなくなっている。
少しくらい身長が低くても、動きの敏捷な選手がパワーフォワードやセンターで起用されるようになったことで、ゴール下に陣取って動かない(動けない)旧来型のセンターはほとんど絶滅。13年から、オールスター投票ではフォワードとセンターの区分をやめて“フロントコート”となった。
シューティングガードとスモールフォワードの区別もほとんどなくなり“ウイング”で一まとめにされることが多くなった。長くフォワードでプレーしていたレブロンが今季PGに回っているのも、そうした現象の一例だろう。
データの浸透も、こうした戦術の変化をもたらした理由のひとつである。高精度のカメラ映像をコンピュータで解析して得られたアドバンスド・スタッツによって、得点やリバウンドといった従来の統計だけでは測れない選手の価値があぶり出された。
これと並行し“高確率のミドルシュートより、多少成功率は下がっても3ポイントの方が効果的”といった分析結果も広く認識され、実戦に取り入れられている。近年やたら長距離砲が乱発されるのは、単に選手のシュート力が上がったからだけではないのだ。
3ポイントはNBAプレーヤーの通常装備とさえ言える時代になっており、ポール・ミルサップ(デンバー・ナゲッツ)やブルック・ロペス(ミルウォーキー・バックス)といった、一昔前ならアウトサイドシュートなど練習もしなかったであろうビッグマンたちが、キャリア中盤になってレパートリーに加えている。この10年間がそうだったように、NBAは来たる20年代も新機軸を打ち出しながら進化していき、新しいファンを呼び込み続けていくことだろう。
文●出野哲也
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