1年の締めくくり、大晦日には、年越しそばを食べるのが日本の習わしです。とはいえ、あまりにも定番の行事なので、「年越しそばって何?」と考えたこともない人は、意外に多いのではないでしょうか。
年越しそばについて疑問を持った人に、まずその由来や食べ方についてご紹介します。
江戸時代中期から習慣化
諸説ありますが、大晦日にそばを食べるようになったのは江戸時代中期ごろからといわれます。当時、商家では毎月末にそばを食べる「三十日(みそか)そば」という習慣がありました。これが広く世間に浸透し、月末にそばを食べるのが習わしとなりました。
やがて、「毎月末にそばを食べる」という習慣は、時代とともに廃れてしまいました。唯一、1年最後の「大晦日」に食べるそばだけが、年越しの風習として残ったと考えられています。
具や食べ方には地域差も
年越しそばにはその土地ならではの具や食べ方を持つものがあり、その風習は全国等しく同じというわけではありません。
例えば、各地には次のような年越しそばがあります。
・にしんそば(北海道・京都)
・わんこそば(岩手県)
・沖縄そば(沖縄県)
温かいそばににしんの甘露煮を乗せるのが「にしんそば」です。ただし、味つけは北海道が濃い口の関東風、京都は薄口だしの関西風という違いがあります。
また、「わんこ(椀コ)」に少しずつそばを入れて食べるのがわんこそばです。岩手県の花巻や盛岡では、年齢と同じ数のわんこそばを食べる習わしもあります。
一方沖縄では、そば粉を使わない「沖縄そば」が大晦日の定番です。三枚肉やソーキ、紅ショウガなどと合わせて食べるのが定番スタイルといわれています。
年越しそばを食べる理由
1年最後の日にそばを食べるのは、「験かつぎ」「願掛け」などさまざまな意味があります。子どもとそばを食べるときは、そばを食べる理由についても説明できるといいですね。
年越しそばの習わしにはどのような理由があるのか、諸説紹介します。
長寿祈願
年越しそばは「長寿祈願」として口にされていました。これは、そばが細く長い形状であることに由来するといわれています。人々は大晦日にそばを食べながら、「寿命を延ばせますように」「家系が長く続きますように」と祈願しました。
また、江戸時代には脚気が流行しており、「そばを食べると脚気にならない」といわれ、健康食としても好んで食べられました。
そばは、ルチン・ビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富です。カロリーも比較的低いので、健康によい食べ物です。
災厄を断ち切る
また、大晦日にそばを食べることは、その年の「悪縁」「苦労」といったさまざまな災厄を断ち切る意味がありました。
というのも、そばはうどんなどと比較すると切れやすい食べ物です。そのため、人々はこれを「旧年の災厄と縁が切れる」という験かつぎと捉え、1年最後の日に好んで食しました。
そもそも、江戸時代に一般的だったのはつなぎのない「十割そば」だったそうです。現在のごく一般的なそばよりも切れやすく、「災厄を断ち切る」という意味合いによりマッチしていたと考えられます。
金運向上
江戸時代の金細工職人は加工中に飛び散った金を集めるとき、そば粉で作った団子を使っていたそうです。このことから、「そば=金を集める」縁起物とされたようです。
「金運を上げたい」という願いは、今も昔も変わりません。人々は大晦日になると験かつぎに「金を集める」そばを食べ、翌年の金運向上を願ったというわけです。
食べるタイミングに決まりはある?
さまざまな由来のある年越しそばですが、気になるのは「食べるタイミング」です。大晦日に食べると分かっていても、具体的にはいつ食べるのが望ましいとされているのでしょうか?
年越しそばを食べるタイミングについて見ていきましょう。
大晦日であればいつでもOK
実際のところ、年越しそばは「○時に食べる」「午前中はダメ」などのしきたりはありません。基本的には、12月31日中であればいつ食べてもOKです。
そばを食べるタイミングによって「縁起がよい」「縁起が悪い」などもありません。家族の都合のよい時間に食べましょう。
一般的には、新年の準備が一段落して落ち着ける「夕食時」に、家族そろってそばを食べる家庭が多いようです。
年をまたぐ前に食べ終わろう
年越しそばはいつ食べてもよいとはいえ、年内に食べ終わるのがベターです。例えば、夜、大晦日のテレビ番組を見ながら食べるという習慣の家庭は、深夜0時を回る前に食べ終わるようにしましょう。
というのも、前述したとおり、年越しそばには「1年の災厄を断ち切る」という意味もあります。この験かつぎをするつもりなら、年が明ける前にそばを食べてしまわないと意味がないからです。
年越しそばは、新年を迎えるための習わしの1つです。旧年中に食べ終わり、気持ちよく新年を迎えましょう。
監修:和文化研究家 三浦康子
古を紐解きながら今の暮らしを楽しむ方法をテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、Web、講演などで提案しており、「行事育」提唱者としても注目されている。連載、レギュラー多数。All About「暮らしの歳時記」、私の根っこプロジェクト「暮らし歳時記」などを立ち上げ、大学で教鞭もとっている。著書『子どもに伝えたい 春夏秋冬 和の行事を楽しむ絵本』(永岡書店)ほか多数。