「いぬのきもちWEB MAGAZINE」が送る連載、家庭犬しつけインストラクター西川文二氏の「犬ってホントは」です。
西川先生によると、しつけ教室に通っているのになかなか成果が出ない場合、飼い主さんが教わった通りに実践していないケースがあるそう。まずは教わった通りに意識的にやってみる大切さを、西川先生が実体験を交えて語ります(編集部)。
4月も2週目後半になりました。
新入生、新社会人など、いわゆる新しい門出を迎えて、希望にあふれて歩み始めた方々も少なくないでしょう。
一方で、心機一転、新しい門出を迎えるために、これから1年はがんばろうと心に誓った若人もいるでしょう。
半世紀近く前の話で恐縮ですが、18歳の私は後者でした。
希望した大学にことごとく「ご遠慮ください」と断られ、浪人となり予備校へ通うこととなりました。
ご安心ください、いつものことです。
この予備校通いの話を入り口に犬のしつけトレーニングの話へと……そういう段取りになっていますから。
カリキュラム通り進めていけばうまく行く
特定の大学に向けての合格を売り物にしている予備校のカリキュラムというのはよくできている。そこの大学の過去問などをこれでもかと分析していて、そこのカリキュラムをしっかりこなしていれば、そこの大学にはほぼほぼ合格できるようになっている(他の大学の合格は微妙ですが)。
それまでやってきたものをリセットし、そこのカリキュラム通りに進めていく。それができるかどうか、そこが最大のポイント(合否を決定づける)と私は考える次第です。
それまでやってきた方法でうまくいかなかったわけですから、まずはその方法を変えないと、どうにもならない。
少なくとも私の知る限り浪人生活を無駄にしてしまう要因は、今までのやり方をリセットできない、予備校のカリキュラム通りやらないこと。それに尽きる、といえるのです。
意識的に行わないとそれまでのやり方を変えられない
犬のしつけのトレーニングも同じといえるのです。
私の教室には、同一空間で生活し、お出かけにも旅行にも連れて行き、楽しい時間を共有できる、そうしたコンパニオン・ドッグ(=家庭犬)に育てるには、どうすればいいか、何をすべきで、何をしてはいけないか、それらを精査し組み立てたカリキュラムが存在します。
そのカリキュラム通りトレーニングを進めていっていただければ、必ず飼い主がイメージしている、犬も飼い主も幸せな日々が送ることができるようになるのです(問題も改善できていく)。
ところが、いままで行っていたことをリセットして、カリキュラム通りトレーニングを進めていく、これが難しい飼い主が時としているのです。
いままで行っていたことをリセットできないのです。このリセットは意識的に行わないとできません。なぜかというと、無意識的には今まで行ってきたことをやってしまうように脳はできているからです。
意識的に行うことで、無意識にできるようになる
例えば初級クラスでまず初めに指導する、リードの持ち方。
クラスでは、自動車教習所でいえば「10時10分の位置でハンドルを持つ」みたいなものと伝えます。
その位置を持つことができなければ、自動車教習は先に進めません。もちろん私の教室は、自動車教習のようにハンコがもらえないと先に進めないわけではありません。当初のスケジュール通り1回目→2回目→3回目……と進み、レッスン項目は毎回レベルップしていきます。ただ、犬の変化は期待できないのです。
なぜなら、リードの持ち方をカリキュラム通りやらない飼い主は、他項目もカリキュラム通りやらない。そうしたことが想定できるからです。
一週間意識的に、指導した持ち方を行ってください。一週間意識的に行っていると、それまでの持ち方がリセットされ、指導した持ち方が無意識的にできるようになります。そう指導するのですが……。
フードのあげ方然り、ほめ方然り。
意識的にカリキュラム通りのことを行わなければ、無意識にそれまでのやり方を行ってしまう。
それまでのやり方が、教室に参加する前の状態の犬を作り上げているのです。
教室に参加する前とは違う姿を犬に求めるのであれば、まずは飼い主がそれまでとは違う接し方をしないと……ということなのです。
せっかくお金と時間を費やすのです。お金と時間を無駄にしないためにも、まずはカリキュラム通り意識的に進める。そうすれば必ずイメージしている、犬も飼い主も幸せな日々を送ることができるようになるのです。
犬に変化を求めるのであれば、まずはご自身の意識、接し方を変える必要がある。そういうことなのです。
文/西川文二
写真/Can! Do! Pet Dog School提供
西川文二氏 プロフィール
公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)認定家庭犬しつけインストラクター。東京・世田谷区のしつけスクール「Can! Do! Pet Dog School」代表。科学的理論に基づく愛犬のしつけ方を提案。犬の生態行動や心理的なアプローチについても造詣が深い。著書に『子犬の育て方・しつけ』(新星出版社)、『いぬのプーにおそわったこと~パートナードッグと運命の糸で結ばれた10年間 』(サイゾー)、最新の監修書に『はじめよう!トイプーぐらし』(西東社)など。パートナー・ドッグはダップくん(15才)、鉄三郎くん(11才)ともにオス/ミックス。