「白内障」と聞くと、年をとると発症するイメージがあるかもしれません。しかし、犬の白内障はじつは加齢でなることは少なく、2~3才までに発症することが多いのだそう。人とはちょっと違う犬の白内障について、獣医眼科学専門医の小林一郎先生に聞きました。
【白内障って?】水晶体のたんぱく質が変性して濁り、視覚に影響が出る病気です
目の中でカメラのレンズのような役割をしている水晶体が、白く濁ってしまう病気です。白い濁りは、水晶体のたんぱく質が変性したもので、水晶体全体に広がってくると、視覚に影響が出てきます。
●2~3才までに発症することが多い
犬の白内障の多くが、遺伝的な要因で起こるとされています。そのため、犬の白内障は、若齢期に発症することが多いのです。2~3才までに水晶体に濁りが起こりますが、小さな濁りや進行のスピードによっては、飼い主さんが気づかないことも珍しくありません。
●とくによく見られる犬種
プードル
柴
フレンチ・ブルドッグ
アメリカン・コッカー・スパニエル
イタリアン・グレーハウンド など
●進行してしまうと失明するだけでなく、つらい合併症を起こすことも
白内障が進行すると、水晶体全体に濁りが広がって失明するだけでなく、変性したたんぱく質が水晶体の外へもれ出ると、目の中に炎症や痛み(ぶどう膜炎)を起こします。さらに、緑内障や網膜剥離を二次的に引き起こす可能性も。
ブラインドドッグとの暮らしはどうなるの?
〝ブラインドドッグ(=目が見えない犬)〞は、視覚以外の嗅覚、聴覚、皮膚の感覚、記憶力などを利用して、「見えない」状況に適応していきます。〝ブラインドドッグ〞と暮らす飼い主さんは、犬が視覚を失っていることを理解し、声や音、ニオイなどをうまく使って、安心して暮らせる環境を整えてあげましょう。
目が見えなくてストレスを感じないの?
散歩に行くのを嫌がる、動きがゆっくりになるなどは、不安を感じているからかもしれません。しかし、音の方向で居場所を知ったり、壁のひんやり感で空間を把握したりなど、視覚以外の感覚を使って状況に適応していく力があります。すぐれた嗅覚や聴覚があるとはいえ、状況を目視できないことは不安につながることも。散歩は歩き慣れたコースにし、障害物があった場合は声をかけて回避するなど、声をかけながら歩くようにしましょう。
家具にぶつかって危ない?
室内を自由に動くばかりか、ソファに飛び乗ったりもするため、愛犬の失明に気づかない飼い主さんもいるほど、犬は家具の配置や部屋のつくりを記憶しているものです。そのため、自分が過ごしてきた室内では、問題なく過ごせる場合が多いようです。愛犬が過ごしてきた室内の家具は、できるだけ動かさず、配置を変えないようにしましょう。室内の小さな段差を解消できるグッズなどを利用して段差をなくし、家具のでっぱりにガードをつけるなどして、ケガをしない工夫も。
アイコンタクトができないけれど、絆はどうなるの?
声がけや手のぬくもりで愛情を伝え、音や声でトレーニングをしたり、嗅覚を使った遊びをいっしょに楽しんだりして、絆を深めることもできます。嗅覚を使った遊びがおすすめ。おやつやフードを詰めて遊ぶ知育おもちゃなどを利用して、声がけしながらいっしょに楽しみましょう。
人や対象物の場所がわからなくて困る?
飼い主さんがどこにいるのがわからず不安になる、フードボウルの場所を探してしまうなどの困りごとには、音やニオイで場所を認識させてあげるといいでしょう。たとえば、ゴハンにウエットフードをトッピングして、ニオイを強くするとフードボウルの位置がわかりやすくなります。愛犬の名前を呼ぶなどして声をかけ、おもちゃを鳴らす、自分の足を軽くたたいて音を出すなどし、愛犬を誘導してあげて。
白内障は手術で治せる病気です。若いころから目の健康診断を受け、早期に対処できるように努めましょう。
お話を伺った先生/「どうぶつ眼科EyeVet」院長。獣医師、獣医眼科学専門医。小林一郎先生
参考/「いぬのきもち」2024年10月号『見えるを守る! 犬の白内障』
イラスト/うてのての
写真/尾﨑たまき
文/伊藤亜希子