子どもの頃から「“他人とかぶりたくない”という気持ちが強かった」と話す八巻さん。その気持ちが声優という職業を知るきっかけになり、「自分だけの表現を見つけたい」という目標にもつながっているそうです。
——八巻さんが声優を目指したきっかけは?
八巻:声優っていうお仕事を認識したのは小学校高学年のとき。図工で「将来なりたい職業を粘土でつくる」っていう授業があって、なんとなく女優さんのような華やかな職業に憧れていたんですけど、他の人とかぶるので調べてみたら声優っていう仕事を見つけて。アニメも好きだったし、いいじゃん!と。
——「他人とかぶりたくない」っていう気持ちからスタートしたんですね。
八巻:はい。でも鳥取の田舎で声優になるのは現実的じゃなかったというか。じつは高校のとき、声優を目指す友だちといっしょに専門学校の体験を受けたことがあって。声優の道へ進みたかったんですけど勇気がなくて、そのまま大学に進学しました。でも、一回きりの人生でやりたいことがないってどうなんだろうと考えて。親に相談して、大学と平行してお芝居の勉強をさせてもらいました。
——声優の夢が現実的になったんですね。生まれ育った鳥取はどんなところですか?
八巻:穏やかで、人もみんなほのぼのしてるんですよ。しゃべり方もゆったりしているから、大学で関西に行ったとき、話すテンポの違いにびっくりしました。友だちと話していても「あ、うん。あ、うん」って言ってるうちに話が終わっちゃうような(笑)。
——(笑)。八巻さんの幼少時はどんな子どもでしたか?
八巻:小さい頃はめちゃくちゃやんちゃで、アルバムを見てもどこかに絆創膏を貼っているような感じ。その頃は人と接するのが大好きで、いろんな人に話しかけていたんですけど、中高から人見知りを発揮して内気な性格になっていきました。
——そうなんですね。そのあと、学生時代に打ち込んでいたことはありますか?
八巻:小学4年から高校1年まで卓球をやっていましたけど、それはなんとなく惰性で続けていたというか。高校でバンドのドラムを始めてからは3年間打ち込みました。4つくらい掛け持ちして、メインは女の子3人のバンド。ガールズバンドのコピーをしたり、オリジナルの曲を演奏したり。
——音楽のセンスが今のお仕事に役立ちそうですね。
八巻:歌はうまくないですけど(笑)。ピアノをずっと習っていたので、リズム感は役に立っていると思います!
——声優になってからすぐに『アイドルマスター シャイニーカラーズ』の白瀬咲耶役に。八巻さんにとってどんなキャラクターですか?
八巻:かっこいい女の子が好きなので見た目はすっごく好みなんですけど、咲耶は人を楽しませるのが好きな女の子で、常に誰かを喜ばせようって考えながらしゃべる気持ちが最初はわからなくて。でも、ストーリーが進むにつれて内面が見えてきたんです。そう考えていたからこういう言葉を話していたんだなって、共感できるところがいっぱい出てきました。
——咲耶役に徐々に近づいていけたんですね。L’Antica (アンティーカ)っていうユニットにはどんな魅力を感じていますか?
八巻:みんなそれぞれ気遣い屋さんで、めちゃ仲良いんだけどどこか距離を図りながら遠慮しがちな子もいて。「これ言って大丈夫?」とか考えているところが、私も同じタイプだからわかるな〜って。身近に感じられるところが好きです。
——『アイマス』という人気コンテンツに携わってよかったと思うことは?
八巻:やっぱり白瀬咲耶という役がなかったら今の私はなかったと思うし、オーディションに受かるとも思っていなかったので、いまだに不思議な感じがするんですけど。ステージに立つっていうのは、セリフだけじゃなくもっと役を全身で感じて深掘りできること。一つの役を長く演じて、役を深めていける機会をいただけていることは、すごくうれしいなって思います。
——では、TVアニメで初レギュラーとなった『ライフル・イズ・ビューティフル』(2019年)の五十嵐雪緒役には、どんな思い出がありますか?
八巻:雪緒って私が今まで演じたことのないキャラクターで。静かにボソボソとしゃべるんですけど、思い切って演じてみたら意外と楽しかったし、自分のなかにこういう引き出しがあるんだって新発見があって。もしかしたら自分が思っているよりいろんな役を演じられるのかもしれない、と気づかせてくれた作品です。
——思い出深いですね。この作品では「ライフリング4」というユニットでも活動されて。
八巻:楽しかったですね〜。たくさんの曲を短期間でレコーディングさせていただいて。咲耶はわりと地声で歌っているんですけど、雪緒はキャラクターの声を維持しながら歌うのが難しくて。本当に勉強になりました。
——プライベートについても伺いますね。趣味では「お笑いライブ鑑賞」というのが気になったのですが。
八巻:そうなんです。地元にいるときも生配信を家でずっと見ていたりとか。大学では京都の劇場に足繁く通っていました。チーモンチョーチュウさんっていう芸人さんが好きでずっと応援してます! シュールな漫才なんですけど、シュールの種類がどの芸人さんとも違う方向で。ともすれば、ちょっと怖いくらい不思議な空間になるんですよ! そんなところに惹かれて応援してます。
——お笑いのどんなところが好き?
八巻:人を笑わせる技術がすごい!って尊敬する気持ちもありますけど、単純に自分が笑っていると幸せになるから、笑いたくて見ている感じですね。笑って日ごろの重荷をちょっと下ろすというか。
——では、休日はどんなふうに過ごしていますか?
八巻:映画や舞台をみるのが好きで、一人でも行きます。ジャンルはこだわってなくて、それこそオススメされたらすぐに見に行ったり。最近だと、『ミッドナイトスワン』っていう映画がおもしろかった。草彅剛さんがトランスジェンダーの役を演じているんですが、その演技がめちゃくちゃ自然で。女の子役は新人の方で、経験を積んでいないからこその存在感がものすごくて。お話もそうですけど、お2人のお芝居にすごく惹かれました!
——感動が伝わりますね、すごく見たくなりました(笑)。では、声優さんで気が合うような方を教えてください。
八巻:よく会っているのは菅沼千紗です。家がめちゃくちゃ近くて、よく「今日ご飯行ける?」ってLINEがくるんですけど、近所でご飯食べて解散、とか。昨日も「お肉食べる人いますかー?」って。行けなかったんですけど「じゃあまたね〜」って。そのくらいのノリです(笑)。シャニマスで初めて会った日に帰り道がずっと一緒で、「あれ?何駅?…同じだね!」って(笑)。それからずっと仲がいいですね。
——どちらから誘うことが多いんですか?
八巻:私は千紗に限らずあんまり人を誘うほうじゃないので、だいたい千紗のほうから誘ってくれます。最近は近所のお寿司屋さんに行くことが多いですね。現場が一緒だったときはだいたい「千紗はすし食べてくけどアンナは行く?」みたいな感じで。千紗は一人でもよく行ってるみたいです(笑)。
——仲の良さが伝わりますね! ではこれから、どんな声優になっていきたいですか?
八巻:贅沢をいえば、唯一無二の声優になりたいです。「この役を八巻に任せたい」って言ってもらえるような、自分だけの表現ができるようになりたいなと。観ていただく方にも八巻でよかったなって思ってもらえるような存在になりたいなって。
——「人と違う存在になりたい」っていう気持ちは、声優という職業を知った小学生の頃から変わっていないんですね。
八巻:あ、そうですね! 昔から人と同じことが好きじゃなくて…。私だけの表現が欲しいとずっと思ってきたので、これからもそれが目標になっていくと思います。
——演じてみたい役はありますか?
八巻:本当に日常にいそうな「普通の人」を演じてみたいです。キャラクターづけされていなくて、特徴がないような役。自分を出してもいけないし、自分を出さないまま、いかに日常に寄り添った役になりきれるのか。挑戦してみたいです。
——最後に、読者へのメッセージをお願いいたします!
八巻:まだまだ未熟で課題も山積みですが、お芝居が好きという気持ちだけはあるので、私の演じた役や関わった作品がひとつでもみなさんの心に残るように、これからもお芝居をがんばっていきたいなと思っています。どこかで見かけたら、あのときの人だなと思って、ちょっと声を聴いてもらえたら嬉しいです!
——八巻さん、ありがとうございました!
次回の「声優図鑑」をお楽しみに!
八巻アンナ
◆撮影協力
撮影=山本哲也、取材・文=麻布たぬ、制作・キャスティング=吉村尚紀「オブジェクト」