朝日小学生新聞の人気連載「ファーブル先生の昆虫教室」が、1冊の本になりました! たのしいイラストとやさしい文章で、ファーブル先生が昆虫たちのおもしろい生態を教えてくれます。昆虫たちの奥深い世界に、大人も好奇心をくすぐられる児童書です。
『ファーブル先生の昆虫教室』(奥本大三郎:文、やましたこうへい:絵/ポプラ社)
セミ③ セミの体
セミには目が五つもある、と言ったら、みんなびっくりするだろうね。
では実際にセミをつかまえて調べてみよう。
まず頭の両側に二つ、はなればなれに、わりあい大きな目があるね。これが「複眼」。一つの目に見えるけど、じつは小さな目がたくさん集まってできているんだ。
その中間のところに、三つ、小さなつぶがあるだろう。アブラゼミだったら、宝石のルビーみたいな赤い色をしている。これを「単眼」というよ。
この五つがセミの目だ。セミは昼間活動する昆虫だから、目がよく見えるんだ。木にとまって「ミーン、ミーン」と鳴いているところに、つかまえてやろうと、そうっと近づいても、あともう少し、というところでさっと逃げられてしまうね。こっちの姿がよく見えてるんだなあ。
耳はどうなんだろう。セミの耳のはたらきについて、私は実験してみた。思いっきり大きな音をたててやったら、セミはどう反応するだろうか。
それで村の役場から大砲を借りてきて、セミが鳴いている木のそばで空砲をうつことにしたんだ。
空砲というのは、弾をつめないでうつこと。火薬を爆発させて、「ドン」と大きな音を鳴らすんだ。
セミが鳴いているプラタナスの大木のそばで実際にうってみた。
どうなったと思う? セミは平気だ。知らん顔をして「ジージー」鳴きつづけていたよ。だから私は、セミは耳が聞こえないんだと考えた。
でも、それはまちがっていたみたいだ。
生き物によって聞きとれる音の範囲はちがっていたんだね。大砲の音は、セミの聞きとれる範囲にはふくまれていないんだ。だからセミは大砲の音を感じなかったわけ。
鳴くのはセミのおすだけだよね。やっぱりおすはいい声で歌って、めすに聞いてもらいたいんだよ。そしてめすのほうでも、歌のじょうずなおすに魅力を感じるらしい。歌がうまいと得だね。
text : Daisaburo Okumoto
セミ④ セミの口とおしり
セミの体をひっくり返して裏側から見てみよう。人間でいえば顔にあたるところに細い管があるね。これがセミの口なんだ。
セミはこれを木の幹につきさして汁を吸うんだ。
といっても、これをそのままぐさっとつきさすんじゃない。このままだとかたい木の皮にささらなくて折れちゃうよね。
この管の中に、もっともっと細い針のような管があって、それを木の皮の繊維の間にじょうずに、無理なくさしこむんだ。それが極細のストローみたいになっていて、木の汁を吸うってわけ。
今度はセミのおしりを見てみよう。めすのセミは、かれかけた枝にとまると、おしりの先から針を出すんだ。この針がじつは2本ののこぎりでできているんだからおどろくよね。
この2本の細い棒のようなのこぎりを、右、左、右、左とかわりばんこに動かして、かたい木の皮を切りさく。そして、その中に卵を産みつけるんだ。
こうやってのこぎりを使えば、かたい木にだって傷をつけることができるんだね。セミは人間よりずっと前にのこぎりを発明したことになる。
セミの母親がいっしょうけんめい卵を産みつけていると、小さな小さな虫が飛んできて横でじっと待ってることがあるよ。
よく見るとハチの仲間だ。セミタマゴバチという名前だ。
このハチはセミの母親が卵を産みおえるとさっそくやってきて、卵の間に自分の卵を産みつけるんだ。ハチの幼虫はセミの卵を食べて育つ。
母親のセミがこのハチをふみつぶそうと思えばできるのに、そうはしないんだ。それでセミの卵はやられてしまう。
こんなふうにほかの虫や動物を利用して暮らす生活のしかたを「寄生」というんだよ。
日本のヒグラシというセミの腹にはときどき白い綿のようなものがついていることがある。
これはセミヤドリガという小さなガの幼虫だ。セミの腹から養分を吸って大きくなる。これも寄生だよ。
text : Daisaburo Okumoto
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