新装版『ハリー・ポッターと賢者の石』(J.K.ローリング:著、松岡佑子:訳、佐竹美保:イラスト/静山社)
「ハリー・ポッター」シリーズと言えば、もはや説明不要の世界的ベストセラー。シリーズ全7作品は約80カ国語に翻訳され、累計発行部数はなんと5億冊を突破! 映画やテーマパーク、ゲームなど幅広いメディアに展開され、原作小説の完結から10年以上たった今も大人から子どもまで多くの人に愛されている。
そんな「ハリー・ポッター」シリーズが、日本語版発売20周年を記念して新装版になって登場。新しいカバーイラストを描くのは、『魔法使いハウルと火の悪魔』『十年屋』『魔女の宅急便』(3~6巻)の挿絵を手掛けた佐竹美保さん。表紙だけでなく、各章の冒頭にも小さな描き下ろしイラストが添えられている。第1弾としてすでに『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』が発売されており、2020年春から4巻以降が順次刊行される予定だ。
第1巻『ハリー・ポッターと賢者の石』(J.K.ローリング:著、松岡佑子:訳、佐竹美保:イラスト/静山社)は、ホグワーツ魔法魔術学校に入学したハリーと仲間たちの最初の冒険を描いた物語。俗物で意地の悪いおじ一家のもとで、彼らに虐げられながら育った孤児ハリー。11歳の誕生日、そんなハリーのもとに1通の手紙が届く。それはホグワーツ魔法魔術学校への入学許可証。キングズ・クロス駅の9と3/4番線から汽車に乗って魔法の世界に旅立ったハリー、その運命の輪が大きく回り出す!
今回久しぶりに『賢者の石』を読み返し、あらためて感じたのは魔法世界の描写の素晴らしさ。所属する寮を決める「組分け帽子」、身にまとうと姿が消える「透明マント」、忘れてしまったことを教えてくれる「思い出し玉」、生きた駒を指揮する「巨大な魔法のチェス」などの魔法の道具に子どものように胸を高鳴らせ、魔法界の人気スポーツ「クィディッチ」のめまぐるしい展開にハラハラドキドキ。かつて『赤毛のアン』のいちご水にあこがれたように、糖蜜パイやバター煮の豆といった異国感あふれる食べ物を想像するのも海外児童文学の醍醐味だ。情景描写も簡潔でありながら、夜の森の闇深さ、大広間のきらびやかな装飾などがありありと目に浮かび、ページをめくるごとに魔法の世界に惹きこまれていく。
もちろん、ハリーたちが繰り広げる冒険も見逃せない。同じクラスのロンやハーマイオニー、名前を言ってはいけない「例のあの人」こと邪悪な魔法使いヴォルデモートなど、シリーズの中核をなすキャラクターが勢ぞろいし、ドラマティックな戦いを繰り広げていく。その後の展開を知ったうえで読み返すと、初めて読んだ時とはまた違う感慨を味わえるはずだ。
シリーズ20周年とあって、かつてハリーの冒険にワクワクした小中学生も今や立派な大人。中には、子を持つ親になっている人もいるだろう。クリスマスプレゼントとして購入してお子さんと一緒に楽しむもよし、自分ひとりであの胸躍る冒険を追体験するもよし。新装版の発売を機に、あらためて「ハリー・ポッター」の世界に浸ってみては?
文=野本由起
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