『感性ポテンシャル思考法』(村田智明/生産性出版)
「消費者の共感を生むものづくり」を提唱しているのが本書『感性ポテンシャル思考法』(生産性出版)の著者村田智明氏だ。村田氏は、三洋電機のデザインセンターを経て、現在はデザイナー、プロデューサー、大学教授、などを務める傍ら、多くの企業の商品開発に携わる。
村田氏は、「共感とは感性への働きかけの結果」と述べる。そして商品へこの共感ポイントを組み込む方法として「感性価値ヘキサゴングラフ」の活用を提案する。これは捉えようのないものと思われてきた感性を、その生み出す価値から6つの領域(感覚・創造・技術・啓発・文化・背景)に分類し、見える化するツールである。例えば、五感に直接訴える特徴のある商品は“感覚”主体に、ストーリー性のある商品ならば“背景”主体に、共感を得る訴求ポイントを捉えることを可能にする。これを感性価値として商品を特徴づけるのだ。
この手法は、企業のブランド価値向上にも役立つと著者は述べる。日本企業が得意な品質・技術一辺倒から、商品にまつわるエピソードなど、共感を生むポイントを広く捉え直し、ブランド価値として加え高めていく「感性経営」への転換を提唱する。巻末に付属する事業プランシートはぜひ活用してみたい。読者自ら感性価値ヘキサゴングラフを描き、事業構想を練ることができる。
一方、消費者個人にとっての感性とは、共感を生むコミュニケーション能力に他ならない。その基盤となるものが「記憶ストック」といわれるものだ。五感をセンサーとしたインプットは、認知・判断のフィルタにかけられ、言葉でタグ付けした「記憶ストック」に入る。これが感性の源となるデータとなる。また童心に返ることなどは、この工程を活性化する重要な態度とのことだ。このメカニズムを知ることで、感性を育む自分なりのルーティンを考えることができそうだ。
誰もが経験する一目惚れも、この「記憶ストック」をベースにした一瞬の自動処理、つまり感性が作用したひらめきだ。感じる力に磨きをかければ、個人も企業も、その関わりあいのなかにひらめきを多発させ、共感をさらに高めることが可能になるのだ。人生もビジネスも共感が成功の秘訣といえるだろう。
読後、筆者はふと、ある哲学者の「生きて死ぬとは、五感を楽しませ、人生の彩りを濃くし、五感の衰えと共に内包した喜びに包まれて死ぬことだ」という言葉を思い出した。人生の豊かさとは、感じる力次第なのだ! ビジネスパーソンだけでなく、人生を一層輝かせたい全ての人に推奨したい。
文=八田智明