──佐藤さんは本プロジェクトの企画に参加されていますが、どのような経緯で携わることになったのでしょう?
佐藤 友人であるm-floの☆Takuさんからの紹介でHIROさんにお会いした時に構想をうかがったんです。これは面白いと感じてお手伝いをさせていただくことになりました。僕の役割はBOTというプロジェクトを、どのようにアニメ的かつSF的世界観のあるものにしていくかでした。
平沼 大まかな流れとしては、HIROさんと一緒に考えたコンセプトを佐藤さんに見てもらって意見をいただき、互いにアイデアを出し合っていくというものでした。まだ設定や構想を練っている途中でしたが先行して2019年に6本のMVが作られました。これはご覧になった方なら分かってもらえると思うのですが、2人のMV監督の独創的なイメージがカッコよくて、僕らは構想を見つめなおして基盤が出来たんです。
佐藤 そこを経て今準備している新たなMVの企画からもヒントをもらって、さらに設定をつけ足していきました。あらかた出来た物語全体の構成を月島さんにお渡ししたのですが、小説にする月島さんのご苦労たるや相当だったと思います。
平沼 僕たちが「そこは後で考えようか」と置いておいたところを、月島さんから一つ一つ細かく質問されましたね。「じゃあ今から考えます!」と慌てて大さんと話し合って……。
佐藤 そんなやり取りを繰り返して補強されていった感はありますね。
メンバーに30個の質問を出してキャラクターを作っていった
月島 僕の方から提案させていただいたアイデアもありました。特殊な世界設定ですし、予備知識なしで小説を読む方も多いと思うので、読者の感情移入を誘う案内人的なキャラクターを加えましょう、と。
―― 小説版に登場する女子高生マキナですね。彼女の大切な指環が謎の怪盗団「MAD JESTERS」に盗まれたところから物語は動きます。マキナの目を通して各キャラクターたちが生き生きと描かれますが、キャラクター設定はどのように決まっていきましたか?
平沼 僕は俳優部でもあるのですが、演じる際に50個くらいの質問を自分に出して答えるかたちで役作りをしているんです。今回それを30個に絞って4チーム38人のメンバーにアンケートをとりました。「自分と違う人間を演じるとしたら、どんな人間になりたい?」と。面白いのは「こういうキャラになりたい!」と具体的に答える人もいれば、自分はどんなキャラが向いているか悩んでしまう人もいて。だけど当人と面談して「こういうのが向いてるんじゃない?」とトスを投げたら、「あ、僕そういうのが好きなんです」と自分の志向性や願望に改めて気づいたりと。そうやってメンバー自身が自分にふさわしいキャラを考えていったんです。
―― 小説にはスマッシュが筋肉マニア、シャーロックはリスを可愛がり、イタルは大人の女性が苦手という描写がありますが。
平沼 それも本人たちがそう書いていました。シャーロックのロックのスペルはRockにしてください、なんて細かい指示までつけて(笑)。
月島 アンケートの回答からヒントをもらうこともありました。たとえばスマッシュが筋肉マニアというくだりには追記で、数原(龍友)さんがこんなことを書かれてたんです。「3Dプリンターの食事を嫌い、高タンパク質の食材を好む」。ということは、超東京の世界では食べものすらもコピーされているのだな……と想像しまして。そんな、ちょっとした書き込みの数々が小説を書く上でずいぶん参考になりました。
佐藤 ここまでアーティストたちとがっぷり組んで共作する現場は滅多にないですね。小説だけでなく、新作MVに出てくる楽曲に関しても、作詞家さんと話し合い、ワードの選定や各チームの要素をどの程度まで盛り込んだ内容にするかといったことも一緒に考えていきました。
BOTの根底にしのばせた問い
―― 4チームはそれぞれ異能の力(スキル)を持っていますが、そこにはどんな意図が込められているのでしょう?
平沼 各チームのカラーを目に見える形で表現しようと考えました。怪盗団である「MAD JESTERS」にはコピー、つまり盗むというスキル。「ROWDYSHOGUN」は用心棒集団だからプロテクト(防御)。イリュージョニストの顔も持つ「Astro9」は触れたものをコンバージョン(変換)でき、ハッカーチーム「JIGGY BOYS」はハッキング(情報簒奪)のスキルがあります。
佐藤 これらのスキルは作品テーマともつながっていまして、BOTの根底にはオリジナルと非オリジナル、あるいはアイデンティティとは何かという問いをしのばせています。ダンスミュージックというジャンルがサンプリングを重ねて進化してきたように、Jr. EXILE世代の彼らは先輩たちから強い影響を受けて、憧れから出発して、それゆえに自分たちのオリジナリティを必死に模索しているはず。そんな状況をそのまま設定に組み込んで、アイデンティティを掴みとる戦いの物語にしたら、現実との相乗効果も生まれてすごく面白くなるんじゃないかという予感がします。
平沼 SF的な設定にした一番の理由はそこですね。物語のフィルターを通すことで、アイデンティティという漠然としたものが具体的に見えてくる。さらにそれを月島さんが小説の形で、様々なキャラクターの細かい部分を肉付けしていってくれる。
月島 なにしろ主役級の人物が38人もいますので。壮大な物語はもちろんのこと、各自の背景なども余すところなく書き進めていきたいです。埋没しないよう各キャラに頑張ってもらわないとですね。それもまたバトルではないかな、と。
佐藤・平沼 うまい!
取材・文=川俣綾加(本記事は『ダ・ヴィンチ』2021年3月号「BATTLE OF TOKYO」特集からの転載です)
■プロフィール
つきしま・そうき●1980年生まれ。スクウェア・エニックス小説大賞入選作『emeth ~人形遣いの島~』で2007 年、作家デビュー。09 年『巴里の侍』でダ・ヴィンチ文学賞A.S. ゼロワングランプリ大賞を受賞し、同作は宝塚歌劇団で舞台化。ゲーム脚本やマンガ原作も手がける。『小説 BATTLE OF TOKYO vol.1』を執筆。
ひらぬま・のりひさ● 1976 年生まれ。『HiGH&LOW』全シリーズの脚本を手がける。出演作に『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』『ひだまりが聴こえる』など。監督作に『DTC- 湯けむり純情篇-from HiGH&LOW』『私がモテてどうすんだ』。本プロジェクトの初期構想からキャラクター設定などに携わる。
さとう・だい● 1969 年生まれ。放送構成・作詞の分野より活動を開始し、ゲーム・音楽業界を経て現在はアニメーションの脚本執筆を中心に活躍。代表作に『交響詩篇エウレカセブン』など。3月公開『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』、6月公開『サイダーのように言葉が湧き上がる』の脚本も手がける。
外部リンク
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