※この記事は、2017年9月にBuzzFeed Japanで公開した記事を再編集したものです。
『Lesbian Decadence (レズビアン・デカダンス)』という本を知っているだろうか。
『Lesbian Decadence:Representations in Art and Literature of Fin-de-Siècle France (レズビアン・デカダンス ー 19世紀末フランスの芸術と文学の表現)』は、19世紀にパリで始まった「デカダン運動」のイラストを取り上げた本である。
2016年、11年前に出版された本が復刻され、翌年の2017年には、ゴールデンクラウン文学協会からアンソロジー/コレクション (クリエティブノンフィクション) 部門で、ゴールディ賞を受賞した。
オリジナル本は、2005年にフランス人作家のニコル・アルベールによって編集され、 『Saphisme et Decadence Dans Paris Fin-De-Siécle』というタイトルで出版されている。
イギリスに拠点を置く学術書出版社「テイラー・アンド・フランシス・グループ」の一部である、ハリントン・パーク・プレスは、LGBTQコミュニティに関連する学術書を取り扱っている。
2019年に亡くなった共同創立者ビル・コーエン氏は、 2017年のBuzzFeed Newsの取材に対し、1900年代初頭のレズビアンたちについて説明してくれた。
「当時のフランスでは同性間の性行為は犯罪とされていませんでしたが、精神科医たちからは病人だとみなされていました」
「当時のモラリストたちは、レズビアン=かわいそうな人、だと思っていました。しかし、実際の世の中では、レズビアニズムを目にする機会が多かったのです。1900年代初頭には、人々に衝撃を与えた絵も描かれました」
以下は、当時の新聞、小説、雑誌の表紙からのイラストに、本からの抜粋を付け加えたものだ。
レズビアンをテーマにした特別号の表紙:ジル・ガリーヌ、Les Mesdam’messieurs、 L’Assiette au Beurre (アシエット・オー・ブール) 、1912年3月2日。
「女男 (Woman-Man)」当時、男性のものだとされていた服装や趣味を好んでいた女性を、作家たちはそう定義した。
フランス語だと、「mesdam'messieurs」。
これは、風刺雑誌アシエット・オー・ブールが出版した、レズビアンをテーマにした特別号のタイトルとたまたま同じだった。
トニー・ミナーツよるイラスト「Rayon du Moulin-Rouge」/「Moulin Rouge Department (ムーラン・ルージュ店内)」、アシエット・オー・ブール、1902年2月8日。
1889年、パリ市内でムーラン・ルージュと呼ばれるキャバレーがオープンした。広い店内は、ショーダンサーが踊っており、観客たちは彼女たちに釘付けだった。
ムーラン・ルージュには、ダンスフロアもあった。そこでは、女性カップルが抱き合ってワルツを踊っていることがよくあったという。
風刺雑誌『アシエット・オー・ブール』に掲載された上記のイラストは、画家のトニー・ミナーツによって描かれた。
強く抱き合ってぐるぐる回る女性たち。
イラストには、絵を説明する文章も添えられていた。
「若い男、かわいそうな男たちは気づいていない。彼らなしでも、私たちは上手くやっていけるのだと」
Tadeusz Stykaによる「Dark and Fair (黒髪と金髪)」(1908年頃)
当時、広く受け入れられていた類型論では、真のレズビアンはブルネットの女性か、赤毛 (赤は不自然さの典型だった) とされていた。
そのため、金髪の女性は進んで受け身になる、と。
英一蝶による「Petites Amies」/「Girlfriends (ガールフレンド)」、フェリシアン・シャンソーの小説「Poupée Japonaise/ Japanese Doll (日本人形) 」のイラスト (1912年版)。
一章のタイトルに、 フランス語で仲の良い恋人を意味する『inseparables』という言葉が使われた。
1912年版のイラストには、英一蝶による『Petites Amies(彼女)』というタイトルの色彩版画が使用されている。
着物を結ぶ帯のように手を繋ぐ女性たち。恋人同士のふたりが強く結ばれている印象を人々に与えた。
ピエール・エロー、「L’amour qui n’ose pas dire son nom (The Love That Dare Not Speak Its Name、名乗らぬ愛)」、Le Rire (ル・リール)、1930年11月29日。
『すまないが、そこの若い男性!うちの女房が性別をなくしちまったんだが、もしかして君がみつけなかったかね?』
フランスで人気のあったユーモア雑誌『ル・リール』は、1894年10月から1950年代まで発行された。
ルネ・ドナンの「Ces Dames de Lesbos」/「These Ladies of Lesbos (レスボスの女性たち)」のためのÉtienne le Rallicによる表紙のイラスト (1928年)。
ほぼ無名の小説家によって書かれた本『Ces Dames de Lesbos』には、サフィズム (レズビアニズム) の歴史を遡っている。
時空や土地を超え、最終目的地であるパリのレズビアンバーに到着するまでの過程が書かれている。
「Faute de Venise—II y a le lac du Bois de Boulogne.(ベニスの過ち—ブローニュの森の湖がある。)」 ジョセフ・クーン・レニエによるイラスト、風刺雑誌Fantasio、1923年8月1日。
上流階級の女性たちが、夜のロマンチックな冒険を楽しんでいる様子が伝わる。
フランス・パリ16区にある森林公園、ブローニュの森は、レズビアンやレズビアンの売春婦の待ち合わせ場所として有名だった。
絵には、こう綴られている。
『ベニスが遠すぎるなら、いつだってブローニュの森の湖がある』
Raymond de la Nézière、「Quelques femmes à Bicyclette」/「Some Women on Bicycles (自転車に乗った女性たち、部分拡大図)」、La Vie Parisienne、1893年9月16日。
『Parisian Life (パリっ子の生活)』は、1863年にパリで創刊されたフランスの週刊誌で、1970年まで発行された。
1905年、同雑誌は控えめではあるが、きわどいエロティックな週刊誌へと変貌していく。
モーリス・ラディゲ、シャルル・ヴィルメイトルによる『Mlles Saturne』の表紙 (1898)
19世紀の終わり、歴史家シャルル・ヴィルメイトルは、パリの同性愛について研究した書籍を発表するつもりだった。
当初、考えられていたタイトルは『Les Marchandes d’ail』、意味は「にんにく売り」。
女性が女性にオーラルセックスをすることを、わいせつに婉曲表現したタイトルだった。
結局、ヴィルメイトルは書籍のタイトルを、ローマ神話に登場する豊穣神に由来し、『Mlles Saturne』と名付けた。
芸術家モーリス・ラディゲによって描かれた書籍の表紙には、この仮タイトルの跡が残っている。にんにくが1つ、戸口の上にぶら下がっている。
Zyg Brunnerによる「Boîtes de Nuit (Night Clubs、ナイトクラブ)」、アシエット・オー・ブール、1909年9月4日
イラストの下には、こう書かれている。
「そうね、王子様。パリの女性たちを理解している男性は、2人だけです。そう、あなたと . . . 私」
アーマンド・バリーによる「L’Embarquement pour Lesbos」/「The Departure for Lesbos (レスボスへの出発)」、Fantasio、1929年6月1日
アーマンド・バリーによって描かれた絵の女性たちは、手足が長く、魅力的なお転婆娘。
旅行で異国へと向かう彼女たちの足取りは軽やかだ。「愛がある場所はさらに美しい」と彼女たちは言う。
Édouard Touraineによる「Le Sémiramis-Bar」、雑誌La Vie Parisienneの中のコレットの記事「Le Sémiramis-Bar」のためのイラスト、1909年3月27日
イラストの題名にある、Sémiramis(セミラミス)は、ある女性戦士の名前。彼女は、神話的部族、アマゾン族の女王だったと言われている。
「Lucie-berthe」、修正版
この絵を描いたドイツの画家フェルディナン・バックは、強く結ばれた2人の恋人たち、ルーシーとベルテの愛を力強く描いている。
腕に注目して欲しい。お互いの名前を繋ぐような、ハイフン(記号、-)にみえる。
ゲルダ・ヴィーグナーによる「Sexes autonomes:Les bars parallèles — Rétablissement」/「Autonomous Sexes: Parallel Bars — Restoration (自立した性: 並行するバー — 復活)」、Fantasio、1925年7月15日。
芸術家のエドゥアール・シモは、労働者階級が住む芸術的なパリの一画に魅了され、そこで生きる女性カップルたちをデッサンした。
絵で描かれている女性たちは、売春で生計を立て、貧しかったという。
また、フランスの画家ジャン=ルイ・フォランと、同じく画家のトゥールーズ=ロートレックも、足しげくこのカフェに通い、常連客を描いたそう。
Albert Guillaumeによる「Gravelures de mode pour 1895」/「[Naughty] Highlights of the Fashions of 1895 (1895年のファッションの [やんちゃな] ハイライト )」、Gil Blas illustré、1895年10月20日。
このイラストは、フランスの画家アルベール・ギョームによって描かれた作品で、男性の服を着た「風変りな」女性たちに焦点を当てている。
イラストで描かれた女性は、男性用のイブニング・コートを着ている。口にはタバコをくわえ、襟が高いワイシャツがたくましい。
イラストには、以下の文が添えられている。
『ディナーパーティーにぴったりのスーツは、今なら半額。外には着て行かないように!ルーブルは百貨店1階」
本文は、読みやすさのために編集しています。
この記事は英語から翻訳されました。