※本記事は、2021年5月21日に掲載した記事の再掲です
Helen H. Richardson/MediaNews Group/The Denver Post via Getty Images
・COVID-19のパンデミックが始まってから従業員を一時解雇した飲食店は、今度は彼らを呼び戻すことに苦心している。
・専門家によると、アマゾンは大量雇用の取り組みと高い賃金により、アメリカの飲食店から労働力を吸収しているという。
・ファストフードのチェーン店は、インセンティブで労働者を呼び戻そうと努力しているが、それだけでは不十分のようだ。
飲食店が労働者の確保に苦労しているのはアマゾンのせいでもあると専門家は述べている。
アマゾンは長い間、アメリカの市場に破壊的な影響を与えてきた。2016年、同社はオンラインでの低価格販売によって、書籍チェーン店のボーダーズ(Borders)や家電量販店のサーキットシティ(Circuit City)といった小売チェーンやショッピングモールの消滅を招いたとして非難された。そして今、同社は飲食業界からの労働力を吸収しつつある。
求人口コミサイトのグラスドア(Glassdoor)でシニアエコノミストを務めるダニエル・ザオ(Daniel Zhao)は、「オンライン小売業者の高給は最低賃金の仕事を脅すもので、労働者は飲食産業からアマゾンの倉庫や他のオンライン小売業の仕事に流出している」とブルームバーグに語っている。
アメリカ政府のデータによると、COVID-19のパンデミックが発生してから、飲食業界は1060万人の労働者の半分以上にあたる590万人を一時解雇せざるを得なかった。その一方で、アマゾンは配送センターの人員を50%増加させるなど、積極的に採用活動を行っていた。2020年には1日平均1400人が新規で採用されたとニューヨーク・タイムズが報じている。同社は2021年5月13日、アメリカとカナダの配送センターや輸送部門で、さらに7万5000人の労働者を雇用すると発表した。
パンデミックをきっかけに、飲食業界の労働者はアマゾンなどの企業に群がるようになった。2020年の春、グラスドアのサイト上で、飲食業界の労働者が「アマゾン」と検索する回数が600%以上増加し、「倉庫」と検索する回数も200%以上増加した。
現在、飲食店では、従業員を呼び戻すためのインセンティブを用意している。同時に、アマゾンも自社の雇用特典を強化している。
飲食店での仕事はますます魅力がなくなってきている
アマゾンの時給は17ドル(約1860円)から始まるが、最低賃金レベルから始まるレストランでは7.25ドル(約790円)からとなっている。
フロリダ州マイアミのシェフ、フィル・ブライアント(Phil Bryant)がワシントンポストに語ったところによると、アマゾンが高給であるため、多くの飲食店従業員が自分のキャリアについて考え直さざるを得なくなったという。彼のかつての同僚の多くが「アマゾンの倉庫なら時給17ドル稼げるのに、コックの仕事は暑くてストレスが多く、激務である上に、時給はわずか14ドル。それでもコックをやるというのか?」と自問しているという。
労働者は、飲食業界の将来にも疑問を抱いている。ブライアントによると、労働者たちは「この業界全体が一夜にして崩壊し、全員が失業してしまうようなことがあるなら、そこにとどまるに値するほど安定した仕事と言えるだろうか」と問いかけているという。
ニュージャージー州ロビンスビルにあるアマゾンの配送センターの内部。2019年12月2日撮影。
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カリフォルニア大学バークレー校の「Center on Wage and Employment Dynamics」の共同議長であるシルビア・アレグレット(Sylvia Allegretto)は、この問題を労働力不足によるものとは見ていないとInsiderに語り、アメリカではまだ1000万人が失業していると指摘した。
多くの労働者は、リスクを冒してまで飲食店で働く価値はないと考えていると彼女は言う。より賃金の高い仕事をまだ見つけられていない者でさえ、飲食業の仕事に戻ることをためらっているという。なぜなら、COVID-19に感染する危険があることに加え、客が減っていることで、チップを含んだ全体的な収入が減少する可能性があるからだ。
顧客と対面する最前線の仕事は、パンデミックの状況下では労働者にとって危険なものになっている。マスク着用義務を解除した州でも、店舗独自のポリシーとして来店者にマスク着用を義務付けるところがあり、従業員が客にマスク着用を促すとそれに不満を感じた客からかなりの反発を受けることがあるという。また、これらの従業員はCOVID-19にさらされるリスクも高い。
飲食店での仕事は特に過酷なことが多い。ベティ・ダグラス(Bettie Douglas)さんは、サンドイッチ店を辞めて、オンライン販売も行う衣料品店のレインボーUSA(Rainbow USA)で働き始めてからほっとした、とブルームバーグに語っている。彼女は皿洗いやレジ打ち、注文取りの代わりに、今は箱を開封して衣料品にタグを付けている。
人手不足は問題をさらに悪化させ、飲食業界での仕事をさらに過酷なものにしている。人手不足を補うために、従業員は追加のシフトや余分な仕事を押し付けられているのだ。NPOワン・フェア・ウェイジ(One Fair Wage)の最近の調査によると、レストラン従業員の半数以上が、賃金の低さや、別の就業機会を得たいことを理由に辞めようとしていることが明らかとなった。
マクドナルド(McDonald's)でマネージャーを務めるある人物は「どうしても人手が足りず、1日の勤務が16時間という日々が続いた」と、4月にInsiderに語っている。
多くのフードチェーンが、アマゾンに対抗してインセンティブを用意している
5月10日、チポトレ(Chipotle)は、6月までに平均時給を現在の13ドルから15ドルに引き上げると発表した。また、マクドナルドやタコベル(Taco Bell)などのチェーン店では、契約ボーナスや紹介ボーナスを提供する。フロリダにあるマクドナルドの店舗では、面接に来た人に50ドルを支払っていたとInsiderは報じている。
しかしそれでも、アマゾンが時給を上げ続けているため、飲食店はそのような企業との競争に苦戦している。アマゾンは4月、新入社員への支出を10億ドル(約1090億円)増やし、50万人以上いる時給制従業員の賃金を引き上げた。5月13日には、配送センターや輸送部門の新規従業員7万5000人のスタート時給をそれまでの15ドルから17ドルに引き上げ、さらに最大1000ドルの契約ボーナスを支給すると発表した。加えて、COVID-19ワクチンの接種証明書を提出した新規従業員には100ドルのボーナスが支給される。
飲食業界が人材確保に苦労しているのは、アマゾンだけが理由ではない。Insiderの報道によると、以前の仕事の収入よりも失業手当の方を多くもらっている者もいるという。また、COVID-19への懸念や、家庭での育児の必要性などから、仕事を始めるのをためらっている場合もある。Insiderが5月12日に報じたところによると、マクドナルドは労働力不足の原因は失業手当が拡充されたことにあると非難したが、記事ではマクドナルドは賃上げすることで問題を解決できるとも指摘している。
アメリカ政府のデータによると、レストランやバーの従業員はパンデミック以前と比べて160万人減少(約15%減)している。この労働力不足のため、飲食業界がパンデミック以前の水準に戻ることは、当分の間ないだろうと、グラスドアの研究員は述べている。
「パンデミックは、アメリカの労働市場に永遠に消えない爪痕を残すだろう。飲食業界とこれまで飲食業界で働いていた人材が行き着いた業界にとって、採用環境はこれまでとは大きく異なったものになるだろう」
[原文:Amazon was blamed for killing malls. Now its higher-paying jobs may be choking the restaurant industry's comeback.]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)