笑っているような顔から「世界一幸せな動物」とも呼ばれるカンガルー科の「クオッカ」の一般公開が7月1日から「埼玉県こども動物自然公園」(東松山市)で始まった。日本では60年ぶりとなる。
豪州をのぞき、世界唯一の「クオッカに会える動物園」の称号を得たわけだが、喜んでばかりはいられない。継続的な展示には繁殖の必要性があるからだ。飼育を見事に実現した園長の田中理恵子さんに苦労を聞いた。
●豪州以外唯一の「クオッカに会える動物園」
「フェザーデール野生生物園」から譲り受けたオス、メス2頭ずつ計4頭のクオッカは、3月に来日してから、コロナの休園期間を終えて、ようやくお披露目となった。
豪州にのみ生息するクオッカは体長約40〜50センチの小柄な体と、つぶらな瞳が魅力的。これまでは直接見るためには、現地に赴くしかなかった。
国外飼育は現在、世界で埼玉県こども動物自然公園だけ。2020年の開園40周年に向けて、田中さんは3年近くかけて実現にこぎつけた。
●あのサンディエゴ動物園も断られた
園にはコアラやカンガルーなど豪州の動物が多い。34年前、県がクイーンズランド州と姉妹州になり、6頭のコアラが贈られてから、豪州の動物園と交流が続いている。
それでも、クオッカの飼育にはハードルがあった。1961年の上野動物園(東京)、同時期のドイツの動物園に飼育記録があるものの、豪州以外でほぼ飼育の前例がないクオッカを求めて田中さんは、現地に飛んだ。
「動物園関係者が集まる大型会議に参加し、コアラの繁殖実績や、園の環境をアピールしました」
しかし、世界有数の動物園として知られるサンディエゴ動物園(米)が10年もラブコールを送っているのに、認められていないとも耳にした。
●4頭のクオッカを飼育するためには60平米の敷地が必要
最終的に飼育許可を出すのは、オーストラリア国家(豪州の環境野生生物局)だ。
「クオッカに関係する基準を満たす必要があります。飼育環境は土地の広さから、冷暖房、フェンスの高さまで細かく決められています。
埼玉県の気候はシドニーの動物園と差がほぼないとか、餌のあげ方などを書いた資料を提出し、生物局から質問が追加されて返される。これを1年近く繰り返しました」
国の許可がおりると今度は、譲渡元として指示されたフェザーデールの動物園と1年以上のやり取りが始まった。園の飼育スタッフと獣医が実地研修を受けた。
●あと1週間遅ければ、クオッカを見られなかった
約3年の働きかけを経て、今年3月にクオッカたちが来日したのは奇跡的なタイミングだった。クオッカを乗せたカンタス航空の日本便が来日1週間後にコロナの影響で休便し、今も再開していない。
ほぼ門外不出のクオッカに対して、園は「動物購入費用」を1円も支払っていない。フェザーデールから譲渡された。
お金がかかる特殊なケースとしては、上野動物園のジャイアントパンダが該当する。億単位の賃料で東京都にレンタルされ、所有権は中国にある。日本で2017年に誕生したメスの「シャンシャン」も今年中に中国に返還予定だ。
●動物園同士のBLが必要だ
動物園間の動物のやりとりは、「譲渡(輸送費は着払い)」や「ブリーディングローン(BL)」などの仕組みがある。
「BLとは繁殖目的貸与のことです。血が濃くなると繁殖できないので、園同士でBLをします。たとえば、当園にA動物園のコアラを半年貸してくださいという形です。1頭目はA動物園の子になる。2頭目は当園の子…。契約期間が終わると、A動物園に返します」
クオッカは2頭のメスに1頭ずつ赤ちゃんができることを目指す。