「居酒屋や焼き鳥屋でドリンクを頼まずにご飯だけを食べていく客が増えているらしい」。過去にそんな居酒屋での光景を伝えるブログの投稿が話題になりました。
ブログによると、居酒屋のカウンターで飲んでいたところ、後ろのテーブルから「6人分全員お冷でお願いします」「全員お水ですか?」「ええ、お水で結構です」といったやりとりが聞こえてきたそうだ。そのグループは結局、コースの料理だけを食べて帰っていったという。投稿者は、酒を飲めない人に酒を飲ませないという流れができたことは素晴らしいが、その結果、「酒を飲まない人は水」という流れになり、「居酒屋の経営を圧迫しうる」と指摘していた。
居酒屋としては、飲み物を頼んでほしいというのが本音だろう。「ドリンクをオーダーしない客には料理を提供しません」と、飲み物の注文を強制することはできるだろうか。消費者問題にくわしい福村武雄弁護士に聞いた。
●顧客がドリンクを注文する義務はない
まず、店側がドリンクについて、何も明示していなかった場合、どう考えればいいだろうか。
「飲食店で顧客がどのメニューを注文するかは本来自由です。
したがって、顧客に、有料のドリンクをオーダーする法的義務はありません。そのため、居酒屋であっても、料理だけを注文して水を飲むことは、何の問題もありません。
店舗側が口頭で顧客にドリンクの注文を求めても、それは店舗側の『希望』を表示したということにすぎず、顧客がドリンクを注文する義務はありません」
福村弁護士はこのように述べる。なぜ、そう言えるのだろうか。
「契約書はありませんが、料理の提供も契約です。店舗側と顧客、双方の合意が必要になります。
つまり、顧客に必ず有料のドリンクを注文してもらうためには、『料理を提供するためには、有料のドリンクを注文してください』という条件を店側が顧客に提示し、顧客が同意する必要があります。
店側が何も表示していない場合、こうした合意が成立しているとはいえません」
では、店側は「料理しか頼まない客は帰ってほしい」ということもできるのだろうか。
「そうですね。店舗側にも顧客を選択する自由はあります。今回のブログのような事案でも、そのような注文をする顧客に対して、料理の提供をせずにお帰りいただくこともできます。また、お水を有料にすることも、店舗側の自由です」
●「一人一杯ドリンクを注文してください」という表示の法的意味は?
店側が店内のメニューや店の外に設置した看板などで「一人一杯ドリンクを注文してください」と明示していた場合はどうだろうか。
「『一人一杯ドリンクを注文してください』という表示があった場合も、店舗側の希望を明示しているにすぎないと思われます」
あくまで、店側のお願いに過ぎないというわけだ。では、「ドリンクをオーダーしない客には料理を提供しません」という場合ではどうだろう。
「その場合は、店舗側の契約条件を示したことになります。
顧客が看板やメニューを確認したうえで注文してきた場合、ドリンクをオーダーしない客に料理を提供しないという対応は可能です。逆に、その条件に納得できない顧客は入店しないか、もしくは注文せず退店すればよいだけです」
店側がキッパリ入店を断るという対応をとるのは、難しいのではないだろうか。
「たしかに、実際には顧客は他の店舗を選択できるのに対し、ほとんどの店舗は、顧客を選択することは困難だと思われます。気に入ったお店では、気持ちよく楽しめるように振舞うほうが、顧客にとっても長期的にはお得なのではないでしょうか」