薬物依存症の若者とその家族を描いた映画「まっ白の闇」(監督・内谷正文)が11月3日から公開されている(新宿Kʼs cinemaなど)。 映画には、薬物依存症の回復支援団体「ダルク」のメンバーも出演する。
俳優の内谷正文さんが監督・脚本を担当した。映画には、薬物依存症の当事者であり、家族でもあった内谷さん自身が経験した苦しみがリアルに描かれている。内谷さんに話を聞いた。
●覚せい剤に手を出し、狂った弟
主人公の俊(百瀬朔)は、兄の昌(小澤亮太)の影響で、興味半分からマリファナをはじめる。大麻所持の疑いで現行犯逮捕された俊は、留置場で知り合ったキンタ(横関健悟さん)にすすめられ、覚せい剤に手を出してしまう。そして、覚せい剤のとりこになった俊は薬物依存症になり、家族を巻きこみながらこわれていくーー。
俊のモデルは内谷さんの弟、昌のモデルは内谷さん自身だ。「僕がクスリを教えたせいで、弟が狂っていきました。自分を責める毎日でした」と内谷さんは当時をふりかえる。
内谷さんの弟は覚せい剤がやめられなくなり、幻聴や幻覚、幻臭に悩まされるようになった。「血のにおいがする」と言ったり、「おれはワキガだ」と血が出るまで体を洗うこともあったという。また、「だれかに追跡されている」とおびえ、夜から翌日の朝まで湯船の中にかくれていたこともあった。映画では、このシーンも再現されている。
●もっとも苦しむのは家族
「当事者たちに会って感じたことを表現してほしい」。内谷さんは、出演者をダルクの施設や家族会に連れていった。「実感のあるシーンを撮るためにできることはなんでもした」という。出演者が集まり、台本を読む「本読み」のときには、内谷さんの母も招き体験談を話してもらった。
俊がつながる回復支援施設のシーンの撮影は、実際に「茨城ダルク」の施設内でおこなった。回復のために毎日おこなうミーティングのシーンには、ダルクのメンバーも出演している。
また、実際にダルクで回復プログラムの1つとしておこなっている和太鼓の演奏シーンもある。ダルクのメンバーによる演奏は「圧巻」だと内谷さんはいう。
家族会の様子もリアルに描かれる。薬物依存症者がクローズアップされることはあるが、家族に焦点があたるのはめずらしい。薬物依存症者の借金を肩代わりしたり、尻拭いに追われたりして、家族も共依存の関係に陥ってしまうことが少なくない。「もっとも苦しいのは家族です」と内谷さんはいう。回復が必要なのは、当事者だけではないのだ。
●薬物依存症の「現実」を知ってほしい
俳優でもある内谷さんは13年間、多くの中学校や高校で、自身の体験談をもとにした一人体験劇芝居を上演してきた。小学校も数校、訪れたという。
「子どもたちには全てを理解してもらえなくてもいいと思っています。ただ、薬物の怖さが頭の片隅に焼き付いてくれればいい」と内谷さんは話す。
また、自分をさらけだして表現活動をつづける理由について、「ほかの人に、僕のような思いをしてほしくない。それに、自分の回復のためでもある」と説明した。
違法薬物の依存症は「病気」である一方で、「犯罪」でもある。また、薬物依存症者には「病気」なのだという自覚がなく、治療につながりにくい。そのため、当事者や家族は、なかなかまわりに相談できず、孤立してしまうことが多い。
「薬物依存症という病気の現実を知ってほしい。そして、どうやって光に向かっていくのかをみてほしい。回復の光はある」と内谷さんはいった。