今年10月の消費税増税に伴い、軽減税率が導入されることで、消費者や事業者の間で「どういう線引きになるのか」と困惑の声が広がっているが、これとは異なる大きな変化が事業者側に訪れる。
2023年10月から、複数税率に対応した課税方式として、「インボイス制度」(適格請求書等保存方式)が導入される。これは、課税業者が税務署に納めるための消費税額を算出するための書類で、仕入業者から企業に交付される。
このインボイスの導入で、零細業者の廃業が増えるのではないかと懸念されている。たとえば、しんぶん赤旗は、財務省の影響試算で、約161万の小規模事業者が新たに年15.4万円の負担を負うことになると報じている。
なぜこのような懸念が出てくるのか。佐原三枝子税理士に聞いた。
●小規模事業者が免税事業者として、納税せずに済んでいた
「消費税率アップと軽減税率の導入は前哨戦にすぎません。おそらく消費税法改正の本丸は、4年後に迫ったインボイス制度の導入です」
なぜ本丸といえるほどの影響があるのか。
「これまで、課税売上1000万円以下の事業者は免税事業者となることができました。
病院や学校法人といった消費税の非課税売上が大きな特殊な事業者を除くと、免税事業者には、町の小さな店舗や一人で起業したばかり人といった方が該当するでしょう。
例えば、起業したばかりのコンサルタントの方が大企業と取引できたとしましょう。売上は108万円で振り込まれますが、ここには8%の消費税が乗っています。ですが、このコンサルタントが消費税の免税事業者であれば、この消費税8万円を納税することはなく、単なる売上として頂戴することができます。
一方、コンサルタント料を支払った大企業は、自社の売上にかかった消費税(仮受消費税)から、この払った8万円の消費税(仮払消費税)を引いて納税額を計算します。
大企業は8万円の消費税を差し引いたのに、免税事業者(今回の場合、コンサルタント)は納税しないため、その消費税は国庫に入りません。このように、消費税が免税事業者の手元に残ってしまうことを益税問題と言い、ある試算によるとその額は数千億円にもなるともいわれています。
インボイス制度の導入によって、この益税を一掃しようというのが政府の狙いです」
●免税事業者が課税事業者に移行せざるとえなくなる
インボイスの導入によって、なぜ益税がなくなるのか。
「インボイスには取引年月日や取引内容に加えて、対価の額、消費税の税率、消費税額が明記されており、さらに事業者登録番号を記載します。インボイスが無ければ、購入側の会社は消費税を差し引くすることができませんし、この事業者登録番号を持っていない事業者はインボイスを発行できません。
先ほど説明したコンサルタントを例にすると、コンサルタントが事業者登録番号を持っていないと大企業は消費税を控除できないので『あなたとは取引しません』といってくるかもしれません。そしてコンサルタントは、番号取得のために、売上が1000万以下でも課税事業者になる必要があるのです。そうすると、納税することになり、今までより負担が増すことになります」
●免税事業者のままだと、小さく生きていくしかなくなる
大企業と取引せず、免税事業者のままでいられないのか。
「『大企業とは取引しないから大丈夫』とは思わないでください。例えば、町の小さなお花屋さんでも、会社から『お祝いのお花をお願いしたい』と言われた時に『うちはインボイスが発行できない』と伝えると、『じゃあ他で買うわ~』となるかもしれないのです。
番号を取得して消費税を払う事業者になるのか、それとも免税事業者のままで個人客のみを相手にして小さく生きていくのか、小規模事業者としては大きな決断が必要になります。
また、インボイスには非常に事細かな内容を記載する上に、税率が2種類あるため、その事務量の負担感は倍以上のものがあります。『当社は食品は扱わないので大丈夫』とはいきません。食品を売らなくても、食品を買うことはどんな会社でも必ずあります。そのインボイスを正確に会計ソフトに入力していく必要があります。とても手で集計できるものではありませんし、ソフトへの入力であってもかなりの手間がかかります。
レジシステムの入れ替えのみならず、経理も自動化を推進するなどの取り組みが必要です。中小零細企業ではITに詳しい人材に恵まれていないことも多く、この点でも小規模事業者が取り残されていくのではないかと心配です。
とはいえ、消費税はリレーして最後は国庫に納める性質の税金です。消費税が誕生して30年以上が経過しました。このあたりでインボイス方式が導入され消費税の原則に立ち返るべきでしょう。
軽減税率の導入をタイミングに自動化を含めた経理のやり方を見直していただき、インボイス導入の時を期限として、事業の方向性を決める準備を今からしていただきたいと思います」