性暴力被害を訴えていたジャーナリスト伊藤詩織さんの勝訴を受けて、豊島区の沓沢(くつざわ)亮治議員が12月20日、自身のツイッターで「性交承諾書」を提案した。
「セカンドレイプではないか」などの批判を浴びている。
沓沢議員は「性交相手の男を、女性が社会的・経済的に攻撃できるという判例ができてしまいました。恋をして結婚したい男女にとって最悪な判決です」とツイート。
続いて、「性交事後訴訟から男性を守る目的で『性交承諾書』のフォーマットを作成してみました」との文言とともに「性交承諾書」の画像を公開した。
沓沢議員の「性交承諾書」は性行為の後に書いてもらうもので、「後日『合意無き性交』として判事にかけ、賠償金を請求することは決して行わないことに承諾する」と書かれている。
これに対し、ネットでは「女性に対する脅迫ではないか」「こんなものを書かせようとした時点で、同意が怪しい」などと批判が集中した。
この「性交承諾書」は法的に効果はあるのだろうか。濵門俊也弁護士に聞いた。
●弁護士が文面をチェックしてみたら…?
「この記事では、伊藤さんの裁判への論評ではなく、あくまでも『性交承諾書』に限って論じますのでご承知おきください。
まず、簡単に形式面のチェックをします。
『性交承諾書』という題名ですが、この文書が性行為に及んだ後に交わされることを予定したものであるとすれば、正確ではありません。
性行為に対する合意は、あくまでも行為前、又は行為時に必要なものであるからです。事後に承諾したとしても、強制性交等罪等の成否には影響を及ぼしません。
もしも、女性側が男性との性行為を『合意無き性交』だったとして、後日、民事訴訟で損害賠償請求をさせないことを目的とするのであれば、単に『合意書』(後述するような『不起訴合意書』)でよいのではないでしょうか。
ちなみに、題名を『損害賠償請求権放棄書』としてしまいますと、『本来不法行為責任を追及できたが(つまり、被害者の承諾なく違法に性行為を行ったこととなります)、あえて被害者がそれを放棄した』という意味となり、『性交承諾書』の作成目的に反することとなります」
●「無理やり承諾させた」という疑念が生じる可能性
他に気になった点は?
「『判事にかけ(る)』という日本語はありません。善解すると『裁判にかけ(る)』ということでしょうか。『甲乙』をせっかく使用しているのに、1度しか出てこないことも気になりますね。
また、『賠償金を請求することは決して行わないことに承諾する』と書かれていますが、性行為に及んだ者(主に男性を想定)が、『賠償金を請求しないでほしい』と申し向けたことに対し、被害者(主に女性を想定)が承諾を与えたという意味合いになってしまいます。
その場合、男性が女性を無理やり説得するなどして承諾させたのではないかという疑念が生じます。ツイートにある目的を達成するためには、『相互に合意した』といった程度の表現を採用すべきです」
●「不起訴の合意」がある場合、民事訴訟は困難に
では、形式を整えたとして、この「性交承諾書」の法的拘束力は?
「訴訟契約の一つとして、民事訴訟を起こさないという『不起訴の合意』があり、適法であると一般的に解されています。
その意味においては、(題名はおくとして)『性交承諾書』に法的拘束力はあるといえます。
実際に性行為に及んだ後、どのような状況で『性交承諾書』をお互いに交わすのかを想像するのはかなりシュールですが、実質的な内容が『不起訴合意書』とすると、お互いの署名捺印があるとすれば、後日、女性側で『無理やり書かされた』と争うことは相当困難となります。ただし、この文書では1人分の署名捺印欄しかありませんね」