苦しい時も喜びの瞬間もあった。背番号23の胸にさまざまな思いが去来する。その目はうっすらと涙がにじんでいた。九回1死一塁の攻撃。3球目の146キロを捉えた藤田の打球は、右翼手のグラブへ収まった。
「こんな僕にも関わらず、鳥肌が立つような声援が僕の力になっていた」。総立ちの観客から耳をつんざくような「藤田コール」。ヘルメットを取って頭を下げ、泣き崩れそうな顔で一塁ベンチへ戻る。今季限りでの引退を決断したチーム最年長、41歳の4342打席目だった。
近大から2005年にドラフト4位で横浜(現横浜DeNA)に入団し、12年途中に楽天にトレード。「ベイスタースで優勝したい、レギュラーを取りたい。その思いがかなうことなく、悔しい思いをして、必ず活躍してやると心に誓った」。その仙台で日本一を経験し、ベストナインを2度、ゴールデングラブ賞を3度獲得。円熟味を増して10年ぶりに帰ってきたこの2年間は「横浜に対しては本当に変わらない愛がある」と語る。
正確無比な捕球に流麗なスローイング。何より周囲を和ます笑顔がピカイチだった。横浜で始まり、横浜で終わるプロ野球人生。「ベイスターズのユニホームで引退できる。こんな幸せなことはありません。19年間、本当にありがとうございました」。さらばハマの牛若丸、その勇姿はファンの心の中で生き続ける。
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