10年ぶりの帰還を、青に染まったスタンドが温かく迎えた。
4月15日、横浜スタジアムで行われたヤクルト戦。39歳の藤田一也内野手は1点を追う八回無死、代打で登場した。
スタジアムDJが高らかにその名を告げると、本拠地での今季初出場を待ちわびたファンからひときわ大きな拍手が送られた。
熱気に後押しされた藤田は、追い込まれながらもヤクルトのセットアッパー、清水のフォークを流し打ち。左前で打球が跳ねると雄たけびを上げ、「いい雰囲気の横浜スタジアムで打席に立てて、今シーズン初ヒットが打てて良かった」。総立ちで喜ぶベンチを見て、白い歯がこぼれた。
「球団には彼の人柄を含めて多くの藤田一也ファンがいる」。昨年12月の入団会見に同席した三原一晃球団代表の言葉だ。まさしく待望の復帰だったが、1軍スタートの春季キャンプでアクシデントが襲った。
左ふくらはぎの張りで、キャンプ中盤から2軍に合流。初日から打撃投手の三浦監督相手に快音を響かせるなど、気合十分だった。ファーム合流直前の取材では、「張り切り過ぎました」と落胆を隠さなかった。ただ指揮官は「心配していない」と強調していた。
現役時代を共に過ごしたベテランへの揺るぎない信頼。その理由を垣間見たシーンがある。同一カード勝ち越しが懸かった4月17日のヤクルト戦。同点の八回1死満塁、三浦監督は代打で起用した。
結果は二ゴロ。藤田は一塁に頭から滑り込んだ。セーフなら勝ち越し。だが、わずかに及ばず併殺となった。茶色に染まったユニホームは指揮官の「藤田で勝負した」という言葉を表していた。
楽天で2013年に正二塁手としてパ・リーグ制覇と日本一に貢献した。経験の還元が期待される藤田は「(若手らの)ライバルとして戦うことでチーム力が上がってくれたら」と話す。
その背中こそが、優勝を知らない若きチームの模範となっていく。
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