まぶしさを軽減
プロ野球やメジャーリーグのデーゲームで、選手の目の下に「黒いもの」がついているのを見たことがあるだろう。その「黒いもの」が何という名前で、どういった効果があるかご存じだろうか。
そもそも貼っているのか、塗っているのか……。どんな効果があるのか、オシャレなのか……。しらべてみると、気になる“黒いアレ”の正体は、『アイブラック』と呼ばれるものだということが判明した。
目的は、目の下を黒くすることで「太陽光の反射によるまぶしさを抑える効果」を得ること。通常、太陽光が顔に当たると、出っ張っている頬の部分で光が反射する。その際に頬の上部で反射した光が目に入ると、よりまぶしさを感じてしまうのだ。
しかし、目の下を黒くすることで、黒い部分が太陽光を吸収して反射を抑え、まぶしさを軽減させることができる。日差しのきついデーゲームでは、光の反射によってボールを見失ってしまうことも少なくない。それを防ぐために、アイブラックを使用している選手がいるのだという。
どちらかと言うとメジャーリーグの試合や、日本でも助っ人外国人選手が使っているのをよく見かけるかもしれない。これは外国人の方が日本人よりも顔の彫りが深く、頬で光が反射しやすいという事情がある。
また、メジャーは屋外球場がほとんどで、現在使用されているスタジアムではトロピカーナ・フィールド以外はすべて屋外(もしくは開閉型)。これもメジャーでアイブラックを使っている選手を多く見かける要因だろう。
日米で異なるアイブラック
日本でアイブラックを取り扱っているところはほとんどないのだが、「久保田スラッガー」の愛称で知られるスポーツメーカー『久保田運動具店』では、「アイブラック アイパル」という名前で販売している。そこで、アイブラックについて久保田運動具店の松山英則さんに話を聞いてみた。
松山さんの話によると、アイブラックはもともとアメリカで使われ始めたもので、(アメリカン)フットボールの選手が「炭を使って目の下を黒く塗っていたこと」がその起源だという。その後、野球選手も使うようになり、1960年代ごろには一般的に使われるようになったとのこと。
また、『アイブラック』には、目の下に貼る「シールタイプ」と、目の下に黒色のグリースを塗りつける「スティックタイプ」の2種類がある。メジャーでは、「炭を塗っていた」という起源の影響か、現在も塗るスティックタイプが主流で、日本でプレーする外国人選手も、慣れ親しんだ塗るタイプを使っているという。つまり、MLBは塗るタイプ、NPBでは貼る(シール)タイプが主流になっているようだ。
高校野球では使用禁止!?
思えばプロ野球で見かけることは多々あるものの、デーゲームがほとんどの高校野球で使っている選手は見たことがない。これについて松山さんに聞いてみたところ、NPBでしか使用がはっきりと認められていないからではないかという。
実際に『日本高等学校野球連盟』の「平成30年度高校野球用具の使用制限」を確認してみたところ、アイブラックについては言及されていなかった。つまり使用の可否についてはグレーの状態といえる。しっかりと明記されない限りは、恐らく使用する選手は出てこないだろう。
また、プロ野球であっても使用状況はバラバラ。チーム単位で購入しているケースもあれば、選手個人が購入して使っているケースもある。さらに「一軍ではチームで購入して使っているが、二軍では購入していない」といったこともあるそうだ。ただし、二軍の試合はたいてい昼間に屋外球場で行われるもの。能力を如何なく発揮させるためにも、二軍にこそ支給してあげるべきだろう……。
アイブラックの今後
松山さんによると、以前と比べてアイブラックの使用率が下がってきているという。サングラスの着用が増えてきたのがその原因なのだそうだ。
確かにサングラスも太陽光を軽減させる働きがあるし、物理的にその効果を実感しやすい。目の下に塗ったり、シールを貼ったりするのが面倒と感じる選手はサングラスを選択するだろう。
そうなればアイブラックの存在が今後どうなるのかと要らぬことを考えてしまうが、「恐らくアイブラックはこのまま使われ続けるだろう」と松山さんは考えている。というのも、サングラスのような大きなものを顔に装着する「違和感」を嫌う選手が一定数いるためだ。最近のサングラスは非常に優秀だが、装着するものである以上、プレー中にずれる可能性もゼロではない。
また、中にはサングラスとアイブラックの両方を併用している選手もおり、なくなりはしないと考えられているようだ。
試してみるのも一興!?
ちなみに、久保田運動具店で扱っているシールタイプの「アイブラック アイパル」は、600円程度で購入できる。神宮球場にほど近い東京支店では、同球場に行く野球ファンが購入することもあるそうだ。
それほど高いものではなく、アイブラックを貼ると「ただ者ではない感」も出るため、試しに購入してプロの気分を味わってみるのも一興かもしれない。
☆取材協力:株式会社久保田運動具店
参考:『日本高等学校野球連盟』「平成30年度高校野球用具の使用制限」
文=中田ボンベ(dcp)