今、日本に10億単位というケタ違いの資産をもった新しいタイプの富裕層が生まれている。彼らの多くはは資産家の生まれでも経営者でもなくエリート層でもない。彼らはどのようにして莫大な資産を手にしたのか。現代の富裕層を考察した『日本のシン富裕層』の著者、大森健史さんに聞いた。
コロナ禍でオンラインがリアルになった
新しいタイプの富裕層の中でも、ネット情報ビジネス型と暗号資産ドリーム型が、特に時代の申し子のようなシン富裕層と見られる。彼らが生まれ、これからも増えそうな理由を、大森さんは次のように分析している。
大森健史(おおもり・けんじ)
1975年生まれ。国際証券株式会社で資産運用のコンサルティングを担当。その後、留学・旅行業界を経て、ビザ申請や海外生活設計のアドバイザー業に携わる。2004年、海外移住や海外留学をサポートする株式会社アエルワールドを設立。相談実績は2万人を越える。10月に『日本のシン富裕層 なぜ彼らは一代で富を築けたのか』(朝日新聞出版)を上梓。
「まず、企業の終身雇用制度が崩れ、サラリーマンの副業が解禁された、これが大きな転機になっています。これまで副業禁止といっていたのに、副業で稼いでいいとなった。本業では稼げないことを会社が宣言しているわけです。すると、オンライン、SNSを駆使して自分の趣味や、やりたいことをやって、いわば自己表現を副業に結びつける人が出てきました。ここにコロナ禍です。オンラインの画面がイコールリアルと思わないとやっていけない時代になりました。オンラインがリアルに強制転換されるという、パラダイムシフトが起きたこともシン富裕層が生まれる素地になります」
これまでは海外移住先を決めるとき、海外の資産を買うとき、現地で現物を見てからでないと契約に至らなかった。何億もする買い物なのだから当然である。しかし、コロナ禍で海外に出て行けなくなった。投資家が「この物件、現地で見たいな」と逡巡している間に、外国人がどんどん買っていってしまう……という現実を見て、大森さんの顧客もオンラインの情報だけで決断するように変わっていったそうだ。この変化がシン富裕層の増加がどう関係するのか。というと、誰もが情報商材を売れるようになったことを意味する。
「コロナ禍が長引くにつれ、“情報商材”が無料で大量に提供され、本当にいいモノは売れるようになりました。情報商材にはいかがわしいイメージがあったと思います。たしかに今も玉石混淆ではありますが、コロナ禍を通してユーザーのリテラシーも向上し、きちんとしたものにはお金を払うようになりました。何万人とフォロワーがついたユーチューバーは、それまで無名の、普通の人が、オンリーワンの情報を提供することで、一気に億万長者になったわけです」
オンリーワンになるのは至難の業ではあるが、大森さんが注目しているのは「普通の人がスマホひとつでシン富裕層になれるチャンスが出てきた」ことだ。
どんなネタが、どんな人がバズるのか。それはわかったものではない。たとえば最近、ビールをガブ飲みしている女性ドライバーのSNSがバズっている。ただひたすら一人飯を食べているおじさんの動画に何千というフォロワーがついている。何が面白いの? と思わず二度見してしまう時点で、その情報は成功しているのだ。
「こうした人たちがこれだけで大金持ちになれるわけではありませんが、どこから引き合いがあるかわかりません。チャンスの芽はつかんだも同然」(大森さん)で、実際に億単位を稼ぐ“シン富裕層”が生まれている。
メタバースの進化と暗号資産の価値
暗号資産については、つい先日も最大手FTXの破綻ニュースが流れたばかり。しかし、暗号資産ドリーム型の人たちは、これまでも、「たとえ一時的に暴落しても、将来必ず価値が上がる」と信じつづけて資産を手にしてきた。
暗号資産ドリーム型の富裕層は今後も伸びると大森さんは見ている。その根拠として注目しているのがメタバースの進展だ。
「すでに仮想空間の中で土地の売買など投資が盛んに繰り広げられています。たとえば仮想空間の街の目抜き通りに有名人やインフルエンサーが引っ越してきたり、有名企業やリアル世界のスタバのような施設ができたりすると、土地の価値が跳ね上がります。投資目的で有名人が住んでいる家の隣のマンションを買う人もいます。仮想空間には現実世界と別の市場が出現しているわけで、その市場の通貨は暗号資産のほうが圧倒的に使い勝手がいいでしょう。
FTXの破綻で仮想通貨が暴落するのでは?と騒ぎになっていますが、ビットコインやイーサリアムについては、現時点でも2020年前半に発生したコロナパンデミック前の高値より今の方が価格は高い」
大森さんのアエルワールドでも、顧客からの入金を暗号資産で受け付けるようにした。「日本ではまだ暗号資産を使えるリアルな場が少ないので喜ばれています」と言う。
誰にでもチャンスがある時代に生きている
“シン富裕層”の人たちに学ぶ点は多いと大森さんは言う。
情報商材にしても暗号資産にしても、大儲けできる人は当然だが、ほんのひと握りに過ぎぎない。幸運の助けもいるだろう。
「特に、暗号資産ドリーム型の富裕層には途中で大損したり失敗を重ねてきた人が少なくありません。それでもトライ&エラーを繰り返し、失敗もしながら決断をして勝った人が富を手にするのでしょう」と大森さんは話す。そして、景気が悪い、先行き暗いと言われる日本だが、「『自分は富裕層になれるわけがない』という思い込みを一度捨ててみるべきだと思います。フラットな気持ちで、自分にできることがないか、真剣に考えてみる。思い込みから自由になり、挑戦できることを探し、決断する。これが私がシン富裕層”“の人たちから学んだことです」
大森さんのアエルワールドには、夫婦共働きのパワーカップル、30代〜40代も数多く相談に来るという。海外移住するには数億円の資産が必要になるケースが多い。しかし、「今は誰にでも資産形成するチャンスがある時代です」と大森さん。そこに気づいているかどうかが、“シン富裕層”への第一歩か。
取材・文/佐藤恵菜