筆者はテレビ通販が好きではない。なぜかと言えば、「この製品はこんなに優れているのにこんなに安い!」というアプローチでしか製品の魅力を伝えないからだ。
機能が優れているのは分かった。にもかかわらず価格が安いというのも(大抵はそんなに安価ではないのだが)、確かに大きなセールスポイントだろう。が、それらを凌駕する要素はないのか?
21世紀のガジェットにとって最も大事なのは、「思想の有無」である。
「なぜ、これはこのような形状なのか?」「普遍性を超えた先に何を見出すのか」を真剣に追求していないと、結局は製品の粗ばかりが目立つようになる。
逆にそのあたりを考えている製品は、意外な将来性に恵まれていることが多い。
それを踏まえつつ、今回は『PEBLWEAR』という製品について解説していこう。
そこにある「哲学」
スマホで音楽を聴いている時、その操作はどうするか?
スマホを直に掴んで画面に触って操作する……というのではいささか骨だ。そこでBluetoothに接続できるリモコンを使ってみよう。
『PEBLWEAR』について簡単に言い表わせば、スマホで音楽視聴するためのリモコンである。
が、その外見はまるで河原に転がっている平べったい小石のようだ。
要はタッチセンサー式のガジェットで、指を左右に滑らせれば前曲・次曲への移行、上下に滑らせれば音量を増減できる。再生・一時停止は掌で包むようにホールドする。
『PEBLWEAR』の機能を文章にした場合、書けることはそう多くない。しかし、そこには明確な「哲学」が見て取れる。
そもそも、この製品はなぜこのような形なのか? テレビのリモコンみたいに、複数のボタンが搭載されている設計でもよかったのではないか?
そんな疑問は、実際に『PEBLWEAR』を触った直後から少しずつ溶解していくはずだ。
いつまでも触っていられるガジェット
筆者がまず驚いたのは、『PEBLWEAR』の「触り心地」である。
筐体表面の程よいザラつきと、握り甲斐を感じられる程度の大きさ、そして何時間でも持っていたくなる絶妙な重量。そう、これはまさに河原の小石だ。
つい無意識に握ってしまいたくなる、あの不思議な物体である。
特に用がない時でも、『PEBLWEAR』の操作機能をオフにして両手で掻き混ぜるように触り続ける。
昔の西部劇でカウボーイがクルミを掌の中で回すシーンがあったが、それと同じようなものだ。
テレビのリモコンではさすがにこのようなことはできないし、やろうとも思えないだろう。そして、『PEBLWEAR』の開発者は意図してこの心地良さを製品に加えたのではないか……?
だとしたら、これはまさに「思想」が生きている証拠である。
「思想」を持った製品は生き残る
高度経済成長期の日本の工業製品に、確固たる「思想」を持っているものは決して多くなかった。
たとえば洗濯機なら「どれだけ汚れが落ちるか」「しっかりすすぎができるか」「全行程を終えるまでの所要時間はどのくらいか」という、誰が見ても理解できるスペックや特徴が最優先された。
欠点ですらも正当化してしまうほどの「思想」を求める消費者はあまりいなかった、ということでもある。
が、皮肉なことに2020年代の現在まで受け継がれる製品は、殆どの場合強烈な「思想」を持っている。
ホンダのスーパーカブが代表例だ。
開発当時のムーブメントだったエンジンの大型化は二の次にして、まずは親しみやすく飽きの来ないバイクを作る。
スカートを履いた女性でも乗りやすいようなステップスルーにし、面倒なクラッチ操作を省く設計にした(当時は女性がバイクに乗ること自体が珍しかった)。
エンジンはやたらとうるさい2ストロークではなく、静かで燃費に優れた4ストロークを選択。
スーパーカブには本田宗一郎の「思想」がふんだんに詰め込まれていたのだ。
『PEBLWEAR』は、現代のガジェットにしては珍しくボタン電池で稼働する。1年以上は交換する必要がないとのこと。
しかし、仮に電池切れを起こしたとしても即座に手放すことはないだろう。
それだけ『PEBLWEAR』に触れること自体が癖になる。これは大袈裟な表現ではない。
一度現物を間近で見れば分かると思うが、どうしても手に取って握り締めたくなるような形をしているのだ。
『PEBLWEAR』をただ単に「便利なリモコン」として設計していたら、それは紹介するに足らない前世代的な製品になっていただろう。
誰に対しても妥協しない盤石な「思想」があるからこそ、『PEBLWEAR』はこの形になったのだと筆者は解釈している。
長野発の製品
そんな『PEBLWEAR』を何となくズボンのポケットの中に入れて、その合間に今聴いている楽曲を変更したいと思った時。
ズボンの上から『PEBLWEAR』のタッチセンサー部分に指を乗せて滑らせれば、問題なくスマホを操作できる。
「単に便利」では後世にまでその名を遺す製品にはなり得ないが、それでも『PEBLWEAR』は便利なガジェットである。
そしてここまで書いてようやく打ち明けるが、この『PEBLWEAR』は長野県松本市の開発者が設計したもの。
我々の国、しかも首都圏でも中京圏でも大阪圏でもない地方都市から誕生した製品なのだ。
『PEBLWEAR』は応援購入サービスMakuakeで1万3,380円からの予約(製品1台)を受け付けている。
【参考】
この瞬間に、ベストな曲をベストな音量で。指先ひとつで操作するミュージックリモコン-Makuake
取材・文/澤田真一