最速163キロの剛球と、プロの評論家が「直すところがない」と評する華麗な投球フォーム。佐々木の最大の武器である長所を実現させているのが、日本人離れした身体能力だ。
その特徴を一言で表わせば、大きくて、瞬発力に優れ、しなやかであること。よく比較対象に挙がる大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)とよく似た特徴だ。
身長は190cm。成長過程にあるというから、まだ伸びる可能性があるだろう。50m走の記録は、高校時代にマークした5秒9だという。ちなみに、現在の日本球界で最速といわれる福岡ソフトバンクホークス・周東佑京のタイムが5秒7。両者とも手動による計測だろうから、正確なスプリント能力は推し量れはしないが、少なくとも佐々木がかなりの俊足であることだけは間違いないだろう。
なお1月に行なわれた球団の新人体力測定で、佐々木の太ももの筋収縮力を計測した順天堂大学の教授が「データ的には100mを10秒3で走るスプリンターと同等の反応を示した」と語っている。
その測定では、垂直跳びで73cmを記録。これは、NBA選手の平均値並みの優れた数値だ。また座位体前屈で21cmを記録。柔軟性にも優れている。大谷も肩甲骨の可動域が広く、両手をそれぞれ腰の位置に当てながら、両肘を身体の前方に持ってくるストレッチをよく披露していた。佐々木も全く同じ動きができるとか。また、佐々木は座ったまま両足を約180度になるまで開脚できる。
佐々木の投球フォームに欠点はなく、それは同時にケガをしにくいフォームだという意味。160キロを超える剛速球を投げ続ければ、当然、肘や肩の関節部分に負担がかかってくる。ケガをしにくい利点は、今後、試合での投球が続く時に大きく効いてくるだろう。
前出の体力測定ではプロ野球選手の平均値以下の数値も記録した。成長の余地を残しているともいえるが、今後、その高出力を受け止められるだけの体作りが必要になるだろう。来季以降に向け、週に1度先発マウンドに登り続けるスタミナ作りも求められる。
新人体力測定の計測データ
身長:190cm
体重:85kg
50m走:5秒9
垂直跳び:73cm
座位体前屈:21cm
上は、千葉ロッテマリーンズと提携している順天堂大学にて行なわれた、新人体力測定などの結果。短距離走者に匹敵するほど脚が速いほか、垂直跳びではNBAのプロ選手にも匹敵する73cmを記録。ポテンシャルの高さを見せつけた。
プロの技をじっくり仕込む千葉ロッテの育成体制
果たして佐々木は、いつ一軍のマウンドに立つのだろうか? 彼の育成方法に関して、キャンプの時点で井口資仁監督は「基本的には吉井(理人)投手コーチに任せています」と語っていた。
「一軍の試合で登板するまでに、具体的にどのようなステップを踏んでいけばいいのか……。その内容も共有していますし、日々、報告も受けています。ただ、大枠以外の細かい点は吉井コーチに一任する形ですね。どんなスケールのピッチャーに成長してくれるのか、僕自身も楽しみです」
マリーンズは現在、球団を挙げて佐々木を中心とした若手選手の育成に取り組んでいる。井口監督によると「スタジアムだけでなく寮の食堂にも栄養士が常駐し、食事を管理している」という。
また、今年から順天堂大学と業務を提携。ケガ予防だけでなく、日々の体調面に関しても全面的にアドバイスを受けることになっている。サポート体制は万全だ。
佐々木は一軍の石垣島キャンプ最終日となる2月13日に初のブルペン入り。そのまま一軍のオープン戦に帯同し、ブルペン登板を重ねた。3月に入り、ブルペンでの変化球を解禁。3月下旬には、一軍練習でバッティングピッチャーを務め、プロで初めてバッターとの対戦も経験した。確実に前へ進んでいる。
残念ながら吉井コーチが一軍までのステップの詳細を明かしていないので断定はできないが、今後は、紅白戦などでの登板を経ながら、開幕後に二軍戦で先発マウンドを踏むことになるだろう。実戦を通して細かい技術的な修正として、例えば、ストレートと変化球を同じ腕の振りで投げられているか。ランナーを背負った際のピッチングはどうか。そのあたりを確認することになるだろう。ほかにも投内連係の細かいサインプレーも覚えなければならない。
新型コロナウイルスの影響が収まり、無事に開幕を迎えた後に、令和の怪物が完全にベールを脱ぐ日を心待ちにしたい。
キャンプ開始からの投球ステップ
STEP 1:キャッチボール
STEP 2:ブルペン入り
STEP 3:変化球を投げる
STEP 4:打者を立たせて投球
STEP 5:二軍戦での登板(!?)
数mの距離でキャッチボールするところから始まった、佐々木の育成プログラム。ブルペン入り、変化球の解禁、そしてバッターを立たせてのピッチングと、吉井コーチによる指導の下、じっくり進められている印象だ。
取材・文/田中周治 撮影/藤岡雅樹(本誌)
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