「姑獲鳥」という言葉を見聞きしたことはあるだろうか。これは日本に古くから伝わる妖怪の名前であり、古書に登場したり浮世絵に描かれたりと、さまざまなかたちで登場する。現在ではあまり日常的には用いられないため、馴染みのない方も多いかもしれない。そこで、本記事では「姑獲鳥」について読み方や由来などを解説する。
姑獲鳥とは
はじめに、「姑獲鳥」の読み方や由来、英語での表現について見ていこう。実は姑獲鳥には2つの読み方があり、それぞれ異なる意味を持っている。
日本の妖怪、中国の怪鳥
「姑獲鳥」を「うぶめ」と読む場合は、日本に伝わる女性の妖怪を指す。姑獲鳥は夜中に赤ん坊を抱いて現れ、道行く人に子どもを抱くよう頼み、抱くと返せと追いかけてくるという。他にも、姑獲鳥の子を受け取ることで裕福になる、怪力を授かるなど、地方や時代によってさまざまな伝承がある。
一方、「こかくちょう」という読み方をする場合は、中国の伝説上の怪鳥を指す。「こかくちょう」は、夜間に飛行し、他人の子どもを奪い去り、自分の子どもにする。また、夜中に干された子どもの衣服を見つけるとそれに血の印を付けたり、尿をかけたりするという。子どもはそれが原因で「無辜疳(むこかん)」という病気にかかり、やがては亡くなってしまうと言われている。
由来は「産女」
「姑獲鳥」は、難産により亡くなった女性が妖怪となったものとの説がある。日本では古くから、亡くなった妊婦をそのまま埋葬すると未練が残り、子への執着の念から化けて妖怪となると信じられていた。そのため、多くの地域で子どもが産まれずに妊婦が亡くなった場合は、お腹から子どもを取り出して抱かせて葬るべきだと伝えられてきたという。
姑獲鳥はもともと「産女」と表記され、平安時代頃からその伝承があった。江戸時代に中国の「こかくちょう」としての姑獲鳥の伝承が日本へ伝わった際、こちらも亡くなった妊婦が化けたものとされていたことから、元来日本で伝えられてきた「産女」と混同されるようになり「姑獲鳥」も「うぶめ」と読まれ、同じものとして扱われるようになったようだ。
英語では「Ubume」
「姑獲鳥」は日本独自の概念のため、これと同じ意味を持つ英語はなく、そのままローマ字で「Ubume」と表記される。また、姑獲鳥は亡くなった妊婦の妖怪であることから、「Yokai of a pregnant womam(妊婦の妖怪)」、「ghost of a woman who died in pregnancy or child birth(妊娠中や出産時に亡くなった女性の幽霊)」、「The spirit of a deceased pregnant woman(亡くなった妊婦の魂)」とも表現可能。なお、中国に伝わる「姑獲鳥(こかくちょう)」は、「child-snatching bird(子どもを連れ去る鳥)」などと表される。
姑獲鳥がタイトルに使われている作品
最後に、「姑獲鳥」がタイトルに使われている作品を紹介する。気になる作品があれば、ぜひチェックしてほしい。
姑獲鳥の夏
『姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)』は、京極夏彦による長編のミステリー小説。中禅寺秋彦(ちゅうぜんじあきひこ)という古本屋を営む陰陽師が、憑物を落として事件を解決していく『百鬼夜行シリーズ(京極堂シリーズ)』の第一弾だ。
久遠寺産科医院の娘、久遠寺梗子が20ヶ月も身籠ったままだという奇妙な噂を聞いた関口巽が、この謎を解き明かすため、友人である中禅寺秋彦の営む古本屋、京極堂を訪れるところから物語が始まる。久遠寺梗子の夫の失踪、立て続けに発生した赤ん坊の死、憑きもの筋の呪いなど、久遠寺家に関係するさまざまな事件について、探偵・榎木津や刑事・木場らを巻き込み、ストーリーが展開していくというあらすじだ。
この作品は、2005年に映画化され、動画配信サービスなどでも視聴可能。さらに、2013年には漫画化もされ、同シリーズの二作目となる『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』はアニメ化もされている。
ゲゲゲの鬼太郎
水木しげるの代表作『ゲゲゲの鬼太郎』の中でも、『姑獲鳥(うぶめ)』というタイトルのストーリーがある。この話では、姑獲鳥は鳥のようなビジュアルで描かれており、赤ん坊をさらうという特性を持っていることから、赤ん坊を抱かせようとする日本の伝承の「うぶめ」ではなく、子を奪う中国の「こかくちょう」の特徴を強く引いたキャラクターとして登場する。
造形作品
日本の造形作家である相蘇敬介氏が『姑獲鳥(うぶめ)』というタイトルの造形物を製作している。大きな人間のような頭に見開いた丸い目と横に裂けた口、小さな胴体、鳥のような足を持ち、黒く長い髪を垂れ流した独特の風貌を持つ作品だ。妖怪の姑獲鳥からヒントを得た作品で、女性のような頭部に鳥のような足を持っていることから「うぶめ」と「こかくちょう」の両方のイメージが取り入れられている。
文/oki