昨年からのコロナ禍により、学校の休校や在宅勤務、外食を控えるといった状況から、家族の食卓環境にも変化が起きた。子どもを含めた家族一緒に食事を取る機会も増えているのではないだろうか。そのような中、「食」を通じて知育を行うというのも良さそうだ。
そこで今回は、AMI公認国際モンテッソーリ教師で親子料理研究家のいしづか かなさんに、「食」を通じてモンテッソーリ教育を行う方法を聞いた。
子どもとの食事時間が増加
パルシステム生活協同組合連合会が2020年12月23日(水)~2021年1月4日(月)に、「コロナ禍における食卓の変化」をテーマに、3歳以上の未就学児から大学生の子どもを持つ国内20~60代の男女を対象にアンケート調査を行った。
「コロナ禍の前と比較して、家族との夕食の際、食卓にそろう人数に変化はありましたか?」という質問に対し、約2割が食卓にそろう家族の人数が増えたと実感していることが分かった。
家族そろって夕食を食べていた曜日をコロナ禍前後で比較すると、全体として平日すべての曜日で増加していることが分かった。
また、「コロナ禍の前と比較して、家族の食事での会話において頻度に変化はありましたか。」という質問に対して、「会話がとても増えた」「会話が増えた」の回答は全体で17.6%となった。男女別では、男性(パパ)が20.0%、女性(ママ)が15.2%と、一般的に平日の夕食を一緒にする機会が少ない男性(パパ)に、高い傾向がみられた。
コロナ禍を受け、平日の夕食も家族みんなでとる機会が増え、会話の頻度も増えたようだ。
このような中、家族みんなで食卓を囲む際に、子どもに食育を行う良い機会となると考えられる。
モンテッソーリ教育の観点からの食育とは?
食を通じて子どもに良い教育をしたい。そう考える親にとって、一つのヒントとなるのが、モンテッソーリ教育を取り入れた食育方法だ。
AMI公認国際モンテッソーリ教師で親子料理研究家のいしづか かなさんは、モンテッソーリ教育を取り入れた親子料理教室を開講している。
モンテッソーリ教育とは、20世紀初頭にローマで働いていた医師のマリア・モンテッソーリ博士によって考案された教育法で、モンテッソーリ教育は、日本の幼児向けの教育機関などでも取り入れられている。いしづかさんは、モンテッソーリ教育について次のように話す。
【取材協力】
いしづか かなさん
AMI公認国際モンテッソーリ教師 親子料理研究家
「子どもの食で心・体・頭を育む!」モンテッソーリ教育の視点を生かした親子料理教室を主催。そのほか、食育講座等大人向け講座・レシピ開発・監修事業の実績を持ち、SNSでも子どもの食環境整備のため発信中。
https://www.instagram.com/dekitayo_montessori/
「モンテッソーリ教育とは、子どもが持っている発達欲求に寄り添うことで成長を助けることを目的とした『自律を促す教育』です。自ら考え、行動し、必要なときには人と手を取り合いながら平和な世界を築くための教育として誕生しました」
そのモンテッソーリ教育を取り入れやすいのが、「食」の分野だという。
「その教育のベースとなる発達欲求を満たすこと、子どもの『やりたい』気持ちを満たすのに、『食』はぴったりなのです。素材を買う、素材を見て触れる、匂いを嗅ぐ、手を使い切ったりつぶしたりする、配膳、食を囲んだ会話、噛んで味わって食べる。『食』という一つの言葉の中には、子どもの心・体・頭を育む要素がたくさん入っています。
さらに『食べる』だけではなく、食べ物はどんな風にできるのか、という流れを知ることで、命の恵みをいただく感謝の心を育みます。食を通し、自分の欲求を満たすことと同時に、他人と社会と自然とつながり、調和していく力を育むことができる活動が“モンテッソーリ的な食育”です」
食を通じたモンテッソーリ教育~おうちでできる、はじめの一歩
食を通じてモンテッソーリ教育を行うというのは、具体的にどんなことをすればいいか。はじめの一歩として2つのアプローチ法をいしづかさんに教えてもらった。
●食材に触れること
「はじめの一歩としておすすめしたいことは“食材に触れる”ことです。買い物に子どもと一緒に行くこともいいですし、買ってきたものを片付ける、お手伝いをしてもらうのもいいと思います。おままごとの食材と同じものを出して、見せてあげることからはじめてもいいですね。本物の素材に触れ、色や形、香り、触った感触を知ることは五感をフル稼働させてくれます。
0~3歳の頃は、感覚的な体験がとても心地よく楽しい時期! たくさんの感覚刺激は五感だけでなく、心も満たしていきます。
そして2歳半を過ぎる頃から言葉を覚え、それまでに体験してきた感覚が整理されていく時期に突入します。この時期には、これまでに経験した『冷たい』『重い』などの感覚体験と言葉が結びついて知性を築いていくので、まずは『素材を感覚で知る』ことがとても重要なのです」
●食材の丸ごと買い
「さらに学びを深めるためには『食材の丸ごと買い』をしてみましょう。野菜や魚など、食べやすく切られた状態ではなく、素材の全体がわかるものに触れることが大切です。キャベツは丸ごと大きな球状になっているからこそ『葉をめくってみたい』という好奇心が駆り立てられます。重さも、質感も、実際に触ってみて初めて『その物』を知ることができます」
「食材に触れさせる」「食材を丸ごと買う」というのは、どちらも日常的に簡単にできること。ぜひ取り入れてみよう。
「このように、食材に対しての知識を持つことにより、料理への興味につながることはもちろん、食事の中に現れる素材にも親近感を持つことができます。食事を楽しく食べるためにも、『食材に触れる経験』を大切にしてみてください」
子どもと一緒の食事の最中に、話のネタが尽きたときも、食育を意識してみるのもよさそうだ。
取材・文/石原亜香利